失格教師とS商の容疑者
「どう? ヤル気出てきたっしょ? そこで見てもらいたいものがあるの」
自前のスマホを突いて操作する。
「二味ちゃんとカワセミのLINEから、身元を突き止めるヒントがあるんじゃないかなー、って」
「コピーしてたのか」
そういえば、二味のLINEの文章を見た時、漠然と違和感を感じたことを思い出す。
カワセミ:8日K町の510だけどよ。ノルマ300万な。
カワセミ:オイまだパタプラもできねーのか。不漁だったらテメーらに払わすからな!
カワセミ:返事しやがれ。テメーら責任は抱き合わせだからな! 山ん中に捨ててくぞ。
カワセミ:ぶっ殺すぞ。
<5月14日 12:50>
文章を眺める。こうやってカワセミの文章だけ抜きだしてみると、改めて心当たりがある言い回しだ。
「もうちょっと類例が欲しいな」
推論は出来つつあった。捨見はしばし逡巡した後で、
「あとコレ」
別のやり取りを見せた。
カワセミ:ハンセーしたか? 俺に逆らうと居場所なくなるぞ。
■■■:はい。ごめんなさい。私が悪かったです。
カワセミ:なら、今後はオレの指示に逆らうなよ? またぶん殴るからな! テメーにアタッチメントはねえ。
■■■:また仕事紹介してください。お金が必要なんです。
カワセミ:よし、また日時を指示する。
■■■:どこでやる予定?
【――――】
カワセミ:メンツ確保できたから、次は呼ばねー。
■■■:そんな。
カワセミ:ペナルティだ。ザマみろ。前と同じメンツだ。2と9な。
カワセミ:その次に呼んでやるよ。
■■■:さすがリーダー。
カワセミ:おー、ようやく分かったか。オレ様はメンターなんだからもっと敬えや。
カワセミ:この前24されそうになったときもよー。オレが身体を張って――
「なんだ? カワセミの会話記録がまだあったのか?」
LINEの相手の名前は潰してあった。これは怪しい。
「他の生徒がナイショでくれた。名前書かないのを条件に」
「ふーん……ま、いいか」
納得いかないが、出処は教えてくれそうにない。
「2と9ってのはひょっとしなくても、二味と久里か」
「でしょうねー」
ってことは、LINEの主は二味でも久里でもないカワセミの関係者、言ってしまえば共犯者ってことになる。
まさかコイツが?
文章のやりとりを確認して、肝心の違和感の正体が分かった。
「カワセミは、教師だ」
断言した。
「えっ、マジですか?」
なぜか飛び出る敬語。
「カワセミが所々使ってる変な言葉、学校用語なんだよ。パタプラはパターンプラクティスの略語。抱き合わせは1つの時間で2つ以上のやることがあること。居場所は落ち着ける場所。アタッチメントは愛情。メンターは指導者(助言者)」
どれも教師が学校内でのみ用いる言葉で、なおかつ他の業種で使ってるのを見たことがない。
「本来の意味と若干ズレてるから、カワセミが学校用語を使ってるの間違いない」
「つまりカワセミは、S商教師ってワケ?」
今までの情報からそう推理した。
考えてみれば、カワセミが生徒、って可能性は薄い。未成年の生徒では、行動に制約が多すぎて難しい。
「大人に絞って考えてみると、臨採か正教員に絞れそうだ」
事務員は学校に勤務こそしてるものの、生徒に直接かかわる機会は少ない。
非常勤は授業のみなので、生徒の情報はあまり手に入らない。
「いーじゃんいーじゃん」
「つっても、四六時中忙しい教師が強盗先の金回りまでどうやって調べてるのか怪しいもんだがな」
別動隊だか共犯者だかがいるのかもしれないな。
「で、残りはいかほど?」
手早く計算する。
「校長教頭養護教諭含めて40人だな」
「うわあ。教師多すぎない?」
これでも深刻な人員不足なんだぞ。というのはズレた反論か。
「これはもう、センセの独壇場ね」
あとよろしく、と捨見は肩を叩いた。徹頭徹尾、頭を使う気はないらしい。
【5月12日(金) 12:24】
日々の業務に追われつつ、俺は「カワセミ探し」を模索する。捨見の話では、カワセミはS商生にもかなり幅広く声をかけてるようだ。
ならば生徒と接する機会の多い業務でなければ難しい。
そうやって見当をつけられるぐらいには、アイツは連続強盗事件を調べてるってことだよな。まさか強盗に参加してないよな?
捨身が俺を仲間に引き込んだ理由がようやく分かった。最初からそのつもりだったんだ。これ以上絞るには、教師側の内情をよく知る人間が必要だ。
「しかし、教師の区分けってのは面倒だぞ」
一言に教師と言っても、様々な役職を兼任している。臨採の俺も、
「国語科教師」兼「2年C組副担任」兼「2学年行事担当」兼「進路指導部」兼「陸上部副顧問」兼「卒業アルバム委員」兼「入学試験実行委員」だ。
一人何役かしれない。
この中なら副担と進路指導部、陸上部副顧問は生徒と話す機会がある。
当然、副担任よりは担任、副顧問よりは顧問の方が段違いに機会は多い。機会の多さは忙しさに比例する。
ただ、担任が深く関わるのはクラスの生徒だけだが、どうもカワセミの勧誘は学年の垣根を越えてるように思える。
飯尾は今年卒業のOBで、二味と久里は3年生。1学年しか違わない。担任副担は1年から3年まで繰り上がって受け持つシステムだ。例えば俺は2年C組の副担だが、来年は3年C組の副担になる。
だから、飯尾と二味・久里の担任が同じ教師ということはあり得ない。
俺みたいに、学年跨いで授業受け持ってる教師も怪しいが……授業中に生徒の内情を探るのは無理があるか。ツルハシがクラスの授業中わいせつ行為をできなかったのと同じぐらいに。
学校業務で学年関係なしに活動するのは部活、進路指導部、生徒指導部が3強となる。保険医も入るか。試しにパソコンで生徒データを検索した。
「二味も久里も部活に所属してない。確か飯尾もそうだった。部活の可能性は消えたな」
保険医の可能性も切り捨てていいか? あのぐうたらで仕事を他人に投げる人が黒幕ってのはちょっと想像できない。
つまり、生徒指導部か、ここ進路指導部所属の教師が疑わしい。進路指導部は7名。俺と、外部者のジョブサポートティーチャーを除外して5名。
生徒指導室は8名。この中で、初任者の3人は除外してもよさそうだ。連続強盗は4月以前から起きてるし、右も左も分からない初任者が呑気に生徒の情報を集める余裕はないだろう。
「とりあえず、この方針でまとめてみるか」




