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失格教師と屋根裏の散歩者  作者: あまやどり
第四章 失格教師と体育祭地獄変
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失格教師と教師の事情

「九字塚先生はこっちの助っ人お願いして良いっスか? 小保津(おぼつ)先生に体育祭業務替わってもらうように言っときますから」

 ところが、口実が向こうからやってきた。巻代先生に両手を合わせて拝まれる。

「えっ、それは構いませんけど」

 ちなみに、小保津先生は生徒指導部所属の新任教師で、まったくもって頼りない。彼女が参加しても犯人探しは捗らないこと請け合いだ。


 この提案は俺にとって渡りに船だった。

「ここは名探偵の出番ッスよ」

 自分のことだ、と気付くのに時間がかかった。

「名探偵?」

「最近活躍目覚ましいじゃないッスか。タブレット盗難とか、落書き事件とか」

 巻代先生にいろいろ聴いていたので、俺が最近の事件に首を突っ込んでること知っているんだよな。

 しかし名探偵は過大評価だ。俺の手柄じゃないし、なんたって後ろ暗い取引の見返りだからなあ。

「ぶっちゃけこの事件、早く解決しないとヤバいッスから」

 既に教師の動向を(いぶか)しんでる生徒がいるからな。不祥事扱いになれば、校長の悲願である転勤が遠のくことになる。それは俺にとっちゃどうでもいいことだったが。

 判断1つ間違えば、臨採である俺の立場がピンチになるかもしれん。が、だ。逆に、早期解決出来たら憶えめでたいかも。

 計算を働かせる。

「分かりました。できれば体育祭が終わるまでに片付けましょう」

 どうなることやら、と密かに呟いた。


「センセ。こっちこっち」

 玄関の隅で手招きしてる捨見。

「抜け出してきたか」

 参加しなければならない種目があるわけではないから、抜け出すのは簡単だろう。できるだけ詳しく、ことの流れを説明した。

「とにかく教頭と校長がえらい剣幕だ」

「一番困るのはその2人だもんね~」

 うんうん頷く散歩者。

「管理能力を疑われるもんな」

 俺が独り合点していると、

「ブッブー! 考えが足りませぬ」

捨見は両手で大きな✕を作った。

「んー?」

「怒ってても教頭センセたち、通報しなかったっしょ?」

「おう」

「警察に通報してみ? 先生たちにも聞き取り調査が入るワケ」

 違いない。なぜ事件が発生したか、勤務態度などを全員事細かく調べられることになる。

「まあそうだろうが、別に犯人じゃないんだから素直に応じればいいだけだろ」

「“私は体育祭の時、こっそり先生方の机やカバンを漁ってました”って言うワケ?」

「……あ」

 “勝手に監査”が白日の下に晒されるのか。そうなったらおしまいだ。

「なんだ、結局教頭たちも自分の保身大事か」

 その点、保身が原動力の俺もあんまりえらそうなことは言えないが。

「地位が高いヒトは、墜ちた時の落差が大きいからね~」

 知った風な口を利く屋根裏の散歩者。

「受け身とるのが大変ってか」

 お前と関わるようになってから、学校の暗い部分ばかり見せられてる気がする。


 廊下に誰もいないのを見計らって、生徒指導室のドアを検分した。と言っても、鍵穴を覗き込んでいるのは捨見だが。

「前に言ってたバンピングって方法じゃないか?」

って言うか、俺はそれ以外の手段を知らない。

「違うみたいよ?」

 鍵穴にペン先を押し込んで、内部を確認している。

「バンピングはかなり乱暴な方法だから、内部のピンが傷だらけになっちゃうもの。でもそんな痕跡はないワケ」

 そんなものなのか。だがハンマーで叩いて強引に内部のピンを揺らすんだから、内部が傷だらけになるのは納得だな。

「調べたら一発でバレるのがバンピングの弱点ね~」

「ふーん」

 そもそも、バンピングには似たような形状の鍵が必要だ。生徒指導室の鍵は特殊で、生徒に入手の機会はそうそうない。

「廊下に誰もいなかったっていう事務長の主張は正しいのか。じゃあ、どこから入ったんだろう?」


 「現場を見てみたい」という捨見が要望する。

巻代先生に捨見のことをどう説明しようか、と悩んでいると、当の巻代先生が生徒指導室から出てきた。

「九字塚先生の業務を小保津先生に引き継いだことを、上役に報告してくるッス」

 おっとそれは重要だ。学校は徹底した上意下達主義だ。報告を怠ってると、事件を解決したとしても「なんで交代したこと黙ってたんだ!」と上司の不興を買う怖れがある。

「あれ? その子は?」

 捨見に目を止めて、不審な顔つきをする巻代先生。そりゃそうだ。何でこの場に生徒がいるんだ?って思うよな。

「え、ええと、この子もグラウンドで怪しい人影を見かけって言うので、聴き取りを」

「ああ。了解っス」

 はーっ、良かった。深く詮索されずに済んだか。

「じゃあこれ、預かっといてください」

 鍵束を渡された。保管ロッカーの鍵まである。

「いいんですか、これ?」

「一括で管理しといた方が安全ッスよ」

 巻代先生は目くばせをして出て行った。これで生徒指導室は無人だ。これで気兼ねなく調査できる。


 この一瞬の空隙が勝負だ。あと10分もすれば、手続きに走り回ってる他の生徒指導部の面々も戻ってくるだろう。


 改めて生徒指導室を観察してみる。入ってすぐ左手に机が並んでいた。机は全て仕切られている。

「なあにこの机の群れ。ネットカフェの個室スペースみたい」

「良い例えだな。ここが悪名高い“別室”ってヤツだ」

 警告を受けた生徒が、ここで数日ひたすら自習させられるスペースだ。仕切りは全てアクリル板で、ここに誰かが隠れてたら一目瞭然。

 別室の奥の壁に窓があるが、施錠されていることは確認済みだ。引き違い窓ってやつだな。


 中央に教師達の机。右端に応接用のソファ。件の貴重品保管ロッカーは、本来右端に置かれていた。高さ100cmほどで車輪付きなので、動かすのは容易だろう。

「入るの初めてか?」

「さすがに、職員室や生徒指導部や進路指導部には防犯装置ついてるもの」

 

 逆を返せば、そういった「ガードの固い所」以外は一通り出入りしてるってことか。


 ロッカーは現在横倒しにされていた。俺たち教師は、机やイスを蹴るだけで厳重注意ものなのにな。

 ロッカーは散々にぶつけられたようだが、さすがに堅牢な造りで破られてはいない。生徒の貴重品も無事だ。

「え~? 開けられずに帰っちゃったワケ?」

 そこは俺もちょっと気になってたところだ。

「ちょっとやそっとド突いたぐらいで、ロッカーの鍵が開くわけないのにな。ここだけえらく手際が悪い」

 ロッカーの側面が凹んでるのも謎だ。何度も硬いものをぶつけたようだが、側面を殴っても開くわけがないだろうに。


 気配もなく入り込んだのに、ロッカー開錠ができなくて手ぶらで帰った。しかも大きな音まで立てて、犯行に気付かれている。なんだかちぐはぐな印象だ。

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