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失格教師と屋根裏の散歩者  作者: あまやどり
第三章 失格教師と謎の落書き
34/51

失格教師と散歩者の暗躍

キリの良いところまで載せたらちょっと長くなりました(/・ω・)/

 俺はこれまでのことを巻代先生に話した。捨見の存在と、生徒指導部と犬猿の仲である毒島の名前は伏せておいたが。

「――というわけで、どこかの運動部が脱法ハーブをやってて、その内輪揉めが原因じゃないかと思ったんですが」

 真剣に聞いていた巻代は、途中何度も頷いた。

「ハーブやめろ、のメッセージは“字抜き遊び”ッスね。3年の生徒たちがやってるのを見たことがあります」

 裏付けが1つ取れたか。

「で、どの運動が怪しいかってことなんですが……」

 様子を窺いながら切り出す。

「「男子サッカー部」」

 巻代先生の声と重なった。

「大会が近い。部員が緩い。何より、顧問が“あの”木林先生ッスからね」

 根拠を述べたが、俺も同じ考えだった。


 落書き犯の焦りようから、大会の近い部活ではないかと踏んで部活の予定を調べてみた。すると、ダンス部と男子サッカー部がヒットした。

 部活に熱心でないS商では珍しいが、ダンス部は強豪。だが、普段体育館を練習してるので除外できる。


 対して男子サッカー部は贔屓(ひいき)目に言って「まあまあ」、率直に言って「さんざん」な戦績。少々緩い部活だ。それが最近は、部室に集まるだけでボールにさえ触れなくなった。ことあるごとに手を抜くキバヤシが顧問になったことが災いしたな。


「部長を呼んでみましょう。九字塚先生も同席お願いしていいッスか?」

「俺も、ですか?」

 意外な提案に驚く。本来であれば、生徒の不祥事は生徒指導部主導が原則であり、進路指導部の俺の出番はない。

「俺1人だと又聞きになっちゃいますから、細かいところでボロが出るッスよ」

 そう言われては引き受けるしかない。タブレット盗難の件を生徒指導部に丸投げしただけに断れなかった。

「分かりました」

「まず部長を呼び出します。多分それで解決ッスよ」

 他の生徒指導部教師に内線を指示する。

「どうしてです?」

 巻代先生は楽観視していた。

「きっと連中、“悪いことしてる”って自覚がないんっスよ。それを教えてやったらベラベラ喋りますって」

 なるほど。S商の生徒は、良いことと悪いことの境界線が引けない生徒が多い。


 じきに生徒が1名入ってきた。運動部にしては姿勢が悪く、ヘラヘラしている印象を受けた。

マウンドよりも、コンビニの駐車場で駄弁って時間を浪費してるタイプに見える。

矢口(やくち)よ、サッカー部で脱法ハーブが流行ってるって噂になってるんだがな」

 何も前置きもなく、巻代先生が切り込んだ。おいおい、探り合いなしかよ。

 隣でやきもきする。証拠もないのにとぼけられたら追及をどうするか。など考えていたのだが、杞憂に終わった。

「あ、バレちゃったカンジ?」

 部長は実にあっさり認めた。その後もペラペラ喋り、こっちが言葉を尽くして追及する余地などどこにもなかった。

 巻代先生の判断が正しかったわけだ。さすが生徒指導部のエース。餅は餅屋だ。



【5月9日(火)17:00】


「――で、どーなったの?」

 俺は捨見と“別荘”で会っていた。

「ほぼ解決した。男子サッカー部のメンバーに、脱法ハーブにハマったヤツが何人もいたらしい」

 「何人も」どころではなく、実際にはほとんどが脱法ハーブをやっていた。だが中毒になってるわけではなく、流行りのゲームをやっている程度の感覚だったようだ。

「モラルが低い連中が集まると、加速度的に頭が悪くなるんだよな」

 これまで何度も経験してきたことだけどな。親の言う「友だちを選べ」はあながち間違いではない。

「ケーサツには?」

「家探ししたわけじゃないから、証拠はない。自供だけだからだんまり決定だな」

 逆に学校側が『自宅にハーブがあるなら、サッサと処分しろ』と暗に伝えたフシがある。

「学校ってキタナくてナマグサいわねー。清純派のアタシにはついていけないわ」

「身体の95%が露出してる水着着てるヤツに言われてもな」

 今日も捨見はストリングビキニを着ている。


 ともあれ「ハンザイシャ」は捨見のことではなかったので、俺としては胸のつかえが下りた気分だった。

 サッカー部顧問のキバヤシが、管理責任を問われて大目玉を食ったが、概ねどうでもいいことだ。

「非行ナシ事案(無罪)ってヤツ?」

「ああ。学校はこのままウヤムヤにしちまうつもりだろう。はしごを外された形の警察には同情する……までもないか」

 警察も、元よりやる気はなかったようだしな。


「落書き犯の特定はできたワケ?」

「それもぼんやりと分かった」

 タブレット盗難の時に、捨見は「犯罪は非日常の行為だから、かならず犯人は不自然な挙動をしている」って言ったが、あれは至言だったな。

「きっと副部長でゴールキーパーのあいつだ。って言うか、ソイツ以外全員葉っぱやってたからな」

 生真面目で、部活でも浮いた存在だったようだ。副部長もゴールキーパーのポジションも、なり手がなくて(動きがなくてモテないから)押し付けられたものらしい。口下手で、真面目だがコミュニート能力がなさそうな生徒だった。

 ④孤立した衛星集団、という俺の読みは的を射ていた。


「俺も立ち会わせてもらったが、聞き取りのとき汗ダラダラで明らかに挙動不審だった」

 慎重だが、肝っ玉が小さいタイプなんだろう。

社会に出れば苦労するタイプだ。

「詰め寄れば“完落ち”しただろうけどな。これまた見逃された。こいつも証拠ないしな」

 生徒に犯罪者が出たら、結局は学校側の評判ダウンになるだけだ。「犯人を特定して、公にせず」が学校側としてベストな結果。

……教育機関がそれでいいのか?

「“証拠をガッコーが探す気がない”でしょー?」

「まあな」

 サッカー部そのものに罰が下ったので、コイツ1人の責任には言及しないことにしたようだ。


「防犯カメラの存在を後で知って、真っ青になってたってさ」

 自分の犯行が映ってると思ったんだろう。目の下にクマ作ってやがったから、不安で夜も寝られなかったんじゃないかな。

「あのカメラ? ダミーなのにね~」

「そうそう……なんで知ってるんだよっ?」

 そのことは捨見には黙っていた。どこかで脅しに使えるかも、とか画策していたのに。

「あんなの子どもダマシじゃない。本物の防犯カメラは金属製ですのよ。あんなプラスチック製じゃないワケ」

 後で確認したら、金属製のダミーカメラもあるにはあるが、値が張るので買えなかったそうだ。

「いつもLEDが点滅してるし、屋外型なのに防水仕様じゃないし、アンテナもついてないもの」

 屋外防犯カメラのLEDは点滅しない仕様。ダミーは威嚇の意味合いが強いので、わざと点滅させて目立つようにしている。らしい。

 

 しっかし「子ども騙し」ってもな。マシンガンみたいにダミーと本物の区別が出てくる子どもなんて嫌だ。

 鍵以外にも、いろいろ詳しいことはあるらしい。


「なんにせよ、部員の非行は、シュートみたいにうまく止めることはできなかったわけだ」

 ソファに寝転がって、缶コーヒーを飲む。一面空という光景は、思いのほか解放的な気分になれた。

「ウマいこといったつもり~? それより、ソファ返してよ」

「あー無理。ちょっといま手が離せない」

 立ち退きを拒否する。

「手が離せないって、コーヒー持ってるだけでしょ」

「お前だって宿直室から立ち退かないだろうが。それにいまはサービス残業中だ。サボっても俺の勝手」

 結局、調査に費やした分のしわよせが来て、こうして残業する羽目になったのは甘んじて受け入れるしかなかった。

「アタシのソファ!」

 捨見が主張する。

「あーここいいわー。俺の別荘に指定しよう」

「アタシの別荘!」

 まったく、働くのがバカバカしくなってくる陽気だ。



【5月9日(火) 19:00】


 俺の中で沸き上がった疑惑は、日を追うごとに膨らんでゆく。

「えーっと」

 進路のパソコンを起動した。生徒一覧を呼び出して、捨見の写真を出す。

 写真の人物は、俺の知るところの捨見で間違いない。が、それを疑っているのではなかった。

「えっと、このデータのプロパティを選択して……」

 岡先生に教えてもらった操作をする。


作成日時   20××年3月28日

更新日時   20××年4月23日

アクセス日時 20××年4月23日


「……やっぱりか」

 データを作成した日時と上書きされた日時を確認して、深いため息を吐いた。

 何者かが、このデータにアクセスしている。



【――――】


カワセミ:イイオのバカが捕まりやがった。パニック起こしやがって


ステミ:リーダーピンチ?


カワセミ:バカ。使い捨ての手下に身バレするようなこと喋るかよ。手は後ろに回らねーよ


ステミ:さっすが♪


 とかおだててるケド、なんとなく、カワセミは小心者な気がする。根が小者って言うか。内心ビクビクかもしれない。


カワセミ:これだから元S商生は使いものにならねえ。プー太郎になったっつーから声かけてやったのに


 いつもより饒舌なのは、やっぱ仲間が捕まって動揺してるからだろーし。


ステミ:アタシもS商生なんだけど。S商多すぎない?


 ()が冷静でない今がチャンス。思い切って突っ込んだことを訊いてみよう。


カワセミ:S商生はカネでホイホイ釣れるから手ごろなんだよ。バカで動かしやすいしな


 うーん? 「カネでホイホイ動く」とは限らない。知り合った2年生の糸亀ちゃんは、軽薄ではあっても乗ってこないハズ。逆に、こんなバイトをしないよう忠告してきたほどだもん。

 「バカで扱い易い」というのも疑問符の付く話で、限度がある。ジッサイ、飯尾は現場判断ができずに、むざむざと逮捕されてるしね。


ステミ:バカでもビビりだったらどーすんの?


カワセミ:ま、そりゃオレ様の人物鑑定眼が頼りって次第よ


 つまりカワセミ(コイツ)は、テキトーなS商生・元S商生に声をかけたのとは違くて、相手を吟味しているってことだ。


 しかし、ヨユーをなくしたコイツからは小者臭がぷんぷんする。経験の浅いクソガキが、薄っぺらい知識でネットでイキってるみたいな。

 「追い詰められたときに真価が出る」って言ってたのは九字塚センセだったか。


 同じS商なら、肝の据わった毒島とかもいるのに、彼らを避けてるフシがあるのよねー。暴走族がバックにいるのを知ってるみたいに。


 結論。カワセミはS商の内情にかなり詳しい。

 アタシとと父さんの判断は間違ってなかったってコトだ。

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