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失格教師と屋根裏の散歩者  作者: あまやどり
第三章 失格教師と謎の落書き
32/51

失格教師と散歩者の謀議

 グラウンドをぐるっと見渡す。まばらに生徒が運動してるが、あまり一生懸命ではない。部室でスマホをいじっているだけの連中もいるだろう。

 男子サッカー部は最近特に怠けがちだった。顧問があのキバヤシなので、ほとんど野放しだ。

 野球部も打撃練習はともかく、グラウンド整備やストレッチをやっているのを見たことがない。どの部活も弱小。ルールすら分かってない部員が掃いて捨てるほどいる。


 17時に部活を終えて進路指導室に戻る。生徒は強制下校の時間だが、教師はこれ以降も残って仕事。

 最近になって、

『毎週水曜日は、教師も17時に帰ること』

という規則ができたが、ぶっちゃけただの迷惑だ。水曜日の分の仕事を、他の日か家でやるだけのことなんだから。

 教師は月給ポッキリの「定額働かされ放題」なので、仕事を山のように振らないと損だ、なんて考えてる人でなしは意外と多い。

 ここからはサービス残業なので、自分のペースで仕事をすればいい。


 進路の教師は7人。うちジョブサポートティーチャー(就職支援相談員)は17時に帰ってしまうが、他は残ってることが多かった。


「今朝のペンキ事件、犯人は誰でしょうねー」

 先生同士で雑談をしながらの残業ということになる。気のいいおばちゃん先生の若貴先生がお菓子を配って回ったりして、それなりに楽しい時間でもあった。職員室では絶対にできないことだ。

 なお、キバヤシは悪い意味でドライなとこがあるため、会話にほとんど入ってこない。

「九字塚先生。あの怪文書、国語の教師的にはどうよ?」

 福島主任から水を向けられる。主任はけっこう無茶ぶりしてくる。

「“ハンザイシャに気をつけろ! このガッコウにいるぞ!”でしょ? 抽象的過ぎますよ」

 コンビニの棚を蹴っ飛ばすレベルの悪行なら、かなりの生徒が当てはまるからな。

「そうそう。誰に向けて言ってんだ、っていう」

 岡先生が応じた。

「でもあれ、伝わったんですかね?」

 カウンセリングの報告書を仕上げていた酒石先生が顔を上げた。

「伝わった?」

 俺と酒石先生の相性は悪いが、会話の内容には興味があったので合いの手を入れてみた。

「だって、名指しでもないから。察しの悪い子多いんだから、告発された方も気付けないんじゃない?」

「“え? 私のことだったの?”ってか。そしたら犯人は完璧な無駄手間だな」

 主任が笑う。が、これはかなり重要なことじゃないか?


 あれだけのことをしでかして、空振りだったなんてことになったら大バカだ。



 19時を回った。

「欠食児童どもが腹を空かせて待ってるので帰ります。お先に」

 家庭のある若貴先生は一足先に帰宅する。若貴先生の子どもは今年受験生で、私立に行きたがっているらしい。

「俺も子どもが起きてるうちに帰るわ」

岡先生も帰宅し、閑散としてきた。

 福島主任や酒石先生は残ってる。俺ももうひと踏ん張りするか。


 コンビニに行って、飲み物と軽食を買う。S商生は近隣のコンビニで漏れなく出禁を食らってるが、さすがに教師はその限りではない。

 まあ、だからといって教師が好感を持たれてるか、って言えばまるで逆。

 例えば俺の寄ったこの最寄りのコンビニは、アホなS商生が商品棚を蹴り飛ばして出禁になったわけだが。さすがに便利が悪かろうと、教頭が何度か出禁解除を掛け合ったことがある。

 その際教頭先生は、被害者側の店長に「迷惑をかけた生徒に謝らせる。私の手の空いてる16時に学校に来てくれ」と打診をしたんだから笑えない。

 普通、被害者側を仕事中に呼びつけるか? それでも人の良い店長は来てくれたらしいが、「生徒は無断で帰ってしまったが、充分反省しているから出禁を解除してくれ」と横柄に言われてトドメ。

 こうして教師が買い物に来ると睨みつけて、「早く帰りやがれ疫病神」と念波を送ってくる怨念店長が爆誕した。

 俺が返った後、入口に塩でも撒いてそうだ。


 買い物帰り、ついでに宿直室に寄る。

「あら、いらっしゃい♪」

 捨見はいたが、宿直室は真っ暗だった。

「なんだ、もう寝てたのか?」

 スマホのライトで照らす。

「電気点けたらヒトがいるのモロバレでしょ~が」

 眩しそうに光を手で遮った。

「おっと、そうだった」

 まだ先生たちが立ち働いているし、駐車場からは明かりがはっきりと見える。その辺忍ぶつもりはあるのな。


「ほら、差し入れだ。救援物資第一弾な」

 弁当を2つ出した。報酬の前渡しだ。なんだか「泥棒に追い銭」って気分だが。約束は約束だ。

 捨見も購買でちょくちょく食べ物を買っているようだが、どうしても栄養が偏るからな。捨見はさっそく品定めを始めた。

「唐揚げ弁当でいいか?」

「うんにゃ。こっちのぬか漬け定食をちょ-だいませ」

 渋いな! じゃあ俺が残った唐揚げ弁当を食うのか。正直唐揚げを捨見が選ぶと思ってたので想定外だ。

 スマホの明かりで薄暗い中、コンビニで温めてもらった弁当を食べる。

「やっぱり銀シャリはいいわね~」

 本当に旨そうに食べるな。米のこと銀シャリって言う人間初めて見たぞ。

 しかし、俺の方はイマイチ。唐揚げと米しかない弁当だが、唐揚げは2つで充分だ。

「運動部の件、ど~よ?」

「収穫なし。強いて言うなら、目につく範囲では怪しい奴はいないかなあ、ってことぐらいだ」

 我ながら子どもの使いみたいだ。

「残りやる」

 4つの唐揚げを捨見の弁当に追いやった。

「じゃあアタシは残った卵焼きをア・ゲ・ル♪」

 食いかけを渡してくるな、ばっちい。


「ところで進路で話題になったんだが。【ハンザイシャに気をつけろ! このガッコウにいるぞ!】って文面、変だよな?」

 映像を確認する。文字が白と黒で変に書き分けられてるのが印象的だ。ハ、ャ、ろは全部白、ンは下の部分だけ白、ザは横棒と右の縦線、そして濁点が白。気は下のメの部分だけ白、他は黒字だ。金釘流で直線だけで書かれているので、ンなどはニと区別がつきにくい。


「危険を犯して告発しようってのに、肝心なところがあやふやだ」

 本気で告発したいなら“不法滞在者がいる!”とか具体的に書くべきだよな。

「でもけっこうキッツイ言い方してるわよね~。かなり確信とか証拠がある感じ?」

 唐揚げをぱくつきながら付け加える捨見。

「つまり、知っててわざと深い内容は書かなかった。いや、書けなかった?」

 2人で疑問点を出し合うと、話がまとまってゆく。口に出すことで頭が整理されていくんだろう。

「そのココロは~?」

 告発というよりも、「俺は知ってるぞ」というアピール。つまりは。


「――警告?」

「おおー、さすが国語の教師」

 その賞賛は微妙に納得がいかない。なんだその国語万能論。

「回りくどくないか? 本人に直接言った方が手っ取り早いだろうに」

「警告はしたいけど、したのがジブンだってバレたくなかったんでしょ~?」

 それが本当なら、犯人は複雑な立場に立たされてるのか?

 この点

 普段から孤立した衛星集団なら、関わるのを嫌がるかも、と推測するが。

「しかしな、告発者の背負うリスクが大きすぎる気がする」

 メリットでもあるのか?

「そこで運動部ですよ」

 ペットボトルのお茶を口に運ぶ。

「ん?」

 アタシもボーっと考えてたんだけどね、と前置きする。

「犯人はおそらく運動部」

「おう。異論はない」

 捨見はペットボトルを逆さにして豪快に一気飲みした。

「帰宅部・文化部と運動部の差は、大会が多いコト」

 なんとなく、言わんとしてることが分かってきた。捨見はあまり興味がない様子だった。

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