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失格教師と屋根裏の散歩者  作者: あまやどり
序章 失格教師の日常
2/51

失格教師とあだ名

伏線が絡んでるので、もうちょい教師の日常続きます。

っていうか、まずこれが書きたかったので(笑)

 首からさげたネームプレートを見るたびに『臨時採用』の4文字は必要ないよなあ、と思う。生徒には正教員も臨採も関係ないだろ。やってることも責任も一緒なんだから。 

 それとも、他の教師が正教員か臨採かで扱いを差別してるのかね?

 実は教師ほど仲間意識と差別意識が強い人種は他にないからな。


「九字塚先生、おはようございます」

 隣の席の巻代将(まきだい・しょう)先生が挨拶をしてくる。26歳。俺より若いが、しっかり者で担当クラスもうまくコントロールできている。生徒指導部在籍。


 若い正教員の中では突出した存在で、俺と気の合う数少ない教師でもある。巻代先生は2年A組の担任、俺は2年C組の副担任だから同じ“2の島”。席が近くて受け持つ学年が一緒なので、接する機会は自然と多くなる。


「巻代先生、おはようございます」

 基本的に教師同士は敬語で会話する。立場に上下を付けるとしたら、役職か年齢かその学校での勤務年数か、どれを基準にすればいいかややこしい。それなら、全員に敬語を使っていた方が気分的に楽だ。



 8時30分のチャイムと同時に、教師たちが一斉に起立する。朝礼が始まった。各部からの通達があったあと、各クラスのホームルームに移行する。授業の開始は8時55分から。

 俺が前に非常勤で通ってた進学校は、8時20分に朝礼、8時45分から授業開始だった。


「えー、皆さんおはようございます。今日も1日、よろしくお願いします。それでは各部、伝達事項お願いします」

 教頭先生の短い挨拶を皮切りに、伝達事項が飛び交う。


「保健室です。今日はスクールカウンセリングの日です。学校カウンセリングの支援チームに所属している教師の皆さんはよろしくお願いします」

 本職のスクールカウンセラーは月1回しか来校しないので、教師たちが定期的に生徒のカウンセリングを行っている。 

 もっとも、この学校(S商)で一番カウンセリングが必要なのは教師だろ、というのは周知の事実。

「あと、保健室前のホワイトボードを勝手に移動させてる生徒がいるので、見かけたら注意してください」

 なんだそりゃ。まったく、S商生徒は奇行が多い。



「事務です。最近電気消費量がやや増えてるようです。空き教室の消灯を徹底してください」

 電気料金や水道料等の設備料金は、節目ごとに報告しなければならない。料金が嵩むと袋叩きにあう。

 ケチっつーより、純粋に金がない。それも尋常じゃないぐらいで、コロナ全盛期には消毒液を買う金すらなくて愕然(がくぜん)とした。


「教務部です。貸し出しのタブレットの返却が遅れがちな生徒が複数人いるので、担任副担の先生がたは注意喚起お願いします」

 タブレットは教師にも生徒にも貸し出されるが、授業が終わったら即返却が原則。管理が厳しいのは、先週5台ほど盗難に遭って大問題になったことがあるからだ。


「進路です。進路指導部の教師は企業訪問や大学の応対て忙しくなるので、ご協力お願いします」

 俺も在籍してる進路指導部は、外部の企業や大学と連携する唯一の部署で、外出の機会が多かった。来客が絶えない時期もあるのに、他の教師と同じ授業時数を受け持たされるのは微妙に納得がいかない。


 各部署の伝達事項が矢継ぎ早に伝えられる。忘れないようメモするのに必死だ。


「それと、F市内で強盗事件が多数発生しているようです。各担任は、生徒に自宅の戸締りを徹底するよう周知しておいてください」

 教頭先生の言葉で朝礼は締めくくられた。



 8時40分からはクラスのホームルーム。学年ごとの伝達事項はあるか、生徒へ連絡しておくことはないか、と慌ただしい。


 用意ができたところで2年C組担任の席を見るが、誰もいない。朝礼でも見なかったな。

「探しモノはあっちッスよ」

 巻代先生が職員室の東面、校長や教頭、事務長の席が並ぶ通称「重役席」を指さした。巻代先生は早口で、俺には「~です」が「~ッス」に聞こえる。


 目当てのキバヤシが、教頭に怒られていた。

「少々不注意ですよ? たとえ5分でも、今後は“前1”の連絡をちゃんとしてください」

 教頭先生が小言を並べている。

「は、はい」

 キバヤシは平身低頭していた。俺はコイツが嫌いだから、心の中では呼び捨てだ。


「“前1(マエイチ)”の連絡無しで遅刻かよ」

 溜息を吐いた。“前1”は「1時間遅れて出勤する」という学校用語。

 朝の182号線は渋滞してる。タイミングが悪いとひどく時間がかかることがあるのは事実だが、もちろんそれは遅刻の言い訳にはならない。教師はこういう場合、事前に連絡する規則だ。

 なお、交通事故が原因の渋滞による遅刻はお咎めなし。

「で、でも、急に腹を下しまして。その、間に合うと思ったんですけども……」

 ぐだぐだ言い訳を続けてやがる。まず謝れよ。それと、お前の腹具合は学校と関係ないから言うんじゃねえ。

 自分の勝手な都合が、世間でも通用すると思い込んでるんだよな。教師は意外と世間知らずが多い。


「木林先生、そろそろ行きましょう」

 説教が終わったのを見計らって声をかけた。キバヤシが2年C組の担任で、俺が副担任だ。大変不本意なことながら。

 なお、新規採用(新採)の教師は1年目に担任をすることがない。採用2年目のコイツは、2-Cが初めての担任になる。


 2年目っていえば卵から(かえ)ったヒナみたいなもんだが、コイツはヒナどころか、勘違いして黄身のまま殻から出てきたようなヤツだ。


「はい。ふぅ~」

 大柄な体に角刈り頭のキバヤシは、でっかいため息とともに立ち上がった。コイツは若いくせにため息がうんざりするほどデカくて多い。 

 近くで聞かされてるとこっちまでげんなりしてくる。

 典型的な「居るだけで周りの士気をくじくタイプ」だ。生徒()より厄介な教師(味方)って何だよ。


「相変わらずため息大きいですねぇ」

 嫌味を言ってやった。巻代先生と同年代だが、どうしてもこの男を巻代先生のように尊敬する気にはなれない。

「いやあ、またあのガキどもに手を焼かされるのか、と思うと」


 職員室で「ガキども」なんて言うんじゃねえ!


 先日も似たような失言で怒られたばかりだろうに。心と口の間に、3枚ぐらいフィルター貼り付けとけよ。

 失言に一度ならず巻き込まれた経験がある身としては、コイツはただの疫病神だ。




 廊下を歩いていると、遅刻スレスレで教室を目指す生徒たちがいた。だが、急ぎもせずにダラダラ歩いている。遅刻しても悪びれない。

「2年のブスジマがムカつくんだって! こんどボコして……」

「オメー口回んのウラでばっかじゃねーか腰抜け」

 彼ら彼女らは8時過ぎに来ていた生徒とはもはや別の人種だ。

「おはよう。急がないと遅刻だぞ」

「髪がキまらなくてサイアクー」

「3時間目になおせばー? あの先生チョれーしー」

 俺が挨拶しても無視。相手が校長先生だろうと教育長だろうとお構いなしだ。

 悪意があるのではなく、これが彼らの“普通”。彼らにとって挨拶は、おしゃべり以下の価値しかないのだろう。

 ここまで徹底されると、親を人質に捕られて「挨拶したら親を殺す」とか脅されてるんじゃないのか、と疑いたくなってくる。


 これが生徒に仕事を紹介してくれる高等学校就職支援教員ジョブサポートティーチャーや、視察に来た教育長を激怒させた、S商名物『無視の行進』だ。

 こんなザマを見せられて、「骨を折っていい仕事を紹介してやろう」なんて思う人間はまずいない。コイツらは挨拶1つで人生を台無しにする達人だ。


「こら、無視するな、挨拶ぐらいしなさい!」

 俺はいつも呼び止めて注意することにしていた。就職や進学を担当する進路指導部所属としては、悪評は深刻な問題だ。なお、隣でボケ―っと突っ立ってるキバヤシも進路指導部在籍だけどな。

「したもーん」

 生徒たちはいつも同じことを言って逃げようとする。

「聞こえなければ言ってないのと一緒だっ!」

 きっと俺はうるさいオッサン教師で通っているだろう。

「ケッ、失格野郎が!」

 聞こえるように悪口を言うのがS商生。


 俺のあだ名は「失格教師」。「くじづか」を並び替えて「じつかく」、失格となったらしい。

 くだらない人間は、つまらないことにだけ頭と時間を使う。

 悪意あふれるあだ名だが、コイツらにとっての「いい教師」ってのは「都合のいい教師」って意味だからな。違反を見逃したり、授業で手を抜くような。俺は提出物の期限を絶対に譲らないから、一方的に恨まれているってだけ。いちいち傷ついてると身が持たない。

 

それとも俺が、教師の使命感とか持ちあわせてないのに気付いてやがるのかね。


毎日とはいきませbbが、更新早めです。

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