第二話 聖女
呪いを押し付けられてから一年。
「変わらず、解呪できない、か。」
思わず、溜息をついてしまう。
俺は解呪する為に知識を蓄え、魔法を極め、はしたが呪いが発動しないようにするために魔法無しの戦闘術も極めて、信仰心を高め、奔走してきたが今も尚目処が立っていない。
良かったことといえば、地位が上がったことだ。
一年前は助祭の身だったが今は司祭になっている。
魔族が現れれば邪神となにか繋がりがあると思いすっ飛んでいき、ヤツらをちぎっては投げちぎっては投げ、高位の魔族であれば吐かせて祓ってきたことが大きい。
もちろん、人々を護り、癒す、迷える子羊たちを導いてきた。
そんな司教になった俺は、〖聖教〗総本山-タロト大聖堂の最奥の部屋にいる。
白一色の部屋に白いテーブルがひとつ。その上にティーカップが乗っている。
この部屋には許可された者しか入ることが出来ないためテーブル越しの目の前の少女と手を繋ぎ二人きりになっている。
「そのようですね。度々お力になれずにすみません。」
絹のような白髪が頭を下げる動きに合わせ流れ落ちる。
それだけで人々は思わず見惚れてしまう所作。
鈴を転がしたような、澄んで美しい声が悲壮感を漂わせて耳に伝わる。
頭を上げ、宝石のような碧の瞳が俺を見つめる。
その容姿は、儚く触れてしまえば壊れてしまいそうなほどの絶対的な美。
女神と言っても信じてしまいそうな少女-〖聖教〗の白聖女
彼女は俺よりも神聖魔法の適性がある為、定期的に呪いを診てもらっている。
「いえ。貴女が謝ることじゃない。俺が軽率な行動を取ったからです。」
そう。これは俺が撒いた種だ。他人に謝られる謂れは無い。
だから、謝罪を否定する。
聖女様は微笑み
「私はレオン司教の手助けをしたいだけです。」
そうだった。
この人は、どんな人に対しても慈愛に満ちているんだったか。
「なら、尚更謝らないでください。俺が申し訳なくなってきます。」
彼女は、ふふふ、と上品に笑う。
「それで、解呪はついででしょう?今回はどのような使命でしょうか?」
ついでの話はさておき、本題を促す。
聖女様は真剣な顔つきに変わり、口を開いた。
「はい。今回お呼びしたのは、新たな神託があったからです。」
神託-または未来視とも、過去視、現在のなにかを視ることだったり、女神様より伝えられることもある。
神託は、聖女のみが許された、神に選ばれし者だけができる特殊な神聖魔法とされている。突然神託を授けられることもあれば呼び掛けに答えてくださることもある。
神託と神聖魔法の適性がものすごく高く、それが聖女たる所以とも言われている。
「エルサドレア王国の魔法学園に高位魔族が潜伏しているのを視ました。」
聖女様は、俺の目をしっかりと見つめる。
『神に選ばれし者たち』第三位レオン司教。貴方に神命を下します。
エルサドレア王国へ赴き、カトラム魔法学園に潜む魔族を祓いなさい。」
先程の丁寧な口調ではなく、女神様より伝えられたことである為に命令するような口調で告げられた。
「女神ユースティア様に誓ってその神命遂行致します。」
片膝をつき、頭を垂れ拝命する。
「魔を祓うには我々が必要不可欠ですから。」
ぱんっ。
聖女様は手を叩いて緊張感が張り詰めていた空気を消し去った。
ニコニコと微笑み楽しそうにしている。
「はい!ここからはプライベートです。いいですね、レオン?」
「プライベートって誰かに見られたらどうするんですか?」
呆れて注意するが、当の本人は何処吹く風。
「ふふふ。問題ないですよ!私に許可を取らないとこの部屋には入れませんし。それに…」
ずいっと顔を近ずけてくる。
「私信頼してる人にしか今の姿は見せませんよ?知ってますよね。」
聖女をやっているとはいえ今の表情は自分と同じ歳相応の子に見えた。
「聖女様に信頼されて嬉しいですよ。」
素直な気持ちを口にしたが、彼女は納得いかずムスッとした顔をした。
「聖女様?どうされたんですか?」
プイッ
「聖女様?」
プイッ
こうなった彼女はテコでも動かないことをよく知っている。
実は俺と彼女は幼い頃から知っている仲だ。
なにせ、お互い教会が運営する孤児院出身だからだ。
所謂、幼馴染ということになる。
溜息を深くつき諦めたように口にする。
「セシリア。」
聖女様-セシリアの名を呼んだ瞬間彼女は反応した。
「はい!なんですか!レオン?」
まるで犬のようだな、耳としっぽがわさわさしてそうだな、と他人事のように考えた。
それはそれとして少し危機感を感じる。
「やっぱり誰かに知られたら大変だぞ」
少し砕けた口調にしつつも彼女を注意する。
それが気に食わなかったのか口を尖らせ反論した。
「レオンは、またシスターサリナに言い寄ったらしいですね。」
ジト目を向けて、棘のある口調で刺される。
おっと。
急に矛先を向けてきたことに都合が悪くなり、目線を斜め上に向ける。
「仕方ないだろ。ケガ人が運び込まれてきたんだから。神聖魔法を使わない訳にも行かない。神聖魔法を使えばコレが発動する。」
トントンと呪いが刻印されている心臓部を指で叩く。
「それはそうですが…」
どこか納得のいってない声を出すセシリア。
「あ…お茶が冷めてますね。淹れ直しますね。」
俯いて視線を落とした際に気づいたのだろう。
忙しない手つきで俺の前にあるカップを持ち上げようとした。
しかし、
パリン。
手を滑らせてカップを落としてしまった。
「ご、ごめんなさい!私、つい慌ててしまって……痛ッ」
また慌ただしく割ってしまった欠片を拾おうとして指を切ってしまったようだ。
「ちょっと見せて。」
俺は彼女の手をとり、治癒術を使用する。
そして俺は、胸が熱くなり意識が薄れていった。
*
セシリアが冷静になったのはレオンが治癒術をかけてすぐの事だった。
「ありがとうございます。あ、神聖魔法を…」
冷静になったからこそ今レオンがなにをしたのか理解した。
「ふふふ。問題ないですよ。セシリア。そんなことより君に傷跡が残らなくてよかったよ。君のように美しい女性に傷は似合わないですからね。」
レオンは割れたカップを颯爽と片付けてしまう。
「それでは、僕はそろそろ神命の為の準備をしますね。
それでは、僕の大切な人。」
そして、手の甲に口づけをして部屋を去っていった。
この間、セシリアはずっと硬直していた。
驚きと恥じらいで耳まで真っ赤に染め上げて。
彼女が再起するのには、それからしばらくのことだった。
そして、こう呟いた。
「あのレオンも………アリですね」
彼女の頬はまだ赤みがかっていた。




