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婚約指輪

「王子の婚約者? カナデさんのことでしょ」


 説明を邪魔されたシリイさんは資料から顔を上げて、いまさら何言ってんのって目で見てきた。


「違う。婚約なんてしてません!」


 絶対、してない。


 シリイさんは私の指輪を指さした。


「婚約指輪をしてますよね」


「これは、契約指輪です!」


 支給品の指輪そっくりの神話級の指輪。


「誓約書にサインした?」


「精霊貴族との契約は契約書じゃなくて、誓約書で行うって言われて」


「立会人をつけて、誓約の誓いを唱えた?」


「あの、病める時も健やかなる時もってやつですよね」


 立会人のジャック君に、声に出して読んでって渡された紙に書いてあった言葉。まるで結婚式みたいだなって思いながら唱えたけど。


「なんだ。婚約成立してるじゃない」


 シリイさんはあきれたようにそう言った。

 え?

 え? ええ?


「精霊貴族と聖女の契約は婚約の形をとるのよ。学校を卒業したらすぐ結婚ね。これは聖女を守るための取り組みでもあるから」


 ええええっ!

 なんで、なんで?

 え、私、知らない間に、婚約してたの?

 衝撃のあまり、その後のシリイさんの説明は全く頭に入らなかった。





「ってことがあったのだけど、イザベラさんは誓約書が婚約届けになってるって知ってた?」


 その後の、イザベラレッスンの時に聞いてみた。


「当然でしょ。……最初はオーギュスト様も優しかったのよ。私のために男爵になると約束してくれたし、他の精霊との契約も続けていいと言ってくれたわ。だから、こんなわたくしでも望んでくださるならって思って……」


 イザベラは寂しそうに左手の薬指を見た。リス精霊の指輪がはめてあった指。


「わたくしは本当に男性を見る目がないのね」


 人差し指にはめた黒い石の付いた指輪を、無理やりのけるように引っ張る仕草をした。一度はめたら抜けないコウモリ精霊の契約指輪。死が二人を分つまで外れない。でも、


「!」


 イザベラが指輪をぐるっと回すと、中心にはめ込まれた黒い石がパキンと音を立てて真っ二つに割れた。

 そして、指輪がシュッと煙のように消えた。


「指輪が……」


 コウモリ精霊の指輪が壊れて消えた。

 これって、もしかしたら。


「オーギュスト様が死んだのね」


 イザベラは複雑そうな顔をした。


「また婚約がダメになったってことね」


 泣き笑いのような顔をしてつぶやいた。






「おかえり。カナデ」


 寮の部屋で待っていてくれたシャル。

 ぎゅって抱きしめに来る。ああ、温かい。

 そのままシャルの優しい腕の中に包まれていたかったけど、聞かなきゃいけないことがある。

 一番聞きたいことは他にあったけど、まずロイのことを聞いた。


「ああ、男爵挑戦決闘は無事に終わったよ。もちろん、カナデが聖力をあげたロイが勝ったね」


「どこもケガしてない?」


「まあ、カナデの聖力を得たからね。全然相手にならなかったよ」


 そっか。それなら良かった。ロイとの出会いは最悪だったけど、なんだか憎めない。代理精霊として力になってもらったし、しっぽは、もふもふだし。さわり心地が良かったな。すごくふわふわで、柔らかい毛が気持ちよくて……。


「カナデ」


 シャルの甘い声とともに、額に口づけが落ちてきた。


「僕がいる時に、他の男のことを考えないでほしいな」


「……そんなんじゃないです。っと、それより」


 一番聞きたかったことを聞く。


「私とシャルは婚約してるの?」


「うん?」


「あのね、シャルと契約した時に誓約書にサインしたでしょ。あれって、婚約届なんだって知ってた?」


 シャルの周りには聖女と契約した精霊はいないって言ってた。だから、もしかして、シャルも婚約してることを知らないんじゃない?


「何を言ってるのかな。カナデは」


「あ、やっぱりシャルも知らなかったんだ。よかった。そうだよね、聖力のやり取りのただの契約を、んー!」


 いきなり、シャルが私のあごを持って、噛みつくようにキスをしてきた。


 ! 苦しい、息できない!

 胸をたたいて、ようやくやめてくれた。


「はぁ、はぁ」


「カナデは、婚約者でもない相手と、こんなことできるの?」


 いつもは甘い金色の眼差しが、今は怖いぐらい澄んで光って見える。


「だって、私、知らなくて」


「ふーん。……じゃあ、分からせてあげようか。カナデの婚約者が誰なのか。今すぐに。卒業するまでは待ってあげるつもりだったけれど、……もうやめた」



 そう言って、シャルは深く口づけをしてきた。

 今度はどんなに叩いてもやめてくれなかった。

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