まずはお友達から……も、無理。
「契約したらいいじゃないの」
寮母のググルさんがあきれたように言う。
すみません。今日も洗濯魔道具に魔力いただきました。
スマホが恋しくなる名前のググルさんは、この世界の人間。召喚者寮の寮母さんだ。厳しいけど、頼りになる異世界のお母さん。
「貴族なんて、めったにお目にかかれるもんじゃない。これを逃すなんてバカだよ。あんたも一気に3級、いや2級市民になるのだって夢じゃなくなるよ」
洗濯物をたたみながら、お説教される。
「うーん。でも、私、前の世界では本当に一般庶民で、っていうか、一般よりも少し苦しい生活をしていたような」
あれ、どうだっけ?
まあ、そんな平凡な一般人が、いきなり高貴な方とお近づきになるなんて、しんどい。
絶対、超貴族な感じだよね。我が君とか呼ばれてたし。高位貴族恐ろしい。私の聖力が高くても、これは無理でしょ。関わりたくない。
「だって、私には扱いきれないですよー。なんか、胸やけしそうで。庶民が急に高級食材を食べたら、おなかを壊す感じで」
やれやれ、とググルさんが肩をすくめる。
ちなみにこの世界の人間にも階級があるそうで、1級から5級市民がいる。ググルさんは4級の一般庶民だそうだ。
私?契約もできない見習い聖女はランク外です。高ランクの精霊と契約したらランクアップするみたい。
「食べ物に例えられるなんて、なんだか、そそられるね。僕を食べてくれるのかな」
くすっと後ろで美声が響く。
嫌な予感。振り向くと、美形精霊がいた。
「ここは女子寮デスヨ」
不法侵入をとがめると、心外だと肩をすくめる。
「契約精霊はいいんだよ」
「契約してないし」
ふと、強い魔力でググルさんが気を失っていないか心配になる。
大丈夫だ。顔色は悪いけど、ちゃんと座っている。
「魔力は調整したんだけど、まだちょっと強かったかな?」
ごめんね。と、何かを指先で空中に描いた。
冷たい空気が少し緩んだ気がした。
「契約しようよ」
誘惑するように、にっこり見つめてくる。
美貌にくらくらしながらも、負けずと首をふる。
「大切にするよ。お姫様みたいに、どろどろに甘やかしてあげる」
「う・・・無理」
涙目で首をふる。
「お二人とも、こんな洗濯室ではなんだから、庭でも見てきたらどうだい?」
疲れたようなググルさんに追い出された。
「庭。いいね」
にっこり笑った精霊に、なぜか不安を感じていると、腰を抱き寄せられ、精霊の広い胸に顔をうずめてしまう。ちょっといい匂い。ウッディ系のさわやかな香り。好きなコロン。
「な……!」
ぐらっと空気が揺れて、一瞬で、私は知らない場所にいた。
「ここ、どこ?」
灰色の石の床。狭い通路の壁には古ぼけたランプがかかっている。くねくね曲がった先の見えない、いくつにも分かれた道。
「庭……かな?アストラ・ダンジョンだね」
!!!NOー!!!




