始まり
「…“空間内の能力操作” …?」
ミファエルは首を傾げながら、相法に聞き返した。
「うん。まだ今は“停止” だけだけど、そのうち身についてくると思う。ミファエルちゃんはセンスいいし♪」
と、旧知の仲だからこその理解を含め、返答。
「そう? …でも、そんな能力を持ってる実感は、全く無いよ?」
無自覚であることを暴露するミファエル。
「それを自覚する場面は、いずれ来るよっ! でも、その能力を使わなくて良いように守るのが、ボクとヴァリエルの役目!」
「ふぅん…? …面識あった方が良いし、ヴァリエルさんとも会わせてくれる?」
吐露する相法に、今度はお願いをする。
「あ〜…ヴァリエルは今、エニアのパートナーと対峙してて、説得してるから…それ終わったか聞いてみるよ。待ってね?」
そう言い、スマホを取り出す。
「…えーと…
『“奈那” との論争どうなった? それが終わったら、来てほしい場所あるから、連絡待つよ〜』
…っと。これでよし!」
すると、わずか1分でメッセージが来た。
『終わって説得もしたし理解してくれたわ。で、来てほしい場所って?』
そうしてメッセージのやり取りが始まった。
相法
『いつもの廃ビルでいいよ』
ヴァリエル
『了解! ここからなら10分は掛からないと思うから』
相法
『おっけー! 宝石と待ってるよ!』
ヴァリエル
『護衛先がいるのね? 了解よ、かっ飛ばしてく!』
相法
『事故らないよーにね!w』
ヴァリエル
『大丈夫! 事故りそうになったら転移する』
相法
『ちょwww 無駄な体力消費は控えてー!』
で会話が終わる。
「…ぶふっ」
と不意に相法は吹いてしまった。
「…? 相法??」
そんな相法を、少し訝しげに眺める。
「ったく…いっつもこうなんだから♪」
笑いながら、そう呟く。
………10分ほど経った頃、ヴァリエルが到着した。
オレンジのロングヘア、赤いカチューシャをしてアホ毛が一本。好みの白いベレー帽を後ろめにかぶっている。オレンジの細長い眉、黄色めの瞳。いつも少しニヤついた顔で過ごす。ルビー付きのネックレスを付けていて、服装は赤いオープンショルダーニット。赤黒い肩紐が上に出ている。藍白の膝上5センチほどのスカートを履き、赤いローヒールを裸足で履いている。
「相法、待たせたわね♪」
「そんな待ってないよ〜♪」
そう言い、顔を合わせる2人。
その直後、
《ちゅっ》
と、2人は唇を交わす。
「…へ!?」
と、赤面して硬直するミファエル。
それに気づいてから、
「ん? …あぁ、この子が…えっと、ミファエル・ジェンプソン…“宝石” の人?」
何事も無かったかのように、ヴァリエルは聞く。
「そうそう! 歌手やってるんだけど、“宝石” が眠ってる子だよ! ボク達の守護先だ!」
…と話してる最中も、ミファエルは硬直していた。
「…あ、えと……え…えぇ……?」
赤面が治らず、2人を見つめてしまう。
「…? なんでそんなに赤くなってるの?」
相法までも平然としていた。
「…理解したわ。相法とアタシが平然とキスしたからでしょう?」
と、心を読んだかのように話しかける。
「!? お、女の子同士で…キス…なんて……っ」
まるで復唱するかのように呟くミファエル。
「あ〜…いっつも“フィーナ様” に怒られてるから、普通じゃないのかなぁ? これ」
「相法…あんた麻痺ってるわね?」
あまりの感覚麻痺に、ヴァリエルは呆れた。
「あっはは…でもヴァリエルとは…」
「…」
その先を言おうとした時、ヴァリエルは相法を睨み、
「その先を言ったら…してあげないから」
「そういや禁句だった。ごめんごめん!」
焦って両手を合わせて謝る。
「…それは置いといて…」
と、ようやく気を取り戻したミファエルが話を戻す。
「よろしくお願いしますね。ヴァリエルさん」
「ええ、こちらこそよ。まぁ初対面だし、フルネーム教えておくと、“ヴァリエル・イヴィットン”って言うの。“深獄” の構成員で、相法と同等の力量よ♪」
………そして、事細かに事情説明を終えた。
「なるほど。エニアは、さすがね? “魔眼の風神” の異名はダテじゃ無い…」
「エニアも、ゆくゆくは利用するみたいだから、どちらも信用ならないかなぁ。なるべく“仲裁” は動かしたく無いからねぇ…」
裏社会に通じる単語を並べて話し合う2人。
「う〜ん…“万極” からの情報は、エニアと奈那に届いちゃうからねぇ…。ボク達の担当は“陰鎧” だけど、極秘な情報は流してない。あの2人は、どうも…信頼できないし…」
俯き、深く考えながら相法は話し、
「そうよねぇ…。姉であるアイツが妹の裏切りを止めなかった罪は重いし、そのパートナーのアイツも元々が殺人鬼。信頼度が薄まった以上、必要以上に情報を少なく絞らなくちゃいけないし…大変よねぇ…」
軽く感情を乗せながらヴァリエルは論ずる。
「…とにかく今は、ボクらがミファエルを保護しないといけない。…まさか親友が狙われるなんて思わなかったけどね…最初」
少しだけ悔しそうに、しかし屈強な口調でそう言いながら、右手は拳を握っている。
「相法…アンタの親友なら尚更、尽力するわよ。護衛は鉄壁に!」
「もっちろん!!」
「…私もチカラになりたいなぁ…なんて」
ボソッ、とミファエルは呟く。が、
「使えるようになっちゃダメ。今は、まだ…ね?」
意味ありげにヴァリエルが呟き返す。
この同性愛ペアが、ミファエルを守り抜く事になった。