第八話 ティア
七話 ティア
「ふぅふぅ…ちょっと神様、いきなり飛ばしすぎなんじゃあないですか?もう少しゆっくりやってくださいよ…って凄!空中!?」
眼下に広がる大森林が月の光に照らされて、眠るように淡く輝いている。何というか、すごく…幻想的だ。
『綺麗でしょ?もちろん君の世界の夜景も綺麗だけど、この世界の夜景だってすごく綺麗。美しいよね、世界って』
『だからこそボクは、この世界を、ボクの世界を、いつまでもいつまでもとっておきたいんだ。心の底からそう願ってる』
張り詰めた空気と静寂が、夜の世界を支配する。月の光が神様の顔を照らし、さらりとした涼しい風がその白銀の髪を揺らす。
『ボクはルール上、もうこの世界に干渉できない。精々神託を下したり、ちょっかいをかける程度のことしかね。だから君に賭けることにしたんだ。君の出現と同時に権限もほとんど使い切った』
神様が寂しそうに笑う。
『正真正銘。君がボクの、いや、この世界最後の切り札だ。もう残された時間も、ボクが出来ることもほぼない…だから、』
神様がボクの目をじっと見つめてくる。蒼い。蒼い目だ。透き通った、まるで、今晩出ている月のような――
『お願いだ。この世界の為に、その身を捧げてくれ』
なんて律儀なんだろうな、この神様は。今にも泣きそうになりながら、まるで自分のことのように。
「何を言ってるんですか、神様。そんなの初めに約束しましたよね?大丈夫ですよ僕はしっかりと目的を果たします」
そんな顔しないでもいいのに。僕は望んでこの役目を選んだ。ボクが望めば僕を勇者にすることも出来た。いや、していた。そうでしょう?
「大丈夫ですよ。僕は前の世界で出来なかったことを果たしたい。神様はこのの世界をどうしても救いたい。ばっちりじゃないですか。WinWinの関係ですよ」
『本当に…?本来君はほかの世界の住人。ボクの都合でこの世界に転生させて、少なくとも一度は命を落とす。死ぬっていうのは何にも代えがたい苦痛のはず。生半可な気持ちで出来ることでは――』
「あ―もうっ何ごちゃごちゃ言ってんですか!らしくない。言ってるでしょう?WinWinの関係だと!この計画が上手く行けば、僕もハッピー貴方もハッピーそれでいいじゃないですか!」
『でも…』
「確かに、死ぬのはつらいですよ。あの魂を抉る感触は。でも!それ以上に僕は!もう二度と大切な人を悲しませるような真似はしたくないんですよ!」
『っそうだよね、君の覚悟を踏みにじるようなことを言ったな…ごめん』
「何言ってるんですか。それに、こんな綺麗な世界が無くなってしまうなんてそんなの嫌じゃあないですか。それに、あなただって僕の大切な人の一人ですよ?神様」
心底驚いたという風に、神様の目が大きく見開かれる。
『そ…そう、そうだよね!ボクの世界はすっごく綺麗だからなっうんっうんっ』
神様は目をそらし、頬を赤らめて…
『そ、それじゃあさ、この世界の為に、一緒に頑張ってくれる、かな?』
「もちろんですよ。これからはチームとして、二人三脚でやっていきましょ」
『うん…今までは一人でやって来たからさ、これからはよろしくね…アハハ、おかしいやなんだか涙が出てくる』
そういって神様は涙で潤んだ目をぬぐうと僕に笑いかける。その笑顔が僕には輝いて見えてー
「よし、それじゃあ次のことについて話合いますか!これからどう動いていくのかを決めちゃいましょう!僕たちはもうチームですから」
『うん!そうだな。あ、あとさ…僕の名前、ティアーズっていうんだ!ティアーズ・ディブラウ。その…これからはさ、神様じゃなくて、ティア…って呼んでくれないかな?』
「っいいですよ。じゃあついでに僕の名前も、水落界って言います、気軽にカイってよんでください」
『うん……よろしく、カイ』
「任せてください、ティア」