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優しさの裏側  作者: 凛蓮月
番外編

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6/6

【番外編】届かなかった、唯一

 

 侯爵家の次男として産まれ、幼い頃より周りの目を引き年を重ねる毎に女性から言い寄られ。


 俺──アラン・クレールに手に入らないものは何一つ無かった。


「アラン君は美しいお母様似ね」

 幼い頃、母主催のお茶会に来た貴婦人に言われ、とても可愛がって頂いた。

 お菓子を貰ったりしていい思いをしたのでそれからも度々お邪魔した。


 成長すると周りを惹き付ける容姿となり、男女問わず群がられた。

 "侯爵家"に集る下心のある奴も混ざってはいたが、ちやほやされるのは優越感を感じて気持ちいい。


 そんな俺には年の離れた兄上がいた。

 名はレアンドル。

 見た目は俺とは正反対で、両親曰く「兄上は祖父似」との事だった。

 厳しい顔付きにガタイの良い兄上は見た目に反してとても優しく、俺にとって自慢の兄だ。

 兄上が学園から帰って来るといつも兄上の部屋に行き話すのが幼い頃の楽しみだった。


 俺が学園初等部に通う頃、兄上は何度も見合いをしていたが、うまく行かない日々が続いた。


「今日もダメだったよ…」

 なんて悲しそうな顔をして笑う兄上は、父に言われて領地経営を学び半分は兄上が執務をしている。

 社交が苦手だからというのもあるけど、領民に対し目を届かせたいからいずれは領地に住む予定だ。

 それでお嫁さんも一緒に連れて行きたいと始めた見合いは尽く失敗していた。


 母のお茶会でもその話が出ると、「レアンドル君に申し込まれると縁談がよく纏まるって噂が…」なんて言われる始末。

 母は苦笑していたが、終わった後悲しそうな顔をしていた。


 やがて兄上は見合いをするのを止めた。


 こんなにいい兄なのに。

 体格が良いけど騎士になるのを止めたのも、本当は誰も傷付けたくないからだ。

 見た目だけで判断しないでちゃんと中身を知れば絶対好きになる子はいる。

 周りの見る目が無いだけだ。


 兄上を何とか元気付けようと色んな話をした。

 最近は同じクラスになったディーンの話をしていた。

 いつもニコニコして人が良い。

 クラスの中でも人気がある奴だったが、俺だけに婚約者がいる事を明かしていた。

 まぁ、ニヤニヤしてたのを問い詰めたら白状しただけなんだが。

 それからは聞く度惚気話で、「そんなに可愛くて大好きなら一度俺に見せてよ」って言ったら即断られた。


 ちなみにその頃の俺は年上の女性とオトナの付き合いをしていた。

 母のお茶会でこっそり未亡人から誘われたのだ。

 好奇心旺盛な頃で、その未亡人から色々学び、女性の扱いは一通りマスターしていた。


 それからは誘えば女性は着いて来たし、ちょっと甘い顔をすればすぐにしなだれかかってくる。

 遊びたい時に遊ぶ。

 我慢なんてしなくても、特定の相手を作らなくても。


 全ては思い通り。


 そう思っていた俺に、思い通りにならない事は何一つ無かった。



 ディーンは学園初等部にいた時は『俺の婚約者が』ばかりだったが、高等部になってからはぱったりと止んだ。

 俺に寄って来る女達と楽しそうに話してる。

 ずっと婚約者一筋だったのに変わるもんだなぁ、と少し驚いた。


「最近婚約者の事構ってやってる?」

「あー、リアか。最近ちょっと疎遠だなぁ。けど今しかできない事ってあるし」

「鬱陶しいくらい惚気てたのに。

 あんなに夢中だった婚約者の事放っといていいの?」

「大丈夫大丈夫。リアは分かってくれるから。それに将来の為だから」


 将来の為、ねぇ。

 鼻の下伸ばして女と話してるのが何の為になるんだろうね?

 それならさ。


「僕が取っちゃうよ」


「えー?何か言ったか?」


「別になにも」


 ディーンがあんだけ執心だったオンナノコ。

 今迄は婚約者いるから興味も湧かなかったけど、そういう事なら。



 それから俺はすぐにディーンの婚約者の事を調べた。


 名前はすぐに分かった。

 リア・ハリソン伯爵令嬢。俺らの一個下の子。


 どうにか接してみたいと思い、リアの周りにいる女性に聞いてみた。すると今度気軽なパーティーが開催されるから自分をエスコートついでに見れば良いわと言われ、了承した。

 立食スタイルで、同年代が楽しくお喋りするだけだから招待された人のパートナーであれば入れるそうだ。


 パーティー当日、パートナーの女性と一旦別れた後リアの様子を探る。


 へー、結構可愛いじゃん。

 タイプでは無いけど。

 あ、けど、笑ったら。


 その時俺のドコカで、ほわりと何かが灯った気がした。

 それは今迄感じた事の無い物。

 もぞもぞするような、そわそわするような。

 何だか落ち着かない。

 でも、───悪くない。


 声、掛けようか。

 あ、けど今日俺は別の女性と来てるのか。

 いや待てよ、楽しくお喋りする会だからいいのか?

 でもパートナーいる奴が気軽に話し掛けて─────


 そこまで思考してハッとする。

 今迄の俺なら問答無用で話し掛けていたし、何なら落としていた。

 急な自分の変化に戸惑う。


 ヤメヤメ。

 俺らしくも無い。

 そう思って周りの女性との会話に集中する。

 けれど、遠くにいるリアの声だけ大きく聞こえる。


 その理由に、俺はまだ気付かなかった。



 リアを知って、リアの笑顔を見て。

 ディーンを見て、ディーンの笑顔を見て。

 俺は何だかもやもやしていた。

 だから兄上に相談してみた。


「ディーン君の婚約者の事が好きなのか?」


 それは正に雷に撃たれたような衝撃だった。


 好き?

 誰が?俺が?

 リアを?…………リア………を、好き………?


「……あ…、う、ん、そっ…か、そうかも……」


 これが好きというモノならば。

 パズルのピースがハマるようにすとんと落ちる。


 リアの笑顔を思い出し、あの笑顔で俺の隣にいてくれたら。

 ──うん、もし将来結婚するならリアがいい。

 そうと決まれば。

 ディーン邪魔だな。

 ちょうどリア以外に目が行ってる時だからちょっと突けば行けそうな気がした。

 ディーンが好きそうな女を宛てがえば……

 あぁ、いい子がいる。

 お願いを聞いてくれそうな子。

 兄上の顔色が何か悪いけど、作戦が完璧に見えた俺には関係無い。



 それから俺は自分に気があるミアに、俺の()()()を聞いてくれるように甘く囁いた。

 ミアはすぐに聞いてくれた。

 ミアがディーンに近寄り段々と効果が出て来る。

 どうすれば男がぐらりと来るか教え込んだ甲斐があった。

 だけど中々決定的な物は無い。

 俺は最終手段として最後の一線を越えさせる事にした。


「そんな……アラン以外となんて…」

()()()だよ、ミア?うまく行ったらご褒美あげるから。……ね?」

「アラン……。絶対よ?」

 ミアに軽く口付け、制服を着崩し教室を出る。

 もうすぐディーンが来るだろう。


 ミアは想像以上に上手くやり、その度「ご褒美」と称してするのは面倒ではあったけど、これもこの先ずっとリアを手に入れる為。

 まぁ、ミアも可愛いから愛人くらいにしてもいいかなぁ。

 あくまで本命はリア。

 ミアはリアがダメな時に使えばいい。


 そんな簡単に思っていた。

 だけどそれは自分本意な、最低な考えだった────。



 その後リアが入学して来た。

 ディーンとミアの噂は学園中に知れ渡っていたからリアの耳に入るのも早かった。

 リアはいつも悲しそうな顔をしてディーンを見ている。

 その顔を見て、何だかちょっとズキリとした。


 何でそんな奴がいいんだ?

 ちょっと女の子を仕掛けたらそっちに夢中になってリアを忘れるような奴だよ?

 そんな顔をしないで。

 ディーンを見ないで。


 俺を見て────。


 大泣きしたリアを慰める。

 リアの身体は今迄接してきた女より小さくて、温かくて。腕の中にいるだけで何かが満たされた。


 ごめんね、リア。

 君に付けた傷は俺が癒やすから。

 だから早く、俺のとこにおいで。


 手に口付けただけで顔を真っ赤にしたリア。

 すぐ緊張して、口篭って、でも一生懸命で。

 可愛いなぁ。

 はにかむ笑顔、恥ずかしそうな仕草。

 揶揄って、ちょっと膨れた顔。

 その全てが愛おしい。

 ふわふわして、自然に頬が緩くなる。

 幸せってこんな感じなんだな。



「アラン様。私、頑張ってるでしょう?約束のご褒美下さい」

 ミアに話し掛けられて、俺の幸せな気分は霧散して行く。

 リアで満たしていたいのに。

 でもミアのお陰でもあるんだし、リアが手に入るまでは相手してやるか。


「そうだね。行こうか、ミア───」



 その判断は間違いだったと気付くのは後になってから。



 全ての企みがリアにバレた。

 完璧にやったはず。

 何でリアはあんなとこ通った?

 なんで、何でなんでなんでなんで

 あの時ミアの誘いに乗らなければ。


 リアを傷付けたかった訳じゃない。

 リアを大事にしたかった。

 リアを幸せにしたかった。

 リアと幸せになりたかった。


 ──聞き流した兄上の言葉が蘇る。


『馬鹿な真似は今すぐ止めろ。ディーン君の婚約者を傷付けたいのか?』


『その子が好きならせめて他の女性とは付き合うな』


 その言葉がずっと離れない。



 その後兄上がリアと仮婚約をして、週一の交流にクレール侯爵家へやって来るようになった。


 少し開いた扉から楽しそうな二人の声がする。

 リアの優しい声が、その笑みが。自分に向けられているものでは無いと思うと胸が苦しい。

 同じ屋根の下にいるのに、こんなにも遠い。


 それ以上ここにいるのが辛くて、俺は逃げ出した。


 気付けば俺をオトナにした未亡人の家に来て、彼女の胸に沈んだ。


 けど楽しくない。

 未亡人はそんな俺の様子に気付き、服を正して理由を聞いて来た。


 好きな子が出来た事。

 好きな子には婚約者がいたから別の女で誘惑させて婚約解消させた事。

 裏で俺が操作していた事。

 ─最終的に好きな子は兄上を選んだ事。

 全て打ち明けた。


「全てが手に入る訳じゃないわ。手にしたと思っても、溢れてしまうものはある。

 だから大事なものを溢さないように、取捨選択が肝心ね」


 俺を慰めながら、未亡人が言う。


「ダメなのか?

 欲しいものを全部手に入れるのは、いけない事なのか?」


「本当に好きなら、他の誰よりもその子を大事にしなければいけないの。

 その子が笑うだけで幸せになれるのでしょう?

 だからどうしたら幸せにできるか考えるのも大事だけど、

 何をしたら不幸せになるのか、それを知って回避しなければいけない。

 貴方の行動で、その子にとっては裏切る事が最大の禁忌になった。

 婚約者は裏切った。

 あなたは裏切り続けた。

 お兄さんは裏切らなかった。

 だから今の結果があるのよ」


「普通に考えて好きな男を他に盗られた子が、浮気されて大丈夫な訳がないわ。

 ……策に溺れたわね。身奇麗にして、正攻法でいけば良かったのに」



 誰も教えてくれなかった。

 ───いや、俺が聞く耳を持たなかっただけか。


 望んだ唯一は、俺からすり抜けて兄上の元へ行ってしまった。



 それから俺の世界は色を失った。




「最近アラン様は私の相手してくれないのね」

 ミアが纏わり付いて来るが、無視していた。リアにバレて以来、接触は避けていた。


 すると


「──いい加減、私を見なさいよ!!」


 ミアが叫ぶ。

 溜め息を吐き、その顔を見ると。

 ミアは目を真っ赤にしていた。

 俺の知っているミアは奔放で、いつも笑ってた気がする。


 お互い遊びで割り切ってたんじゃないのか?


「アランの事が好きだから、アランの言う事聞いてたのに……!

 私の事、散々弄ぶだけ弄んで、都合悪くなったら無視するの?」

 ぽろぽろと涙を流すミアを見て、ミアの本心を知る。


「ごめん──」

「謝るくらいなら私を好きになってよ!

 あの人はもう他に行ったじゃない!!

 なら私を見て!

 私を好きになってよぉ………!!」


 泣き叫び、俺をどんどん叩いてくる。

 ミアの悲痛な叫びを聞いて、俺は初めて、自分のした事を実感した。


 ミアの気持ちを利用して、都合良く弄んだ。


 ミアはリアを手に入れる為の駒でしかなかった。

 軽く扱っていた俺は、ミアの剥き出しの心をぶつけられて、初めてその重さを知った。



「…………ごめん。ミアにした事は、謝って……済む事じゃ……無いけど、

 でも……すまない。俺は………」


 ぱん!と乾いた音が響く。


「さいってい!!

 アンタ本当にクズだわ!」


 真っ赤な顔をして、ぽろぽろ泣くミアはずっと俺を罵っていた。


 俺はずっと「ごめん」と繰り返しながら、その言葉を聞いていた。



 その日、帰宅すると兄上に会った。


「どうした、顔が腫れてるぞ?…とりあえず俺の部屋に来い。理由を聞くから」


 兄上は使用人に冷えたタオルを用意するように言い、俺を自分の部屋に連れて行く。


「何があったんだ?」


 冷たいタオルを渡しながら兄上は心配そうに見てくる。


「……ミアを、泣かせた」

 ぽつりと言うと、兄上は真面目な顔をする。


「お、れ……リアを、手に入れたくて。ミアを、利用した。

 ミアは俺を好きだから簡単だった。

 ディーンをオトさせて、リアを手に入れたら。…用済みで、けど、

 ミアは俺を好きだから、したくない事もしてて、それで

 楽しんでたから、傷付けてたなんて…

 知らなかったん…だ………」


 言葉に詰まりながらゆっくり話す。

 その間兄上はじっと聞いてくれた。


「…その子に対して責任取るのか?」


 俺は頭を横に振った。

 本当なら、純潔を奪った者として責任を取らなければならないだろう。

 だが、ミアは最終的に俺を拒否した。


『他の女を好きなアランなんかいらない。

 あんたなんか、一生手に入らない恋を追い掛けてればいいのよ』


 そう言ったミアはもう泣いていなかった。


「ならば、生まれ変われ。お前はまだ若い。まだやり直せる。自分優先ではなく、まず人の気持ちを考えて行動しろ。人を思いやる男になれ。

 お前にも、他の人にも心がある。相手の立場になれ。

 それがお前が傷付けた相手に対する償いになるだろう」


「お、れは……間に……合う…?変われる?」


「お前次第だ。信用は失うのは一瞬だが、取り戻すには時間がかかる。心無い噂も飛び交うし、女性は結束力が強いから周りは敵だらけになるだろう。

 だが、諦めるな。腐るな。

 卒業したら、俺の手伝いをして欲しい。父上に話して子爵位をお前に譲って貰う。すぐに出ろとは言わないが、お前の社交力が必要だ」


 こんな俺を、しっかり見てくれて。

 叱咤して、必要だと言ってくれる兄上。


 リアが選んだ理由が分かる気がする。

 兄上が選ばれた理由も。


「兄上、ごめん。俺、ずっと、忠告聞かなくて…」

 とうとう俺は泣き出した。


「謝るなら三人に謝れ。あと、これからはちゃんと話を聞け。暴走する前に立ち止まれ。いいな」


 嗚咽で言葉が出なかったので、こくこくと頷く。



 兄上がいて良かった。

 兄上に恥をかかせないように、それから俺は真面目になった。

 女遊びも止めた。

 ディーンとミアに謝罪をしようとしたが、何となく気まずいものがあり、いつしかディーンもミアも疎遠となった。


 リアだけには兄上に機会を作って貰って謝罪した。

「もう気にしてません。今の私にはレアンドル様がいますから」

「リア…」

 見つめ合う二人を甘い空気にしただけだった…。


 だから俺は「いつかは俺も家の為に結婚する」と意地を張った。


 その言葉に嘘は無い。

 兄上は「万が一独り身でも養うから気にするな」とは言っていた。


 だが、兄上がリアと正式に婚姻しても、二人の間に子どもができても、俺はリア以上に好きになれる人がいなかった。


 初めて欲した唯一は、手の届く距離にいても触れられない。

 諦めようとは思っても、会う度胸の奥で燻り続ける。

 リアは兄上に愛されて美しくなっていく。

 愛し愛される夫婦の噂は王都の社交界では知らない者はいないだろう。


 それは眩しく、羨ましく。

 俺には手に入れられない物だった。



 王太子の婚約者を紹介する為の盛大な夜会。

 先程ディーンに会って話をした。


 あいつはリアの幸せそうな顔を見て過去を振り切ったようだ。



 ──俺は─。

 立ち止まったまま、動けない。

 ずっと手を伸ばしたまま、彷徨っていた。


「『俺の』………義姉さんとか、……」

 自分のでは無いのに何を言っているのか。

 先程言った言葉に自嘲していると、声を掛けられた。


「あら、誰かと思えばアラン様」


 そこには異国風の男性に手を添え、異国の衣装を身に纏うミアの姿があった。


「何だか前と比べてカッコよく無くなっちゃったわね。……ガッカリだわ」


 肩を竦めて心底ガッカリした顔をする。


「私の好きだったアラン様は、俺様で自信家で色気があって野心家で……。

 そんなシケた顔じゃ無かったわ」


 噂では嗜虐趣味の異国の王のハーレムに入ったと聞いたが、見える範囲に傷は無い。


『あ、ごめんね。貴方を無視した訳じゃないのよ?……えっ、お仕置きだなんて、まだ時間は……』

 異国の言葉で喋るミアの隣の男はミアの腰に手を回し耳元で囁いている。

 その姿はどう見ても不幸には見えなかった。


「こちらは私の夫よ。ハーブルムの王、ベルンハルト。私は彼のハーレムの筆頭夫人なの。

 だから王太子殿下のお祝いに一緒に来たのよ」


 美しく着飾ったミアは輝く笑みを浮かべる。

 俺は王とミアを見比べながら、呆然としていた。


 慌てて我に返り、王に挨拶する。

 異国の作法は分からないが王は気にしてないようだった。

 それより俺に気軽に話し掛けるミアを気にしているようだ。

 その姿を見て、正直ホッとした。


「噂はアテにならないもんだな。……元気そうで、その。

 美しくなったし、幸せそうだ」


 ミアはニッコリ微笑んだ。


「彼が嗜虐趣味って?本当、当てにならないわよね。

 大方彼に振られた誰かが腹いせに噂を拡げたのよきっと。

 王太子殿下には謝罪して頂いたけど、私の母国だから彼も気にしてないわ。

 ……私は今幸せよ。私の幸せは私が自分で掴んだの。

 アラン様は?まだあの方が好きなの?」


 その言葉に言葉が詰まる。

『まだ好きか』と聞かれれば答えは『是』だ。

 とはいえ兄上の妻だから手を出そうという気は全く無い。


「いつまで自分に酔ってるつもり?

 さっさと吹っ切って次に行きなさいよ。

 ………バカなんだから」


 ミアは優し気に笑う。


「あなたが手を伸ばす方向を変えれば、誰かが手を取ってくれるわよ、きっと。……多分、おそらく」


 なんだそれ、と思わず吹き出す。

 するとミアも苦笑した。


「なり振り構わず、我武者羅に頑張りなさいな。その方がずっと素敵よ」


 ああ、愛されているのがよく分かる。

 そのミアを支えている異国の王はもう我慢できないとばかりにミアを横抱きにし、雑踏へ消えて行く。

 その先にあるのは休憩室だ。

 ハーレムを持ってるのに随分と嫉妬深いんだな、と思うと苦笑が漏れた。



 ミアのその後を知れて、俺の心は少しずつ晴れて行く気がした。


 そろそろ、俺も前を向いてみようか。


 ミアに、呆れられないように。

 リアを、思い出にできるように。


 前を向いてもいいだろうか。



 それから俺はずっと言い訳をして避けていた見合いをする事にした。

 流石に俺の昔の素行を知っている家からは難色が示されたが、それでも会ってもいいという家を見付けた。


 相手には全てを曝け出して、ありのままの俺を見てもらおう。

 何度も失敗したが、兄上の言葉を思い出す。


『諦めるな。腐るな』



 今日もとある未亡人女性との見合いだ。

 騎士だった夫と死に別れて一年経過したらしい。


 まだ忘れられてないんじゃないだろうか。

 しっかり話を聞いて、俺にできる事を探そうと思う。


 扉がノックされ、開いた扉の先にいた女性が入室する。


 何となく雰囲気がリアに似ている気がした。


 ──彼女なら、もしかして。



「初めまして。俺の名前は────」



 届かなかった、唯一に手を伸ばす事を止めて、幸せになる為に。

 過去を振り切る為に。


 俺は藻掻き続ける事にした。



これにて完全完結となります。

短期間に2度に渡り完結表示を変更した事をお詫びします。

混乱させてしまい、申し訳ございません。


アラン視点、超特急での仕上げとなりまして、中々文章が纏まらず試行錯誤でした。もっと文章力と表現力が欲しいです…。

ですが、思いの外ミアがいい感じに誘導してくれてこの形に落ち着きました。ミアいいオンナだよ…。

お目通し頂きありがとうございます。


お陰様でこの作品は沢山の方に読んで頂く事ができました。

本編投稿時から見付けて下さった方。

ランキングまで押し上げて下さった方。

評価やブクマをして下さった方。

ご意見、ご感想を下さった方。

読んで頂いた全ての方へ。

最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。

またいつか、お会いできればと思います。

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