叶えられた夢
学生時代に婚約者がいたら、叶えたかった夢がある。
それは登下校時一緒の馬車で通ったり、寄り道してカフェデートをしたりする事だ。
残念ながらそれは叶う事の無いまま適齢期まで過ぎてしまう事となったが、仮婚約者──もとい、"恋人"であるリアがまだ学生というのは、ひょっとして夢を叶えるチャンスでは無いだろうかと気付いてしまえばいてもたってもいられなくなった。
正直週一回の数時間程度のお茶会などでは到底満足できない。
俺はもっとリアに会いたい。
できれば週3…………
いや、素直になれば毎日会いたい。
側に居てくれるだけでいい。毎日会いたい。
もっといちゃいちゃしたい。
だがそれを表に出すのは紳士として憚られる。
あくまで紳士的に接する。
彼女を傷付ける事はしない。嫌がる事も然り。
優しくすることは出来ないから、せめて甘やかしたいし慈しみたいし愛でたいし親切にしたい。
リアを幸せにしたいし穏やかな気持ちで過ごして欲しい。
結婚した後に領地に拠点を移すと言う将来の展望を話した時。
「私も一緒に行きたいです。貴方のお手伝いをさせて下さい」
と、臆面もなく言われたらもう、頭の中ではもう教会の鐘がゴンゴン鳴った。
今まで縁談を断られた理由の1つに、拠点を領地に移したくないからというのもあった。
それをアッサリ「自分も着いていく」と言われたらもう結婚したようなものだ。
俺の婚約者がこんなに素敵な女性でいいのだろうか?
途端に不安になった。
「レアンドル様?……どうかなさいましたか?」
ハッ。
今は貴重なリアとのお茶会の時間だった。
リアの貴重な話も上の空で聞くなど俺とした事が……!!
「すまない、何の話だったかな?」
慌ててリアに向き直り、気を落ち着かせる為お茶を口に含んだ。
「うわっち!!」
「だ、大丈夫ですか!?」
気を利かせた使用人が、冷めたお茶を淹れ直してくれたらしい。
淹れたてのお茶を一気に飲んだ為少し火傷をしてしまった。
「すまない、大丈夫だ」
少し溢れてしまったが、服などに染みては無いから大丈夫だろう。
慌てる俺を、リアはくすくすと笑う。
「ふふっ。いつもしっかりしてらっしゃるのに、レアンドル様ったら慌てんぼうさん。ふふふっ」
「面目ない」
頭を掻きながら言うと、リアがふわりと笑う。
あ゙ーーーー、俺の婚約者が可愛過ぎる。
「それで、先程の話は何だったかな?」
こほんと咳払いをして、リアにもう一度話を促した。
すると目を泳がせながら照れたような仕草をする。
「あ、あの。レアンドル様にお願いがあるのですが…」
リアからのお願い!?
リアが!!俺に!?
「何だい?リアのお願いなら別れる以外は何でも聞くよ」
「別れませんから!
……えっと。私、まだ学園に通ってまして。
それで…。一度でいいので、馬車で一緒に学園から家に帰ったり、帰る前にちょっと寄り道したりしたいなぁ、って、思いまして」
リアの言葉に俺は呆けた。
あれ?
俺、さっき考えてた事リアの前で口に出したっけ?
「レアンドル様がお忙しいのは分かっているのです。だから、一度だけで良いので、その…」
下を向いてもじもじして顔を赤くするリアに俺の心臓は爆発しそうになった。
「明日から行き帰り、迎えに行こう。帰りにカフェに寄ろう」
「い、いえ、一度で…」
「俺もしたかったんだ。婚約者と一緒に。叶わないまま卒業してしまって。…だから憧れていた事が出来るなら嬉しい」
本当に嬉しくてつい頬が緩む。
そんな俺を見たリアもふわりと笑った。
「嬉しいです…。では、明日からよろしくお願いします」
照れながらぺこりと頭を下げ、再び顔を上げて嬉しそうに笑む彼女を益々愛おしく感じた。
翌日、朝侯爵邸の馬車でリアを迎えに行き、ハリソン伯爵に挨拶をして学園まで送った。
帰りの時間を聞いてリアが出て来る頃に再び迎えに行く。
正直迎えに行って良かったと思った。
俺の可愛い婚約者に見惚れる男がチラホラいたからだ。
目線で牽制しながらリアを馬車に乗せ、時折帰りにカフェで寄り道してから明るいうちに伯爵邸へ送った。
以降、どうしても仕事が立て込んで行けない日以外はリアを送り迎えした。
おかげで学園内で噂が広まり、リアに懸想する男はいなくなったらしい。
その事を知った王太子にはゲラゲラ笑われたが、「ずっと夢見てた事が叶った」と言えば「おめでとう」と言われた。
叶わないと思っていた俺の夢が、一つ叶った。
これからこの子はどれだけ俺を喜ばせてくれるのだろうと、俺は未来に期待を寄せるのだった。




