前世はそっけなかったのに、今世では溺愛!?〜冒険の邪魔になるので早くそこどいてください〜
今回、初めての投稿しました。
まだまだ甘っちょろい所もありますが色々挑戦していきたいと思ってます。
「――せんぱい、先輩! 今救急車呼びますから
目閉じちゃだめです、先輩! 返事をしてください! 」
耳元で後輩の声が聴こえる。
その必死な声に答えようも体から血が流れていくのと同時に手足の感覚がなくなってこのまま眠ってしまいたい。
今、道端で倒れている私。雪下 恵は都内の会社で事務員をやっている普通の女である。そう、あることを除いては普通である。
それは、仕事バカであると言う点である。全てにおいて仕事を第一にし、会社に身を捧げてきたのである。会社にとっては理想のような鏡のような人である。もちろん、学生の頃も勉学に励み現在進行形で恋にうつつを抜かしたこともない。
意識が遠のいていく中、耳元で声を張っている男は会社に入社して初めてできた後輩である。始めはしっかりと教育ができるか不安だった。失敗した時には厳しく叱りつけ、ちゃんと仕事ができた時は褒めてきた。まぁ、褒めて喜んでくれた試しが数少ないが。そのせいか、声をかけても反応がなく、顔を顰めてはそっけなく返事を返された。
(あぁ、こんな死に方するはずじゃなかったのに…
来週のプロジェクトを成功させて課長に就任して、
老後の人生を楽する勝ち組になる予定だったのに…)
「次の方どうぞ」
ギルドの受付から声がかかりカウンターへと歩く。
「次の依頼ある?」
「メグさん、これ1ヶ月がかりでモンスターを討伐する依頼ですよね?あと1週間も残ってますよ」
「そう言ったって終わったものは終わったんだから暇なのよ…」
カウンターの受付嬢と話している銀色の髪を持つ少女は頼まれた依頼が終わり、早過ぎるためか少々お小言をもらっている。その少女こそ、前世は仕事バカで突然死んでしまった人物である。
恵は異世界へ生まれ変わり今はメグとして冒険者になっていた。
メグがこの世界に気づいたのは5歳の頃である。時々、夢の中で空を飛ぶ鉄の塊や自動で開くドアを見て親にはなぜこの世界にはそれがないのかと問いかけては困らせていた。
ずっと不思議に思っていたが、あるとき近所の子供達と遊んで帰る時間が遅くなってしまい急いで母の元へ走って行った時、転んでしまい手から血がダラダラと流れ出てきた。その瞬間、前世で死んだ時の光景が蘇りその場で倒れてしまった。
前世でのあらゆる情報が頭の中に入り5歳児の脳で処理するのが大変だったのか高熱にうなされ3日も寝込み、起き上がった時、自分の前世が会社勤のOLであり仕事に生きた女だったことを覚えていた。
(私死んじゃったんだ…仕事楽しかったのに…
まぁ、転生しちゃったし、今世こそ最後まで生きて幸せになってみせる)
雪下 恵、改めてメグはこの異世界で決心をした。
「メグさん、そんなに仕事ばかりしちゃいい出会いがないですよ」
「そんな出会いなんていらないわよ
それにこれが板に染み付いてて仕事やってないと不安なのよね…」
「たまにはゆっくり休んだほうがいいですよ」
メグは現在、異世界で冒険者として働いているが前世の記憶を引き継いでいるためかここでも仕事を中心とした仕事馬鹿をやっている。
「そう言えば、今度王都からダンジョン攻略のために騎士様がくるそうですよ」
「あぁ、あのダンジョンね」
基本ダンジョンは突然出現するが、そのダンジョンの性質も中から出てくるモンスターもランダムであり攻略するために数年はかかっている。
噂をしているダンジョンは最近できたばかりであり、数十の階層でなんでもSランク級のモンスターが出現すると噂になっている。また、挑戦した冒険者に死亡者が出ておりそのせいでダンジョンに潜る人が少なく攻略が遅くなっている。
「その、メグさんにお願いなんですけど…その騎士様の案内役をやってくれませんか?」
「えー嫌よ、王都のそれも貴族なんて何言われるかわからないじゃない」
「そこをなんとか! 2割り増しで依頼料お支払いしますので」
「う、(それは卑怯すぎる)………」
人は皆平等であると言う宣言が前世ではあったが、この異世界では貴族と平民との間には差別が激しい。貴族は民である平民を見下し、そんな平民は滅多にお目にかからない貴族を空の上のような存在であると思っている。
「わかった、受ける。けど危なかったらすぐ辞めるからね」
数週間後、ギルドから王都から攻略者が来たとの連絡があった。息を切らして入口を開けると同時に遅れた言い訳をしながら頭を下げる。
「君がダンジョンの案内人か?」
「は、初めまして、今回案内役を務めさせて頂きま…」
顔を上げるとそこには深い海色の髪と瞳が右が赤、左が青になり王都の騎士専用の白い制服を身に纏っている青年がいた。見た目は20代前半で、本物のお貴族様だ。でも…
「え、えーと………朝日くん?」
「ん? 何か言っただろうか」
疑問を返した人は前世の唯一の会社の後輩によく似ている。だが、問いかけた答えはメグの期待した答えとは違った。
髪色や瞳は違っても顔のパーツや体格も後輩と同じである。メグもなぜか髪色と瞳は氷のような銀色だが前世と同じ体格である。
他人の空似か、それとも生まれ変わりはしたけど記憶がないのかもしれない。まぁ、転生すること事態が奇跡であるからしてその可能性はないと言える。
(目の前で死んじゃったからなぁ…一生の記憶に残っちゃったよね。可哀想なことをしたな…)
「すみません、失礼しました…」
「まぁいい、とりあえずダンジョンの案内、よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願い致します」
想像した王都の貴族様と違ってこんな平民に挨拶をしてくれる人だ。雰囲気からそんなに人を差別するような人間じゃないとわかり少し安心した。
今回ダンジョンを案内する方のお名前はカイン様と言い王都では騎士の隊長を務めているそうだ。身長も180cmほどあり、顔を見ると誰もがみな2度振り向きそうなイケメンだ。ギルドでもそうだったが街に出た途端、周りの視線が痛いほど集まってきている。
「それでカイン様、今回のダンジョン攻略のことで相談をさせて頂きたいのですが、」
「…様はつけなくていい、敬語もいらない」
「いえ、ですが、カイン様は貴族のお方ですので」
「俺は気にしない、むしろ貴方にそう呼ばれると違和感があるんだ」
カイン様の方を見ると少し苦笑いをしており、困っている表情だ。こんな顔をされると前世の後輩くんのことを思い出す。前世では目上の人には尊敬の意を表して敬語で話すことが基本としているのでこの世界でもいつも通りである。
「…では、名前だけお言葉に甘えてカインさんと呼ばせて頂きます」
その後、カインさんとこの街について、最近できたダンジョンについて話し合いをし、視察も兼ねて一度ダンジョンに入ることになった。
攻略者も少なく、情報が一切ないため今回はクリアを目的としてはいないが、カインはもちろんメグもダンジョン攻略者である。それもメグは最年少と謳われるほど噂となっている人だが、メグは鈍感なのか馬鹿なのか自分が街の中で噂の人になっていることに気づいてはいない。
ダンジョンに入るとモンスターが出現する。メグが氷魔法で出てきたモンスターの足を止め、カインが水魔法で鋭い刃を放ち仕留めていく。二人の間にはいつの間にか連携が出来上がっていた。
「案外暗いですね」
「あぁ、油断せずに行こう」
暗闇の中声を掛け合い自分たちがどこにいるのかを確かめながら進んでいく。
「っ!」
「よけろ!」
突然目の前にモンスターが現れた。それと同時に鎖のような長い尻尾が二人を分かつ。
「あ、あれ…」
「どうしてあれがここに…」
出てきたモンスターは全体が青黒く尻尾に棘があり、トカゲのような形をしている。たが、このモンスターはボスと呼ばれボス部屋にしかいないはずのモンスターだ。
「おかしいですよ、ここは一旦退散しましょう」
「あぁ、出口まで一気に走るぞ」
カインさんが先頭をきり、もと来た道へと走り出す。その後にメグがついていくような形で出口へと向かう。
たが狭い通路の中、敵を前にしたモンスターにとって二人は格好の餌食であった。
「危ない!」
「メグ!?」
カインの避けた攻撃がメグの方へ向かい、背中に尻尾が当たり棘が刺さったところから血が流れる。
「大丈夫か!」
「えぇ、大丈夫です…」
(あー、血がだらだら出てる。これは肋骨にひび入ってるかも…)
「とりあえず背負うぞ」
カインの背にメグは体を預け、急いでモンスターから距離を置こうとする。このボスモンスターは縄張りがあるためか一定の長距離をとると元いた場所へ戻っていった。
たが、その間にもメグの背中からは血が流れていき意識が薄くなっていく。
「――メグ、もうすぐつくからな
目閉じるなよ、メグ! 返事をしろ!!」
(あぁ、ヤバい…また死んでじゃうのかな、今世も恋すらできなかった)
目を覚ますと木目の天井が見える。どうやら死なずには済んだようだ。ふっと息をつくと隣に誰かがいる気配がする。
「先輩、目が覚めたか?」
「はい、それよりもここは…」
「ダンジョンからすぐ近くにある村だ」
話を聞くと私はモンスターの毒で昏睡状態になり意識朦朧としていた。カインさんは私を背負って他のモンスターの攻撃を退けながらダンジョンから出てきたそうだ。
「本当にありがとうございます…」
「いや、油断していた俺が悪い」
弱いとはいえ、モンスターの攻撃を避けることでも難しいのに私を庇いながら逃げることはとても大変だったと思う。さすが、隊長クラスの身体能力を持つ人であると感心した。
たが、先程から会話が続いているがカインさんに対して違和感が残る。
「あの、カインさん…」
「なんだ、先輩」
「いや、なんでその呼び方…」
「いや、俺にとって先輩は先輩だからだ」
ということは…だ。
「もしかして、本当に朝日くん?」
カインが神妙な顔で頷く。
「すまない、先輩。俺がもっと注意してればよかったのに」
「むしろこっちこそ油断してました
本当にありがとうございます」
「いや、俺のせいだ。また先輩を失うところだった
前世も俺が不注意だったばかりに先輩を…死なせてしまった」
「…あれは、あれは朝日くんのせいじゃない」
仕事終わりに会社のみんなと飲みに行く予定だったから後輩である朝日くんにも声を掛けた。いつもは飲み会には参加しない朝日くんが珍しく参加の意を唱えた。何か緊張していたようだが恵にはわからなかった。
飲み会が終わった後、帰り道が一緒だったので二人並んで歩いていたが突然後ろから声がかかり、あっという間に車に引き摺られしまった。
「とりあえず、ギルドに報告しに行こう」
「うん……うっ」
「あぁ、先輩立てるか」
「…ごめん、ちょっと肩かしてほしい」
長く寝てしまったのか体がカチコチに固まってしまい、結局カインさんの背中に乗せていってもらうことになった。
ギルドにつき、今回のダンジョンとボスモンスターの件についてギルド長に報告したあと、案内役として報酬を貰ったが今回は怪我をしたためたっぷりと頂いた。が…
「あの、カインさん…」
「何だ、先輩」
「…何でついてくるの」
「そりゃ、先輩を守るためだからだ」
いやいや、案内を終わったからには普通はここで別れる筈だ。カインは隊長であるためいつ帰るか聞いてみると…
「俺は帰らない、一応王都にはそう連絡した」
「え、なんでですか」
「そりゃ……」
カインが黙り込んでいる間、メグは家に帰ろうと歩き出したがつまづいてしまい、カインに背負って家に送って貰った。
結局その日は言葉の続きを聞くことはなかった。
次の日の朝、ギルドへ向かおうと家の扉を開けた瞬間…
「おはよう、メグ」
「お、おはようございます…」
カインが目の前に立っていた。困惑しているメグを見て
「今日から先輩と一緒に行動することにした」
よろしくと満面の笑顔で意味がわからないことを言ってきた。
「いや、カインさんどういうことですか!?」
「これから一生先輩を守ることに決めたんだ」
「いやいやいや、なんでですか!」
困惑している私を前にカインさんは緊張した面持ちで
「先輩 いや、メグ、俺ずっと前からメグのことが好きだった」
「―え、いや、いきなりそんなこと言われても……それに前世はいっつも私にだけそっけなかったし、嫌ってるんじゃなかったの」
「それは、その...とりあえず!
俺はメグと一緒いられるまでずっとここにいるからな!」……
「え、いや、まぁ、死んだのは事故だったし、今はこの転生した人生を楽しもうよ」
「いや、今度こそ絶対に守る」
数十分もこのやり取りが何回も続きだんだんメグも対応するのがめんどくさくなってきた。
とりあえず………
「冒険の邪魔になるので早くそこどいてください!!!」