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或る街  作者: 小坂戒
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 街は、どのような場所にあっても中心部に向かって下り坂になるように設計されていて、道はその中心部から放射状に広がっている。

 どのような小さな道であっても街の外円から中心に向かって延びていて、建ち並ぶ家々の壮観さも含めて非常に雄大な景色を構成している。

 その道を人間が利用する事もなければ景観を楽しむということももっての外である。

 人間は地下に置かれた箱に乗り込んで、地下に張り巡らされた道を通って目的の場所へ行く。

 散策などというものは言葉の意味どころか存在すらも忘れ去られ、太陽という言葉についてもただ明るくて馬鹿みたいに大きいものという程度の理解でしかない。

 半世紀ほど前からそうだったのだが、光といえば家屋の天上に据え付けられた電灯の事を表し、星空とは真夜中にドームの中で見るものになっている。

 歴史にもしもは不要だが、未来には常にもしもが起こりうるのだと誰かが宣言した。

 全家庭のスピーカーから流されたその音声は人間にとっては正しく誰か知らない人間のもので、当然特にどうといった反応も何も起きなかった。

 それは命令でも、法が施行されるというものはなかったから。

 「皆様の家屋に新たに地下階二階を増設いたしました。これ以降はそちらに家具が移行するになります」

 ただの報告であったのだ。

 街の壮観は未来に起こるであろう、あらゆる事態に備えてのものでしかない。

 人間が地上階で暮らして、外に行くにはわざわざ日光に照らされて咳を我慢しいしい足を引きずる世の中になってしまったときに人間が己の家屋の状態に絶望してしまわないためにそれはある。

 懸命な事に真面目な機械が整備された道を清掃し続ける光景を人間は知らない。

 人間は殻に閉じこもって生きているとも言えるが、不備が無い以上それで十分ではないかと顔の見えない音声は考えている。

 一世紀前は雄大に天上に空を描いた。

 半世紀と四半世紀前に天上が崩れて実に多くの体が潰れる事となった。

 半世紀前に地上の事を忘れないように人間が地下に住みだした。

 四半世紀前に地下の世界だけの知る人間が多数生まれだした。

 年代記にはそう書かれることと思う。

 想像力が表現に絶するほど乏しい人間であれ、たった数秒で崩壊した楽園を瓦礫の中から見つけ出す事は困難ではない。

 かつては街の真ん中が怪しいとされたものだ。

 ぽっかりと開いた穴に何が入っていくのかなどかつては誰も知りたがらなかった。

 今は肉や鉄の塊が大きな機械に押されて穴の中に転がされていく風景はテレビで楽しむことが出来る。

 人工皮膚と皮膚の違いも、豚肉と牛肉の違いも些事でしかない。

 同じくらいの意味で生きているのも死んでいるのも何の違いがあるのか、誰がそれを考えるのか。

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