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暁月の従魔士  作者: まぼろし
91/354

5-5 始動

※誤字を修正しました。

※リズ視点


タクトがいなくなって数日が経った。

この間、私たちは地下訓練場で、ひたすら鍛錬を続けていた。


私たちはいまだに、天魔と1体1で渡り合うことができない。

まして常夜の剣姫に至っては、一合すらまともに切り結ぶことができない。

私たちは、私たち自身の弱さを自覚した。

だからこその鍛錬だ。


もちろん、タクトを探すのをあきらめたわけではない。

だけど、やみくもに動いても仕方がないとアスナイさんに言われてしまった。


「あてもなく探したってしょうがねえだろ。今どこにいるにしろ、タクトは必ず迷宮の最奥をめざして動く。だったら、こっちも迷宮の攻略を進めた方がいい。それがタクトに再会する一番の近道だし、あいつの役にも立つと思うぜ?心配すんなって!あいつはそう簡単に死んだりしねえって。」


焦る気持ちはあるけれど、アスナイさんの言うことももっともだ。

私は師匠の言葉に従うことにした。


とはいえ、すぐに次の迷宮の攻略に進めるわけではない。


大昔の大魔導士イブンがつくったという<地獄の門>を発動させるには、専用のカギを使う必要がある。

その鍵は幸いにしてアンジェさんが預かっていたので手元にあるのだけど、新しい門を開くのは鍵の持ち主でなければならないらしい。

今の鍵の持ち主は、タクトだ。


つまり、タクトがいなければ、次の門を開くことができないのだそうだ。


「そんなわけで、私はこれから鍵に込められた魔術回路をいじって持ち主の変更を行います!」

「そんなことができるんですか?」

「普通はできないですね。だけどそこをなんとかしてみましょう!大魔導士イブンがつくった魔道具に干渉して、捻じ曲げる。これはある意味、イブンへの挑戦です!滾りますよね!」

「門の主として認められたタクト様をお守りするのも私の務め。しかし私はその役目を果たすことができませんでした。そのお詫びに、私もアンジェルキアルさまのお手伝いをさせていただきます。」


アンジェさんとセバスチャンが鍵の書き換えの作業をしてくれることになった。

そんなわけで、鍵の持ち主変更が済むまでの間、私たちは地下訓練場で鍛錬をしながら待つことにした。


といっても、館に残ったのは私とカブ、アスナイさん、ユーミリアさん、アンジェさん、ハイセちゃんだけで、他の人たちは、一旦トスガルズに戻った。

ユーミリアさんも、以前と同じように拠点だけこちらにしているけど、毎日トスガルズの狩猟ギルドに通っている。

自分たちを鍛えるのも大切だけど、責任ある立場の人たちとしては周囲の戦力の底上げも急がなければならないのだろう。


最近では<蝕>が立て続けに起きたりしてるし、あちこちで天魔の関連が疑われる事件も起きているらしい。

そのせいで、タクトと一緒の世界から来たという勇者は各地を飛び回っていると聞くし。


ただ、拠点はトスガルズに戻した人たちも、朝夕のいずれかには訓練をしにこちらにやってくる。

理由はルル。

ルルの操作する石礫の魔物との戦闘がすごく実戦に近いので、良い訓練になるのだそうだ。

ローガンさんやカイゼルさんはもちろん、アレッセさんやロッカさんも熱心に、というか鬼気迫る勢いで訓練を重ねている。


そんななかで、アスナイさんは獣身化の慣熟訓練を始めた。


「こないだ迷宮で獣身化したとき、タクトとカイト爺に制御してもらっただろ?あんときのことを、ぼんやりと覚えてんだよ。もう諦めてたんだけど、もしかしたら自分で制御できるようになるんじゃないかと思ってよ。それができるようになりゃ、あたしももうちったぁ役に立てんだろ?」

「獣身化・・・私も覚えたいです。」

「ん?ううん、こればっかはな・・・獣人なら誰でもできるってわけじゃないし、発現の仕方も人それぞれらしくてな。あたしのやり方を教えても意味ねえんだよな。」

「・・・そうですか。」


申し訳なさそうな表情を浮かべて頭を下げるアスナイさんを見て、こちらが無理なお願いをしているのにと思いつつ、うまく言葉にすることができなかった。


みんな、表情に出していないだけで、常夜の剣姫との再戦に向けて必死に技を磨いている。

昼間はトスガルズで他の人たちの指導や仕事をこなしたうえで。

私はずっとここにいるだけなのに、何一つできていない。


また、私だけが取り残されていく。


焦ってもどうしようもないことはわかってる。

それでも、焦りで頭がどうにかなりそうだった。

救いを求めてカブを見たら、ミョルニルを振り回して、勢い余って自分も回って転がっていた。


「カ、カブ、大丈夫?」

「あ、あはは。ごめんなんか・・・ちょっと焦っちゃって。」

「ああ・・・うん。わかる。」

「おいらが一番役に立ってないってわかってるから余計にさ・・・。」

「カブだけじゃない。私だってそう・・・。」

「へ?・・・あはは、なんだリズもか。」

「うん。」


なんとなく、二人で顔を見合わせて、なんとなく、苦笑い。

そしたらそこに、ユーミリアさんがやってきて言った。


「うんうん。気持ちはすごくよくわかるよ。けどね、二人は私たちのなかで、一番可能性があるってことも忘れないでね。」

「可能性?」

「そうだよぉ。確かに私たちはある程度強いけど、その分、さらに強くなることが難しい。だからみんなああして、必死になってるんだよ。でも二人は、まだまだこれから。一番伸びしろがあるのは、二人だと思うよ?」

「伸びしろ・・・。」


その一言で、私たちの心は少し軽くなった。

それと同時に、今はまだ遠くに背中を見ることしかできない先輩たちの苦悩を知った。


今は一番弱いけど、それは埋まらない差じゃない。

少しずつ近づいて行けば、いつか彼らと同じ高みに行ける。

そしたらきっと、またタクトと一緒に冒険ができる。

常夜の剣姫にも、一太刀報いることができる。


訓練を続けて、さらに数日後。

いつものように訓練をしていると、そこにアンジェさんとセバスチャンがやって来た。


「やりました!やりましたですよ!鍵の魔術回路の書き換えに成功しましたよ!!」

「まじか!」

「アンジェねえちゃん、さすがだぜ!!」

「あはは!あたしが手伝ったんだから当然よ!感謝しなさいよねあんたたち!」

「まあ、まだ試してはいませんけどね。でも、きっと成功したはずですよ!」


アスナイさんとカブが手を取り合って喜び、マンドラゴラのルーネンが何故かドヤ顔を決める。


「うんうん。さすがアンジェだねえ。それじゃあ早速、使ってみようよ!」

「もちろんそのつもりですよ!」

「おお!いいね、おい、中庭いこうぜ!」


たまたま訓練場にいたアスナイさんとユーミリアさんに連れられて、私たちは中庭に移動。

噴水を潜っていったんイブンの隠れ家に移動する。


「おお、ここがイブンの隠れ家なんだね。私はじめて来たよー!」

「そう言えばそうでしたね。でも見学は後ですね。それじゃあ早速、門を開けますよ!」


前回同様、カチリと音がするまで<地獄の門>を回す。

新しい扉が現れ、それに呼応した鍵が鈍く光りだす。


「それでは、いきますよ?」


アンジェさんが鍵を差し込むと、扉は一瞬だけ強い光を放ち、次の瞬間には扉そのものが消えて白い壁が出現する。


「やった!やりました!成功です!!では、扉の向こうに行ってみましょう!」


アンジェさんを先頭に、アスナイさん、ユーミリアさん、そしてカブ、最後に私と木彫りルルの順で扉を潜る。


そして、その先に広がる光景に、思わず息を呑む。


「なんだこりゃ、湖のまんなかじゃねえか!」

「うわ!あれなんだ!水が島をもちあげてる!」

「あそこだけじゃないねえ。ほら、あっちも、あ、こっちのもそうだ。」


アスナイさんとカブが感嘆の声を上げ、ユーミリアさんが楽しそうに周囲を指さしている。

目の前に広がっていたのは、広大な湖で、私たちがいるのはその湖に浮かぶ小さな島だった。


浮かぶ島。

まさに、言葉の通り、浮かんでいた。

私たちがいる島だけじゃない。


湖がそこかしこで噴水のように水を噴き出して、島を持ち上げているのだ。

ある島は高く、ある島は低く。

巨大な噴水がいくつもあつまってできたような湖。

一番高いところにあるのは、ひと際大きい島で、そこには町があるようだった。

その町を見て、アンジェさんが言う。


「どうやら第二の門は、水上都市オンディガルズにつながっていたようですね。」

「え?ここが・・・?」


私も以前、その名前だけは聞いたことがある。

巨大な湖に浮かぶ都市オンディガルズ。


そこは、水の迷宮を擁する異国の都市だ。


お読みいただきありがとうございます!


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