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暁月の従魔士  作者: まぼろし
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4-37 予想外の真実とひとつの出会い

地上に溢れたアリの掃討を見届けた後、気を失った俺が再び目覚めたのは3日後だった。

肉体的な疲労に加えて、脳の酷使と魔力の枯渇が思った以上の負担となっていたらしい。

ルル館の自室まで運んでくれて、以降はセバスチャンとハイセちゃんが中心となって看病をしてくれていたそうだ。

つまり、ハイセちゃんには、またしても裸を見られてしまった。


タクト少年からの借り物の体ではあるけれど、やはり恥ずかしい。


まあ、それはともかく。

気が付けば、蒼月の週を過ぎ、この世界で4度目となる紅月の週に入っていた。

ユーミリアさんとローガンさん、ハイセちゃんは、トスガルズの町で三度起きた<蝕>に対応するため、一旦向こうの町に戻った。

カブとリズも、今は手伝いに行っている。


一方、アスナイさんはアリ襲来の後始末やら、ルルが町の半分以上を支配下にしてしまったことに対する後始末で駆けまわってくれている。


ルルに関しては町の領主さまにまで話があがり、なんと領主さま自身が検証のために館まで直接やってきた。

元狩猟者だという領主は、気性の荒い鉱夫たちの町をまとめているだけあって、眼光の鋭い立派な体格の男性だった。

貴族らしからぬ砕けた口調で話す口ぶりにも驚いたが、もっと驚いたのは町の全部をルルの支配下に置けと言いだしたことだ。


「町の半分とか、ややこしくて管理がめんどくせえ。それに、ルルとやらが支配しちまえば住居を管理して区画ごとに作り直す手間が省ける。しかも町の防衛もルルがやってくれるんだろ?いいことずくめじゃねえか。すぐやれ。」

「す、すぐにはムリですが・・・。というか、魔物の町に住むことを嫌がる人もいるのでは?」

「ん?なるほど。話を聞く限りあんまりいないとは思うが、確かにそうか。だったら、旧市街を優先して支配領域に組み込め。町は山を削りながら拡大していくから、新市街はそのままにして、いやな奴はそっちの住居を斡旋すりゃいいだろ。」

「は、はあ。」


そんなやりとりで、あっさりとルルは認められ、さらに支配領域を広げることが決まった。

さすがに支配領域を広げるには膨大な魔力が必要なので、俺の体調と魔力が戻ったあと、少しずつやっていくということで了解を得た。


町の人々にも、ルルの存在はすでに知れ渡っているようだけど、今のところは歓迎されているらしい。

石礫でできたネコの大群が町の危機を救ったところを、多くの人が見ていたことも一因だろう。

そのあと、ルルは自主的に町の治安整備に乗り出したらしく、酔っ払いのケンカを石のネコが仲介したとか、ケガをした老人を治療院に運んだとか。

すでに一部では、魔物というより気まぐれに手助けをしてくれる妖精のような扱いになっているようだ。


今後、町の人々とルルがどんな関係を築いていくのかはわからないけれど、願わくば俺がいなくなった後も良好な関係を続けられるようになってほしい。


そんなことがありつつも、基本的にはのんびりとした数日を過ごした。

目が覚めた後は特に不調もなかったのだけど、カブとリズ、それにアスナイさんに静養を命じられたからだ。


手持無沙汰になってしまったので、セバスチャンとともに料理の研究をした。

こちらの世界の基準で言えば、さまざまな香辛料や調味料が使えて食材も豊富なうちの食事事情はかなりの高水準らしいけど、現代日本で暮らしてきた俺にとってはまだまだ全然足りない。

うろ覚えの知識で香辛料を組み合わせて、カレーぽいものとタンドリーチキンぽいものを作る事に成功した。

俺的には不満が残る出来だけど、カブやリズには好評だった。


その一方で、ルルの人型バージョンの制作も少しずつ始めている。

ルルが魔法で作る魔人形ではなくて、分体が直接乗り移る方だ。

まだ空き室の扉をひっぺがしてパーツを切りだしてるところだけど、ある程度形が見えてきたら鍛冶屋のギンガさんにも相談しようと思う。

関節とか、指とかは俺の手に余りそうだし。


それから、魔法の練習。

精霊の加護を得たことで、やはり地属性の魔法はかなり扱えるようになったし魔力も増えた。

だけど、相変わらず従魔たちに分ける魔力が圧倒的に多いので、戦闘で自由に使えるわけではない。

そこでとにかく魔力消費の少ない魔法の訓練を中心に行った。


そして、紅月が明けて、光月の週の初日。

土の迷宮の攻略メンバーと、さらに俺の秘密を知る秘密同盟のメンバーが館に集まった。

迷宮で得た知識を共有するためだ。


さすがに人数が多いので、普段は使っていない大食堂に入ってもらう。

料理は、俺とセバスチャンが用意した。

一人だけのんびりさせてもらったので、せめてものお詫びだ。

メインメニューはなんちゃってタンドリーチキン(トスガルズの<蝕>で手に入った鳥の魔物)を用意した。


集まったのは。

ローガンさん、アレッセさん、ロッカさんの狩猟者組。

ユーミリアさん、アンジェルキアルさんとルーネン、アスナイさんの復帰組。

トスガルズ騎士団のカイゼルさんとギースさん、治療院のニケさんとハイセちゃん。

そして、カブとリズ。


俺も含めて13人。

こんなにも多くの協力者がいてくれることに、改めて胸が熱くなる思いだ。

さらにトスガルズとノルムガルの狩猟ギルドのマスターもある程度事情は知っているらしいけど、今回は参加を遠慮してもらっている。

これから話す内容はかなり刺激的な内容を含んでいるし、まずこのメンバーに話しておきたい。

というか、どっちも顔とか知らないし。


「全員が揃う機会がなかなかなくて遅くなりましたが、皆さんのおかげで土の迷宮を攻略することができました。改めて、ありがとうございます。今から、迷宮の最奥で起きたことをお話しします。皆さん食事しながらで構いませんので、聞いてください。」


タンドリーチキンに群がる手を眺めつつ、席を立つ。

なんかすごい勢いで鳥がなくなっていくけど、たぶんちゃんと聞いてくれているはずだ。

コホン、と咳払いをして、迷宮で見聞したことを報告する。


迷宮の最奥には器を持つ者しか入れないこと。

そこに現れた不思議な回廊。

土の大精霊との出会い。その通訳という土の精霊のこと。


「土の精霊は、迷宮のことを『滅びに抵抗する世界の意思』だと言っていました。この世界は因果が奪われ、滅びに向かっている。そして、その因果をなんらかの手段で奪っているのが天魔だと。」


そこで、集まった人たちの手が止まった。

俺は説明を続ける。


「器を持つ者だけが最奥に行けるのは、天魔に対抗する力を得るため。つまり、大精霊の加護を得るためだそうです。そしてもうひとつ。天魔に対抗するため、古き因果を身に宿す者・・・<精霊憑き>の協力を得よということでした。」


食堂の空気を、静寂が支配する。

説明をする立場ながら、荒唐無稽な話だと思う。

そもそも世界が滅びに瀕しているなんて言われてもピンとこないし、器を持つ者とか因果とか、精霊憑きというのもよくわかっていないのだ。

だが、そこでニケさんが予想外の言葉を口にした。


「ちょっと話が大きすぎて理解しきれてないけどね。<精霊憑き>ならここにいるよ。」

「え!?」

「うちのハイセがそうさ。今回あんたらの迷宮攻略に参加させたのも、そもそもは覚醒のきっかけになるかと思ったからなんだよ。」

「か、覚醒ですか?」

「<精霊憑き>てのは、色々面倒でね。まあ詳細は省くけど、覚醒しないと本来の能力を発揮できないんだよ。まあ、今回は覚醒に至らなかったみたいだけどね。」

「す、すみません!」

「いやいや・・・ハイセさんが謝ることではないですけど・・・。」


まさかこんな身近にいたなんて。

と思う間もなく、続けてカブがおずおずと言った感じで手を挙げた。


「こ、この面子で隠し事はしない方が良いと思うから言うけどさ・・・その、たぶんおいらもその<精霊憑き>て奴だと思う。・・・おいらは、その・・・闇の精霊で・・・覚醒もしてないけど・・・。」

「カブも!?」

「あ!あの、わ、私はたぶん光の精霊だと思いますです、はい!・・・あ!私はたぶん、聖属性です、はい!」とハイセちゃん。

「・・・あ、そうか。もしかして、天魔が二人を最初に狙ったのは・・・。」

「うんうん。それで納得したよ。タクトくんが戻ってくる前、なんで天魔が二人を執拗に狙っていたのかよくわからなかったんだよね。」

「その通りですね!いやあそうですか。その天魔の狙いを、タクト少年が見事に挫いて見せたと!なるほど、ちょっと今日は未知の情報に触れすぎて脳がやばいです!迷宮のナゾ、精霊憑きのナゾ・・・そして天魔・・・ああもう!これからしばらくは眠れそうにないですね!!」

「ユーミ、アンジェ、気持ちはわかるけど落ち着け。」

「うわ、アスにそんなこと言われる日がくるなんて!」

「明日は季節外れの<蝕>ですかね。みなさん、備えを!」

「だからうるせえっての!?」


復活組が口を開いたのを皮切りに、食堂はしばし喧騒で包まれた。

それぞれがそれぞれに話をしだして収集がつかない。

だけど、そこで感じたのは全く別のことだった。


「あ、あの!み、みなさん、俺の話を信じるんですか?協力を得るために適当なことを言っている可能性だって・・・」

「ふん。小僧がそんな器用なことをできる人間でないことは、最初からわかってる。」

「ふむ。そうだぞ小僧。何より世界の危機に立ち上がらんでどうするか。騎士としてこれ以上の場はない。血が滾るわ。」

「なんて言ってるけど、二人は単に戦いたいだけだから。タクトくんは気にしなくていいよぉ。」


とローガンさん、カイゼルさん、ギースさん。


「俺たちはここまであんまり関われてないけど、最初に少年を拾った時から縁は結ばれたと思ってる。次からは、俺たちも手伝わせてくれよな。」

「そうだよー。私たち、結構タクトくんのこと気にしてるんだからね?」

「ああ!そうです!それです!迷宮の最奥にいけるのが器を持つ者だとして、誰が適性を持っているのかはわかりませんからね!次からは、最奥攻略は可能な限り大人数で行くべきです!」


と、アレッセさん、ロッカさん、アンジェさん。


「おうそうだぜ!あたしは火!火だ!絶対に適正あると思うからよ!火の迷宮は絶対あたしを連れてけよな!」

「いやまて。火は俺だ。」

「まてまて貴様ら!火は俺だろうが!」


と、アスナイさん、ローガンさん、カイゼルさん。


そして。

そこからは、留まることなく議論が続く。

でもそれより、俺の話をまったく疑うことなく、どう協力するかでいがみ合う彼らの姿が。

嬉しくて。


俺はもう一度、静かに彼らに頭を下げた。


この世界が今どういう状況にあるのか、まだまだ分からないことは多い。

俺にできることも、俺と飛鳥馬(あすま)が呼ばれた意味も分からない。


だけど、ここに結ばれた縁には、きっとなにか意味があるのだろう。

ならばその縁に報いることが、俺の最善だ。


そう思った。






そして夜は更けて。

集まったメンバーを、酔いどれてめんどくさくなったメンバーをそれぞれルルの客室に押し込んで。


ふと、久しぶりに外に出たくなった。


なぜなのかはわからない。

気の赴くまま、俺は夜の街に出た。


「あはっ!なんとなく、今日は会えると思ったんだ!ひっさしぶりだね。ごちゃごちゃの少年。」


夜の闇の中。

他の月より小さな光月の輝く夜。

その夜の闇で出会ったのは、この世界とは隔絶するような、壮絶な美しさと孤独を全身に湛えた一人の女性。






常夜の剣姫だった。


お読みいただきありがとうございます!

このお話で、この章は終幕となります!

次話からは新章となりますが、ちょっと仕事が忙しく、新章開幕はしばし間をおかせていただきます。

お読みくださってる皆さまには申し訳ないですが、しばしお待ちいただければ幸いです!

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