4-7 カブとラタトスク
光月3日目。
俺たちは久しぶりに迷宮へと足を踏み入れた。
目的は2つ。
1つは新たなメンバーとなったカブ、そして進化を果たしたラタトスクの能力を把握し、連携を確認すること。
そしてもう一つは、イブンの隠れ家にあるという「もうひとつの秘密」を探すことだ。
「それじゃあ、まずはカブからでいいのかな?武器は何を使うの?」
「へへへ。おいらはこれさ!」
そう言ってカブが取り出したのはちょっと長めの短筒だった。
表面にはカイト爺のものとも、ユグドラシルのものともちがう、変わった文様が施されている。
文様というか、文字だろうか。ルーン文字みたいな感じだ。
「これは・・・杖?いや、楽器なの?」
「どっちもあってるぜ!おいらの天職は【巫術士】。固有スキルは【操影】と【操奏】の二つだ。」
「え!?固有スキルが二つもあるの?」
【操影】は影を操って敵を惑わす技。
【操奏】は、音楽に魔力を乗せ、敵を混乱させることができる技。
いずれも闇魔法との関りが深いスキルで、【巫術士】はほぼ必ず闇魔法の使い手となるらしい。
カイト爺もあったことがないと言うから、レアな天職なのかもしれない。
「それで楽器か・・・笛として使うのかな?」
「そうそう。だけどそれだけじゃなくて、こいつは吹き矢としても使えるんだぜ!」
「敵を惑わして、混乱したところに気配なく近づいて吹き矢で仕留める・・・なんていうか、暗殺者向きの能力だね・・・。」
「う、そ、それを言うなよ。だから今まで黙ってたんだからさ。」
「あ、ごめん。悪気があるわけじゃないんだ。」
「ま、そういう反応になるのはわかるからいいけどさ・・・。」
『ともかく、一度実際に戦ってるところを見せてもらったらどうじゃ?』
「そうだね。カブ、いいかい?」
「おう!そんじゃあ行くぜ、【操影】!」
カブが声を上げると、体から湧き出た魔力が黒い影になって前方に現れた。
真っ黒なことを除けば、形はカブそっくりだ。
その影を先頭にしばらく進むと、岩のすき間からネズミの魔物が飛び出してくる。
だがネズミが飛び掛かった先はカブの作った影の方で、攻撃は素通り。
そこにカブが短筒を横に構えて音を奏でる。
その音を聞いたネズミは酔ったようにフラフラと体を揺らし、ついには横倒しに倒れてしまった。
ネズミが倒れたところで、カブは短筒を縦に持ち替え、今度は吹き矢として使う。
楽器としても武器としても使えるようなギミックが施されているのだろう。
矢を打たれたネズミはビクンと体を痙攣させたあと、絶命した。
「す、すごいな。影の方に気配を持たせているの?」
「へへへ!そうだぜ!まあ、【操影】は魔力の消費が大きいから、あんまり使えないんだけどさ。」
「そうなんだ。いや、それでもすごいよ。吹き矢はなに?毒?」
「矢に闇魔法を付与してあるんだ。レベルの低い相手ならこれで倒せるし、体に毒は残らないから普通に売っても問題ないぜ。」
『たいしたもんじゃのう。魔法は他にも使えるのか?』
「もちろん。おいらは闇魔法専門で、相手の動きを邪魔する魔法が多いから、戦闘では攪乱とか支援が中心になるけど。」
「それはますます助かるなあ。」
「へへへ。どうだい、見直したかい?」
カブはそう言って得意げに笑った。
カブ本人はアミュレットとカブ自身の能力で気配を隠せるから、狙われる心配はまずない。
戦闘では、影に徹して相手の行動を阻害し、いざという時には【操影】で囮をつくり出したり、吹き矢で直接攻撃もできる。
共感の糸を使っておけば仲間がカブを見失うこともないし、これなら連携は気にしなくても十分に即戦力として使えそうだ。
正直に言うと見た目は幼児そのもののカブを戦闘に加えるのは心配だったけど、問題ないだろう。
「ていうか、これだけできるんなら、最初から狩猟者をやればよかったのに。」
「気配を消せるっていう隠し技は見せたくないって言っただろ。闇魔法だって、熟練すると相手に幻覚を見せたり洗脳したりできる魔法だから、気味悪がられるんだ。」
「ああ、そうなんだね。」
「・・・タ、タクトは気味悪くないかい?」
「ん?僕?いやまったく。むしろ心強いよ。」
「へへ、タクトならそう言ってくれると思った。だからおいらもパーティに入れてもらおうって決めたんだ。」
「うん。期待してる。だけどこんな能力があるなら、天魔と戦ったときにも力を借りればよかったよ。」
「ああ・・・いや、あれはダメだぜ。レベルが高すぎたし、タクトの気配を消すのに全力だったし。」
「そうなんだ。」
どうやら闇魔法は高レベルの相手には効きにくいらしい。
さらに相手が魔物ならともかく、高度な思考を備えた相手には【操影】は効果が薄いということらしい。
まあ、見た目が真っ黒だからすぐにバレるか。
「闇魔法の方は、実際に連携しながら見せてやるよ。」
「うん。そっちも期待してるよ。」
とりあえずカブの戦い方はわかったので、次はラタの番だ。
「ラタ。それじゃあ次はラタの番だよ。進化してどんなことができるようになったのか、見せてくれるかい?」
「ぴう!!」
共感の糸を得てから、ラタとはずいぶんコミュニケーションがしやすくなった気がする。
この技は本当に便利だ。タミルさんに教わることができて良かった。
この技の新しい使い方についても、試してみたいことが色々あるけど、それはある程度連携が形になってからかな。
と、そんなことを考えていたら再びネズミが襲ってきた。
今度は2匹同時に、先頭を歩いていたラタに飛び掛かる。
「ぴ!」
ラタは動じることなく小さく声を上げる。すると、地面から生えた氷柱がネズミを串刺しにしてしまった。
「うわ!すごいなラタ、やっぱり水属性が使えるようになったんだね!」
「ぴう!ぴうう!!」
どこかしら自慢げに声を上げるラタ。
だけどラタの能力はこれだけではなかった。
まだ見せたいものがあるような素振りを見せるのでお願いしたところ、突然ラタの体が大きくなり、見た目も白銀の狼の姿に変わったのだ。
サイズで言えば、大型犬くらいだろうか。
立ち上がると今の俺の身長よりちょっと小さいくらい。
手足をつなぐフクロというか膜はなくなり、まさに精悍な狼という感じなのだけど、白い毛並みは銀の光沢を帯びて神々しさすら感じるほどだった。
一体どんな原理なのかさっぱりわからないので【共感】を使ってみると、巨大化した体は魔法でつくられているらしい。
ということは、魔力が増えればもっとサイズを大きくできるのかもしれない。
「す、すげえ!ラタすげえ!めちゃくちゃ強そうになってるじゃんか!」
「こ、これは・・・。美しい・・・。」
カブとリズも目を丸くしていた。
『これは驚いたのう・・・。姿を変えられる魔物というはそれなりにおるが、そういうのはだいたい上位の魔物じゃぞ。フクロリスの巨大化など聞いたこともない。』
「そうなんだ、すごいなラタ!」
「グル・・・グルル・・・。」
「わ。変身すると鳴き声もかわるんだね。なんか凛々しくなったよ。」
「タ、タクト・・・わた、私にもその、さ、さわらせて。」
「グル!?」
「リズ?・・・ラタ、リズがああ言ってるけど?」
実はリズもモフモフ好きというのが昨日発覚したばかりだけど、リズ的には凛々しいラタの方がストライクだったようだ。
ラタがスッと近づくと、リズは恐る恐るといった感じでラタに抱き着き、首元に顔をうずめて「ふわあ・・・」と声を上げた。
(タ、タクト・・・リズってこんな感じだったっけ?)
(ああ・・・うん。今までのクールなリズを見ていたら驚くよね。でも多分、こっちが本当のリズに近いんだと思うよ。)
(そうなの?)
(僕も驚いているけどね。少しずつ自分を隠さなくなってるってことだろうから、触れないであげて。)
(う、うん・・・わかったよ。)
共感の糸を通じてカブとそんな会話を交わす。
と、そこでラタの変身が解けた。
どうやら大型化にはかなりの魔力が必要らしい。
顔を埋めて匂いを嗅いでいたリズがちょっとしょんぼりした顔になってる。
「さ、さて、それじゃあここからは連携を試しながら行こうか。といっても、3階層くらいまではラタだけで無双できちゃそうだけど。」
「ぴうう!!」
「変身は大変そうだから、ラタはそのままでいいからね。」
「ぴ!」
肩に戻ったラタに魔力を与えた後、今度は連携を確認しながら進んでいくことにする。
ラタは生み出した氷に糸をつけて振り回したり、盾として使ったりすることもできるようだ。
単純にこれだけで、ラタの攻撃防御ともに手数が大きく増えるのでありがたい。
さらに以前からもっていた風魔法も強化されているらしい。
カブの方は相手の平衡感覚を狂わせたり、視界を遮る魔法を使って見せてくれた。
【共感】を使って視ると、どうやら闇魔法というのは聖魔法とは真反対の魔法なのだとわかってきた。
聖魔法が他者の魔力との親和性が高いのに比べて、闇魔法はその親和性がほとんどない。
それを逆に利用して、相手の魔力の流れを阻害するものらしい。
攻守ともにレベルアップしたラタと、攪乱に特化したカブ。
いずれにしてもハッキリしているのは、どちらもパーティ戦ではすごく頼りになる能力だということ。
彼らの動きに合わせてどう動くのがいいか、リズと確認しながら慎重に進んでいく。
リズには投擲も積極的に使ってもらいたいので、その使いどころなんかも要相談だ。
今日のところは、とりあえず小石で代用だけど。
さすがに戦闘になったら、リズはいつも通りのストイックさを取り戻していた。
ただ、以前よりも俺の意見をより真剣に聞くようになった気がする。
過大な期待をされるのはちょっと困るけど、彼女なりに変わろうとしているのだろう。
「ここまでは全く問題なかったね。それじゃあ落とし穴は前回と同じ方法で行くから集まって。」
そうして俺たちは順調に歩を進め、三度目となるイブンの隠れ家へと足を踏み入れた。
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