3-20 新パーティ
紅月の終わりとともに<蝕>もひとまず収まり、トスガルズの町はようやく平穏を取り戻した。
10日間にわたった防衛戦では、多くの死傷者が出た。
特に最後まで外壁の上で魔物と渡り合い続けた騎士団の被害は大きかった。
それでも日常は、驚くほど当たり前に訪れる。
昨日まで隣にいた人が、もういないのだとしても。
どんなに辛くとも、人々は日常の再訪を喜び、前を向いて生きていく。
改めて、この世界の人々の強さを認識させられた。
日常を取り戻した市民たちにとって明るいニュースといえば、やはり勇者と王女だ。
非常時であったため、お披露目や歓迎の式典などは行われなかったが、<はじまりの迷宮>で禊を済ませた勇者一行が王都へ帰還する際は、多くの市民が門前に詰め掛けて出立を見送った。
もちろん俺も、カブとリズを誘って見送りに行った。
沿道から勇者や王女に喝采を送る人々を見て、彼らにかかる期待の大きさを改めて知る。
慌ただしい出立となったため、宿での一件以来、彼らと再び話す機会はなかった。
だけど、またきっと会える。
そう信じて、馬車の中から手を振って沿道の市民に応える悪友の健闘を祈った。
勇者一行の見送りを終えた後、カブとリズを昼食に誘った。
一晩中魔物と戦い続ける日々は思った以上に過酷で、これまでゆっくりと話をする機会がなかったのだ。
彼らも何か話したいことがあるらしく、以前カブに教えてもらった食堂で個室を借りることにした。
「ええと、まず二人とも、飛鳥馬救出の件は本当にありがとう。二人がいなかったら、僕は生きてここに戻ることができなかったかもしれない。それと、危険な目に合わせてしまってごめん。できるだけ危険な目には合わせないって言ったのに、リズにはひどいケガまでさせてしまった。本当にごめんなさい。」
「私は・・・。」
「おいらは別にいいよ・・・けど、勇者さまとタクトが知り合いってどういうことなのさ?」
「うん。そこも話しておかなきゃだね。ちょっと長くなるけど、聞いてくれるかな。」
すでにカイト爺には話したことだけど、二人には俺が異世界から来たことを話すことにした。
召喚された勇者である飛鳥馬との関係を語る上でも必要なことだし、森で出会ったイブンとの件もある。
今後のことを決めるうえでも、俺の立場をはっきりさせておいた方がいい。
なにより、危険を承知で付き合ってくれた二人には、伝えておくべきだと思ったからだ。
「・・・今までだまっててごめん。でも、そういうわけで、僕は今後迷宮を回って、飛鳥馬を死なせない方法や、この体の持ち主であるタクト少年のこと、それからできれば元の世界に戻る方法を調べたいと思ってる。もちろん危険も大きいし、リズの目的とは合わないこともわかる。だから、ここでパーティが解散になっても仕方ないと思ってる。」
話を聞いたカブとリズは、どう返事をすればいいのか困っているようだった。
まあ、いきなり異世界の人間で勇者の知り合い、だもんな。
森から帰還する際に回復魔法を使うところも見せたけど、まさかそれが伝説の大魔導士イブン・ハイヤーンの指導によるものだとは思ってもみなかっただろう。
「・・・タクトにとって、私は足手まとい?」
口を開いたのはリズだった。
予想外の返答に驚いたけど、彼女の表情はひどく思いつめた様子で、そして言葉には怒りが滲んでいる。
「足手まといだなんてとんでもないよ!最初に言った通り、二人には本当に感謝してる・・・」
「だったら!!」
声を荒げたリズはそこでハッとした表情になり、深く息を吸った。
「私は・・・タクトを利用してた。」
「え!?・・・ああ、常夜の剣姫に会うための近道って言ってたもんね。」
「そう。パーティとは言っても、ただ利用してただけ。」
「それは・・・別に悪い事じゃないでしょ。僕だってリズの強さを利用してたわけだし。」
「でも私はその期待に応えられなかった。」
「そ、そんなことないよ。」
「ケガをして、みんなの足を引っ張って、何の役にも立てなかった。」
「ケガなら僕だって。」
「タクトがケガをしたのは私をかばったからでしょ!私のせいであんな・・・!!!」
「べ、別にリズのせいだなんて・・・。」
『タクトよ。一度、リズの話しを聞こう。』
「あ・・・うん。そうだね。リズごめん。」
カイト爺に促され、とにかくリズの話しを聞くことにした。
リズはどう語るべきか悩んでいるようだったけど、少しずつ話してくれた。
「最初は、タクトのやり方がいちいち気に入らなかった。弱いくせに訓練より人の指導を優先したり、ようやく訓練をしたと思ったら、老人の踊りみたいなことをしだしたり・・・。」
「う・・・そ、それは型稽古であって・・・。」
「稽古を放り出して、防具屋にあるばいと?に行ったり。」
「そ、それはユグの成長のためで・・・。」
『タクト。黙って聞かんか。』
「だけど、それはすべて意味があった。それをタクトは示して見せた。」
あれ?ディスられてると思ったけど、もしかしてこれ、褒められてるのかな?
確かに、訓練で色んな人のスキルを見せてもらった経験は、今回の遠征で役に立った。
共感の糸や回復魔法を使えるようになったのも、意識して共感の訓練をしていたからだろう。
「私は今まで、ただひたすら戦うことが強くなる道だと信じていた。だけど、タクトが教えてくれたおかげで【身体強化】の新しい使い方に気づくことができた。」
「まあ、僕自身もスキルの使い方は悩んでいたから、それはたまたま・・・。」
「ちがう!タクトは凄いんだよ!私は・・・私はっ・・・!!!」
「リズ?」
「・・・天魔が現れたあの瞬間・・・私は動けなかった。たぶんあの時私は・・・生きることを諦めた。でもタクトは違った。私をかばってケガをして、それでも諦めなかった!」
「・・・リズ。」
「止めを刺すときもそう。もうどうやっても勝てないと思った。でもタクトが作戦を教えてくれて、その作戦通りに勝った。何が違う?タクトは強い。私よりずっと!一体何が違うの!?」
「それは・・・。」
「お願い・・・私はもう、どうしていいのか分からない。タクトに見放されたら私は・・・。」
ようやく俺は、自分が盛大な勘違いをしていたことに気づいた。
今までずっと、リズのことをすごいと思っていた。
強くて、ストイックで、クールで、周囲の事など気にも留めず更なる強さを求めているのだと。
でも狩猟者である前に、リズだって一人の女の子だ。
そんな当たり前のことを忘れてた。
リズはずっと苦しんでたんだ。己の弱さに。
俺のこともちゃんと認めてくれてたんだ。
ちゃんと向き合っていなかったのは俺の方だ。
「リズごめん。見放すだなんてとんでもない。そんなことはしないよ。」
「でも私は、どうすれば強くなれるのか分からない。私は・・・タクトのように強くなりたい。」
「だったらさ。まず、笑ったらいいと思うよ。」
「・・・笑う?」
リズは何を言ってるんだという表情を浮かべた。
「今日さ、飛鳥馬たちを見送りに来てた人たちは、みんな笑ってたよね?家族や友人を失った人も多いのに。あれを見て、みんなすごいな、強いなって思ったんだ。」
「・・・・・。」
「強さって色んな種類があると思うんだ。それでもし僕に、どこかでリズに勝ってる強さがあるのだとしたら、生きたいと願う気持ちくらいだと思うんだ。」
「・・・生きたいと願う、気持ち?」
「そう。生きていたいから、必死で考える。死にたくないから、あがくんだ。みっともないかもしれないけど、それだって強さだと思うんだよね。」
「・・・。」
「でもリズは違う。まるで、楽しむことは亡くなったご家族への裏切りと思ってるみたいだ。」
「それは・・・。」
「でもそれは、本当にご家族の望みなのかな。僕はリズに笑ってほしい。生きていることを苦行みたいに思わないでほしい。強くなるための努力はもちろん必要だけど、生きたいと思える毎日を送ってほしい。それだって、強くなるための道なんだと僕は思う。」
「でも・・・だけど私は・・・。」
「最初は難しいかもしれないね。だからリズ、仲間になろう。」
「・・・え?」
目を丸くするリズに向けて、言葉を重ねる。
いまできることは、誠実に向き合うことしかないから。
「ただのパーティじゃなくて、互いに高め合える仲間に。一緒に考えよう。一緒に笑って、一緒に悩んで。強くなるんじゃなくて、強く生きるための方法を探すんだ。」
「・・・そんな風に考えたこと、なかった。」
リズは目を伏せる。
俺の言葉を噛みしめているようだった。
「ただ、常夜の剣姫との再会は遅くなるかもしれない。僕の事情に付き合わせるのは申し訳ないけど、リズさえいいのなら、これからも一緒にいてほしい。」
「・・・常夜の剣姫はいつか必ずタクトの前に現れる。だったら・・・私はタクトと一緒に行きたい。強くなりたい。う、うまくできるかわからないけど・・・な、仲間になってください。」
そう言ってリズは少し頬を赤らめる。
さっきの泣き顔もそうだけど、普段はクールな表情を崩さないのに、今日はレアな表情ばかりだな。
正直、ちょっとドキッとしちゃったよ。
「だったら、おいらも混ぜておくれよ!」
「カブ?どういうこと?」
「おいらもさ、森でみんなが戦うのを見て、ちゃんと仲間になりたいって思ったんだ。案内人とか雑役夫としてじゃなくて。だから、これ。」
そこでカブは一枚の金属板を机の上に置いた。
「これって・・・狩猟者証?カブ、狩猟者になるの?」
「そうだぜ!いやあ、いきなりパーティ解散とかいうからびっくりしたよ!狩猟者証をとったのに、無駄になるとこだったじゃんか!」
「じゃあ、カブも?」
「うん。今はまだ見習いだけど、ちゃんと強くなって見せる。だからタクト、おいらをパーティにいれておくれ。いやちがった。おいらを仲間にしておくれ。」
「カブが考え込んでいたのはこのことだったんだ・・・けど、どうしていきなり?」
「う~ん。まあ、細かい事情はそのうち話すよ。な、いいだろ?」
「それはもちろん嬉しいけど・・・。」
「やった!そんじゃ決まりだね!」
『良かったではないか、タクト。迷宮の最奥をめざすなら、信頼できる仲間は必要じゃ。二人は誰より信頼できる仲間じゃろう?』
「そうだね・・・。うん。ありがとう二人とも。これからもよろしくね。」
「よし、そんじゃあ乾杯しようぜ!乾杯!」
多少の行き違いはあったけど、ちゃんと腹を割って話をして良かった。
リズのことも、前よりわかった気がする。
カブの細かい事情が気になるけど、本当に信頼できると思ったらその時にきっと話してくれるだろう。
成り行きで始まったパーティだったけど、これからは仲間だ。
カブという新たなメンバーを正式に迎え、俺たちは次の目的に向けて新たな一歩を踏み出した。
お読みいただきありがとうございます!
これにて、3章は閉幕でございます。




