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暁月の従魔士  作者: まぼろし
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3-12 トロル戦

トロル襲来の報にいち早く反応したのはローガンさんだった。


(ロッカ、持ち場を代われ!他は現状維持!俺はトロルにあたる!)


共感の糸を通じて伝えられたローガンさんの指示を他のメンバーに伝える。

それと同時に、ローガンさんはトロルに向かって駆け出していく。

騎士団の方でもカイゼルさんとギースさんがそれぞれ動きだしたのが見えた。


対するトロルは、4体。

ローガンさんたちが1体ずつで、残りの1体は騎士団の数人がチームで当たるらしい。


「トロルを近づけさせるな!馬車から離れた所に連れ出せ!」

「「「「おう!!」」」」

「はいはーい。」


カイゼルさんの号令に、騎士たちは勇ましく、ギースさんは力の抜けた声で応える。

トロルとの対決がそれぞれに始まる。

いずれも初手は森の中へと釣り出すという選択。

木々をうまく活用すれば、巨体のトロルは動きが制限される。

だが、森に入るということは、トロルだけでなく次々に集まってくる獣たちも相手にするということだ。


『タクト。こちらも気を引き締めて当たらねばまずい。あちらを気にしている余裕はないぞ。』

「そうだね。わかったよカイト爺。」


最大戦力であるローガンさんが抜けた穴は全員で埋めなければならない。

俺は馭者をタミルさんに代わってもらい、屋根上にあがった。


しかし、魔物は数だけでなく、種類も増えつつあった。

トロルに付き従っていたのか、熊のような大型の魔物も現れ、形勢は少しずつ悪くなっていく。

アレッセさんとロッカさんが頑張ってくれているが、さすがにキビシイ。

カイト爺に守られている俺はともかく、リズは小さなケガを負うことも増えてきた。


(リズは一旦下がろう!カブに薬をもらって!ラタ、サポートを!ロッカさん、右手の茂みから熊型が来ます!3・2・1、今!)


タミルさんの従魔である鷹のオングの視界を借りて、個々のサポートを行いながらの戦闘。

自分の視界とごっちゃになって、自分がどこにいるのかわからなくなる。

しかもまだ慣れてないので、送られてくる情報に意識を集中しすぎると体の動きがとまってしまう。

ゴリゴリと精神が削られるような、溺れているような感覚にめまいがする。


『タクト!さすがにこの乱戦の中で戦闘しながらの指示だしはムリじゃ!』

「そうは言っても今やめるわけにはいかないよ!」

『ならば儂が指示を出そう。』

「カイト爺が?」

『ラタとオングの視覚情報を儂に送ってくれ。それを見て儂が指示を出そう。ただつなぐだけなら、なんとか戦闘しながらでもできるのではないか?』

「わかった、やってみよう。」


頭に流れ込んでくる情報を取捨選択しながらの戦闘は、今の俺にはムリだ。

だが単に受け渡しをするだけなら、なんとかなる。

視覚情報はつい体が反射的に反応してしまいそうになるが、意識的に無視して、すべてカイト爺へと送り、カイト爺からの指示はそのまま他のメンバーへと送る。


ムリヤリこの方法を押し通していると、次第に流れ込んでくる情報を意識の外に締め出すコツみたいなものがわかってきた。

通常の戦闘よりはるかに神経を使うけど、なんとかなりそうだ。


ただ、カイト爺の指示もただ伝達してるだけなので、俺への指示を受け取ることができない。


「カイト爺、俺への指示は共感の糸を介さずに出してもらえると助かる!」

『わかった!』


そこでふと、カイト爺は普段どうやって会話をしているのかが気になった。

けど、今はそんなことを検証している場合じゃない。

ともかく新たな指示系統を確立し、治療を終えたリズも戦線に復帰した。

相変わらず油断できるような状況にはないものの、俺たちの連携は徐々に安定していった。


だが、他の馬車はそうではなかった。


特に厳しいのは、トロル対応にチームで当たっていた四台目あたり。

人数が少ない分、トロル以外の魔物に押され始めている。

手前の騎士団チームと最後尾の狩猟者チームがサポートしてはいるが、魔物の数が多すぎて手が回り切らなくなっているようだ。


一方で、トロルと直接対決しているローガンさんたちも、決定打までは与えきれずにいた。

1対1ならともかく、周囲を魔物が走り回っているなかでは厳しいだろう。

むしろたった一人でトロルを抑え続けている事の方が脅威なのだ。


「押し切られる!一旦下がれ!下がれ!」


騎士たちの声が聞こえ、ハッとして後方を見ると、4代目の馬車が横倒しになるのが見えた。

ついに魔物の突撃を許してしまったらしい。

まずい。

あそこを起点に魔物に押し込まれたら、瞬く間に全滅だ。


どうするべきか。

迷っているとすぐ近くの森の中、枝から枝へと飛び移りながらトロルをけん制するギースさんの姿を見つけた。


トロルは体中に矢を生やしている。

ギースさんが打ち込んだ矢だろう。

あれなら、あとちょっとで倒せるかもしれない。

そして最大戦力であるギースさん達が戻れば、なんとか持ち直せるかもしれない。


迷っている時間はない。

俺は共感の糸を通じて、アレッセさんたちに離脱を伝える。


(みなさんすみません!ちょっとだけここを離れます!しばらく指示が送れませんが、なんとか耐えてください!)

(なんだかわからないが、構わないぜ!こっちは俺たちで十分だ。行ってこい!)

(ありがとうございます!できるだけ早く戻ります!)


アレッセさんの了解を得た俺は、つないでいた共感の糸を解除し、ラタとカイト爺に声をかける。


「ギースさんを手伝う!二人とも力を貸して!」

「ぴう!」

『どうするのじゃ?』

「まずは近くまで飛ぶ、ラタ、糸を!」


カイト爺にケープを広げてもらい、さらにラタには糸を飛ばしてもらって近くの木の枝に飛び移る。

そして、枝から枝へとわたり、ギースさんに近づく。


ギースさんの天職は【弓術師】でその固有スキルは【看破】。

【看破】は洞察力を高め、魔物に対しては矢を打ち込むべきポイントがなんとなくわかるスキルだという。

身体能力を高めるスキルではないのに、たった一人でここまでトロルの相手ができるのは訓練の賜物なのだろう。


「ギースさん!」

「おや、少年?助けに来てくれたのかい?」

「後方の馬車がやられました。時間がありません。」

「みたいだね。で、なんでここに?」

「今から僕があのトロルの動きを一瞬だけ、完全に止めます。そしたら、あいつを倒せますか?」

「完全に?なら、倒せるよ。倒して見せる。」

「ではお願いします!」


ギースさんは詳しい説明も聞かず、枝の上で立ち上がると、弓を構える。

移動を止めた俺たちを見て諦めたと思ったのか、トロルが勢いを増してこちらに迫ってくる。


『タクト、まずいぞ。どうする気じゃ?』

「こうする!」


迫りくるトロルに対して、俺は共感の糸を伸ばしていく。

カイト爺やラタにつながっているものより、さらに太い糸だ。

太ければ効果が増すのかはわからないけど、検証している暇はないのでとにかくできるだけ太くする。


棍棒を振り上げた状態で、見る見る迫るトロル。

そして、あとわずか5メートルほどの距離というところで、共感の糸がトロルにつながる。


「今です!」


共感の糸がつながったことで、トロルは俺の視界を得た。

つまり、いまトロルには今まさに自分に襲い掛かろうとするヤツ自身の姿が見えている。

何が起きているのかわからずに、目を見開いて硬直するトロル。

経験したことがないものにとっては、何が起きているのかわからないだろう。

俺とラタが最初につながった時のように。


同時に、俺にはトロルの視界と意識が滝のように流れ込んできた。

その精神はあまりに異質で、五感が捉える情報もまったく異なっていた。

さらに激しい痛み。ギースさんから受けた傷の痛みまでが伝わっているのだ。


「ぐっ・・・!!!」


まるで呪具に触れた時のような感覚と痛みに吐き気を催し、枝から落ちそうになるのをぐっとこらえる。

俺が気持ち悪いと感じるのと同じだけ、あのトロルも気持ち悪さを感じているはずなのだ。


そのわずかなスキをギースさんは見逃さなかった。

目にもとまらぬ速さで、立て続けに2本。

その矢がトロルの両目に突き刺さる。


「グゥオオォオオォオ!!!!」


棍棒を離して両目を抑えようとするトロルに向けてさらに2本。

一本は口の中を。そしてもう一本は喉を穿つ。


「これでもう戦闘はムリだろう。倒しきるのは時間がかかるから、それは後回しだね。」

「さ、さすがですね。」


あ、危なかった。

ギリギリで共感の糸を断ち切ったけど、危うく目に矢が突き刺さる痛みまで共感してしまうところだった。

全身からどっと汗が噴き出す。

これは使いどころが難しい。

だけど、うまく使えば、今みたいにわずかながら相手の動きを封じることができる。


「どうやらそれなりに代償が必要な技みたいだね。今のはまだできるかい?」

「は、はい。」

「なら、まずは他のトロルを倒そう。手伝ってもらえるかな?」

「もちろんです。行きましょう!」


木から木へとわたり、まずは一番近くにいるカイゼルさんの元へ。

カイゼルさんの天職はローガンさんと同じ【魔法剣士】。

だがローガンさんよりも同時に扱える武器の数が多いようだ。

武器を投擲しながらの戦法を得意としているようで、対するトロルには剣や斧、槍などが突き刺さっている。

専用の魔法鞄かなにかで大量の武器を持ち歩いているのだろう。


「カイゼルさん!手伝います!」

「なんだと小僧!邪魔をするな!」

「カイゼルさーん。ちょっと時間がないので今は言う通りにしてくださーい。」

「ギース、貴様、団長に逆らうつもりか!」

「はいはい、お叱りはあとで。少年、やっちゃってー。」

「は、はい。」


まさか手伝うのを拒否されるとは思わなかったが、ローガンさんの同類ならあり得る。

気にしてる場合でもないので、即座に共感の糸を発動。

精神を汚染されるような感覚と一緒に、トロルが受けた傷の痛みまでが俺の中に流れ込んでくる。

歯を食いしばってその痛みに耐え、共感の糸を切るのと同時にギースさんが両目を矢で穿った。

カイゼルさんがそのスキを見逃すはずもなく、最後は大剣を喉に突き刺して止めを刺した。


その後、カイゼルさんには騎士団へと合流してもらい、ローガンさんのところへ。

こちらはすでにかなりの手傷を負わせていたので、共感したときの痛みはさらに大きかったが、倒すのは簡単だった。


そして、ローガンさんも騎士団の救援に向かってもらい、最後のトロルのもとへ。

騎士たちが複数で対処しているため、トロルの正面に位置取るのが難しい。

ギースさんが立て続けに矢を射て、注意をこちらに向けさせた瞬間に共感の糸を発動。


両目を失い、狂ったように暴れるトロルに手間取りつつも、騎士たちは着実に攻撃を重ね、ついにその息の根を止めた。


お読みいただきありがとうございます!

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