3-10 <蝕>の森へ
南門へ向かうと、すでにそこには30人ほどの騎士が集まっていた。
どの人も強そうだ。
恐らくは精鋭が集められているのだろう。
隅の方には狩猟者たちの姿もある。
奥にいる4人組は何度か狩猟ギルドで声をかけられたことがあるな。
彼らが熊爪級の狩猟者なのだろう。
そして、手前にはローガンさんとアレッセさん、ロッカさん。
さらにリズだけでなく、カブも混じっていた。
「カブ、どうしてここに?」
「おいらはタクトたちの専属案内人だぜ?それに勇者救援部隊と聞いたら、だまってられないぜ!」
「いや、すごく危険なんだよ、わかってる?」
「おいらには切り札があるから問題ないさ!」
「いやそうだけど・・・ローガンさん、いいんですか?」
「ふん。」
ローガンさんは不機嫌そうな表情を変えず、鼻を鳴らす。
するとロッカさんが教えてくれた。
「希少な魔法鞄を供出してもらう代わりに連れて行くことになったんだって。」
「そういうこと。よろしくなタクト!」
「ふん。好きにすればいいが、自分の身は自分で守れよ?」
「もちろんだぜ!」
ローガンさんはそう言ってジロリとカブをにらむと、そっぽを向いてしまった。
口では突き放すようなことを言っているが、俺たちのことを心配してくれているのだろう。
だが、カブには気配を隠す力もあるし、もしものことがあっても、彼だけなら一人で町まで戻ることはできるだろう。
「しょうがない。それじゃあカブ、荷物を分けようか。もしもの時のために、分けて持っておいた方がいい。」
「え、タクトそれ魔法鞄じゃんか。どうしたんだ?」
「女王ネズミの毛皮でつくったら、なぜかこうなったんだ。」
「ま、まじかよ・・・そんじゃあおいらはもういらないのか・・・。」
「いやいや、入る量はたぶんカブのより少ないし、魔法鞄だけがカブを雇う理由じゃないから。」
「そうか?そうだな!そうだよな!」
そんな話をしつつ、カブのカバンからはいくらかの薬をもらい、こちらからは食料や布なんかをカブのカバンに詰め替える。
するとそこにギースさんが一人の女性とやってきた。
女性は2頭の狼を従えており、狼の頭には鷹のような鳥が乗っている。
従魔士だろう。
「やあ少年、今朝ぶりだね。まさか魔法鞄もちとは、狩猟者は侮れないねえ。」
「ギースさん、朝は失礼しました。よろしくお願いします。」
「うんうん。ところで、うちの団員を連絡要員として君たちの馬車に乗せてもらいたいんだ。ほら、あいさつしてね。」
「は!皆さまと同道させていただくタミル・トラッドです!よろしくお願いします!」
「見ての通り、彼女は従魔士だからね。他の小隊との連絡は彼女の従魔がやってくれるからよろしくね。少年も、この機会に聞きたいことがあったら聞いておくといいよ。」
「ありがとうございます。」
イタズラっぽい表情を浮かべるギースさん。
その意味が分からず、とりあえず礼を言うと、ギースさんは笑みを深めて言った。
「いやいや。ついでに少年の秘密を探ってこいっていう団長の命令だから。」
「団長?」
「今朝会っただろう?カイゼルさん。」
「あ、あの人、団長だったんですか!?」
「そうだよ。朝の約束を破ったら、うちの団員全部を敵に回すことになるから、よろしくね。」
「あはは・・・肝に銘じておきます。」
あのヒゲのおっさんが団長で、しかもギースさんは副団長らしい。
どうやらかなりの大物に目をつけられてしまったようだ。
だけどそのおかげで戦闘職の従魔士とも知り合えたのだから、良かったのかもしれない。
「タミルさんですね。よろしくお願いします。」
「は!タクト殿は、従魔士として優れた才能をお持ちと聞いております!ご指導のほど、よろしくお願いいたします!」
「ど、殿はやめてください。それに僕はまだ羊蹄級の狩猟者ですから、敬語も不要です。むしろこちらこそ色々教えてくださいね。」
「しかし・・・あ、いえ。そうですね。では、よろしくお願いいたします。」
タミルさんは20歳くらいだろうか。
短く切った金髪が似合う、精悍な顔つきの美人さんだった。
さっそく互いに従魔を紹介しあうと、タミルさんはラタとカイト爺にひどく驚いていた。
聞いたところ、イザヤの木の実を従魔にするケースはわりと多いらしいのだが、フクロリスと魔物化した武具を従魔にしてるのは、珍しいみたいだ。
フクロリスはあまり見かけないのと、人に懐く子が少ないという。
そして、魔物化した外套の従魔などは見たことがないと言われてしまった。
タミルさんの従魔は、狼はアッシュとラッシュ、鷹のような鳥がオングという名前らしい。
いずれも、騎士団で育てた魔物ということだった。
どうやら騎士団には独自の従魔運用ノウハウがあるようだ。
「へえ。どの子も頼もしそうですね。」
「私個人の力では、とても契約を結ぶことなどできなかったでしょうけどね。私には過ぎた、頼りになる仲間だと思っています。それだけに・・・申し訳ない思いもありますけど。」
そんな言葉を口にしながら狼の頭をなでるタミルさんの目つきには、少し悲壮な色が混じっていた。
危険な任務に向かわせることへの後ろめたさがあるのだろう。
「気持ちはよくわかります。ですが、どの子もきっと、タミルさんと一緒に戦えることを喜んでいると思いますよ。」
「・・・そうですね。ありがたいことです。」
2頭の狼の頭の上で、いつの間に降りたのかラタとオングが鼻先をすり合わせていた。
そんな一匹と一羽を、タミルさんが温かい目で見つめる。
なんとなく、この人は信頼できそうだなと思った。
そこへ、ローガンさんとこれからの予定を打ち合わせていたギースさんが戻ってきた。
「おや。すっかり打ち解けたみたいだね。良かったよかった。」
「従魔士の先輩は少ないですから、嬉しいです。ありがとうございます。」
「あはは。君のおかげで帰ってくる理由ができたからね。むしろこちらこそ感謝してるよ。」
「ご期待に添えるようがんばります。」
明るい笑顔の中に、一瞬だけ悲壮な空気が混じったように感じた。
この人たちはみな、戻ってこれないかもしれないのだと分かってこの作戦に参加しているのだ。
だからこそ、たとえ俺のような者との訓練の約束であっても、それは生きる理由になる。
改めて、気を引き締めなければと思った。
そして、一行はそれぞれの馬車に分乗して町を出た。
先頭はローガンさん、アレッセさん、ロッカさんと俺たちの乗る狩猟チーム。
その後ろに騎士団の馬車3台が続き、最後尾は熊爪級の狩猟者チーム。
魔物との戦いに慣れた狩猟者が前後の警戒に当たる形だ。
最後尾を守る狩猟者チームの馬車にも、騎士団の従魔士が同乗しているらしい。
「と言っても、本番は夕方からだから。みんな、今のうちに仮眠をとって体を休めておいてね。」
「わかりました。」
ロッカさんの言葉に、全員が頷く。
改めて考えてみれば、明け方まで町を襲う魔物と戦い通しだったのだ。
揺れの激しい馬車では眠れないのではないかという心配をするまでもなく、馬車の荷台に乗っていたメンバーはあっという間に眠りに落ちた。
そんな中、俺はなんとなく眠れずにいた。
脳裏をよぎるのは、タクト少年が残したメモだ。
あのメモの中に、このタイミングで勇者との出会いを示唆するようなものはなかったはずなのだ。
もしタクト少年がなんらかの方法で未来を見ていたのだとしたら、なぜ勇者との邂逅を記していなかったのだろう。
もしかしたら、まだ勇者と出会うことはできないのだろうか。
あるいは、タクト少年の見た未来とは、ちがう未来に進みつつあるのだろうか。
そんなことを考えていると、ふと眠っているはずのリズと目が合った。
「タクト?眠れないの?」
「あ、ごめんリズ。ちょっと考え事をしてた。」
「そう・・・。でも、寝た方がいい。」
「そうだね・・・うん。お休み。」
俺の進んでいる道がどうであれ、とにかく今はできることをする他ない。
俺は頭を振ると、揺れる馬車の中で目を閉じる。
町に戻ったら、リズともしっかり話し合おう。
そう思いながら。
そして夕方前、一行は路上で一旦停止する。
持ってきた食料で腹ごなしをしたら、いよいよ<蝕>の中での行軍だ。
「ここから先は馬車から降りて、馬を護衛しつつ徒歩で進む。タクトとタミルは屋根に上って索敵に専念しろ。リズはその護衛だ。アレッセは右側、俺が左側を受け持つ。馭者はロッカがやれ。」
「おいらは?」
「お前は中で待機だ。ケガをしたやつはすぐ中でカブから薬を受け取れ。無理はするな。」
ローガンさんの指示の元、俺たちはそれぞれの位置に着く。
そして、長い夜が始まった。
お読みいただきありがとうございます!




