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暁月の従魔士  作者: まぼろし
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1-3 狩猟ギルドへ

少年の残した紙の束は、何かの覚書のようで、あまり大した情報は得られなかった。

よくわからない単語も多く、要領を得ない。

ただ、日記のような箇所もあり、少年がよその村からこの町にやってきたことはわかった。

どうやら少年は、何か大事な用事があってこの町に来たようだった。


月明りだけでは文字を読むのが困難になるまで紙の束をめくり、その日はそのまま眠りについた。

もしかして眠ったら元の世界に戻るかもしれないと思ったけど、一晩経っても、俺の意識は少年の体から離れることはなかった。


元の体に戻れなくて残念ではあるけれど、せっかくの異世界なんだからもう少し楽しみたいという気持ちもある。

何とも言えない気持ちを抱えてベッドから起き上がり、外の様子を見るために窓に近づく。


眠る時間が早かったせいか、ずいぶんと早起きしてしまったはずなんだけど、町はもう動き出していた。


「とりあえず顔を洗って、魔法の練習でもしてみようかな。」


折角、魔法が使える世界に来たのだから、使ってみたい。

練習方法は昨日ロッカさんが教えてくれたし、試してみよう。


「おはようございます、タクトさん。ずいぶん早いですね!」

「おはようございます、マリスさん。顔を洗いたいので魔石を貸してくださいな。」


受付にいたのは、この宿で働くマリスちゃんという少女だった。

昨日の夜、夕食を食べながらちょっと聞いたところによると、ミゼリアさんの親戚の子らしい。

10歳前後くらいの少女が働いていることに驚いたけど、この世界では当たり前のようだ。

というか、今は俺も似たような年齢のはずだから、他人のことは言えない。


マリスちゃんから魔石を受け取って、1階奥の洗面室へ。

洗面室といっても、周囲が仕切られただけの土間だ。

受付で魔石を借りて、この土間で顔を洗ったり、体を拭いたり、洗濯をしたりするのがこの世界の宿屋のやり方らしい。

風呂という文化はないようだ。


魔石というのは黒い楕円の石で、魔物から取れるのかと思いきや、鉱物だということだった。

表面に刻まれている模様みたいなものが魔術回路になっていて、魔力を籠めることでさまざまな魔法を媒介する魔道具になるという。

今借りているのは、もちろん水を出す魔石だ。


昨日の夜、いきなりこれを渡された時はとまどった。

マリスちゃんにこっそり教えてもらったけど、思いっきり引かれていたから、この世界では使えるのが当たり前なんだろう。

ミゼリアさんにバレるとまた心配されてしまうので、マリスちゃんには黙っててもらうように頼んだけど、ちょっと憐れみを含んだ目で見られてしまった。


魔石に魔力を通すやり方は、少年の体が覚えていた。

これができないと今後の生活に大きく支障をきたすことになるだろうから、素直に助かった。

ついでに、魔力というものも何となく理解できた。

なんというのか、体の中を波が通り抜けるような感覚があるのだ。


体から抜ける波のリズムに合わせて、魔石から水があふれ出る。

仕組みはさっぱりわからないけど、それは驚きの光景で、昨日はつい魔力が枯渇する寸前まで水を出し続けてしまった。


さすがに朝から同じことを繰り返すわけにもいかないので、今日はほどほどで止めて顔と歯を洗う。

歯ブラシは棕櫚のような植物を使ったもののようで、ブラシというよりタワシだ。

歯磨き粉などは当然ない。


土間に掘られた溝に排水を流し、受付に魔石を返した後、宿の裏庭へ移動する。

魔法の練習方法は、昨日ロッカさんがふたつほど教えてくれた。


一つは魔力量を増やす練習。

魔石を使った時のような魔力の移動を全身で、できる限り素早く行うのだそうだ。

実際にやってみると、ついつい手先に意識が行ってしまってなかなかうまくいかない。

手に集めるのは簡単なのだが、それ以外が難しい。

特に足とか頭とかには、魔力を移動させることすらできなかった。


もう一つは、自分の魔力を周囲の魔素になじませる練習。

魔法というのは、自分の魔力を周囲の魔素と反応させることで、初めて発動するのだそうだ。

こちらの方は、そもそも自分の魔力が体外にでているのかもよくわからない。


しばらく我流で色々と試してみたけれど、結局魔法を発動させることはできなかった。

こちらの世界にいる間に、魔法を使えるようになりたいものだ。


その後、マリスちゃんが呼びに来たので練習を切り上げて朝食。

昨日の夕飯もそうだったけど、かなり質素で、お世辞にもおいしいとは言えない。

まあ地球の味覚と違うのは当然だろうし、見た目が耐えられないほどグロテスクでないことを幸運と思うことにして、ありがたくいただいた。


朝食と夕食は宿代と一緒に前払いしてあるそうだ。

タクト少年にも感謝しないといけないな。


朝食の後は、町の見物がてら、狩猟ギルドに行ってみることにした。

少年の所持金はいくらかあるけれど、この世界にいつまで留まる羽目になるのかもわからないし、ある程度は困らないように稼いでおかなければならない。


正直に言えば、魔物退治というものを経験してみたい気持ちもある。


狩猟ギルドはどこですか、なんて聞くとまたミゼリアさんが心配するので、とりあえず町の人に聞くことにして宿を出た。


町の人に道を聞きながら、何度も迷いながら狩猟ギルドをめざす。

昼の明るい光の中でみる街は、露店などが出ているせいか、思ったより活気を感じた。

つい興味が勝って露店を冷かしながら町を歩く。


さんざん迷った末にたどり着いた狩猟ギルドは、やっぱり木造で、3階建ての建物だった。

この町では3階建ては珍しいので、近くまでくればすぐに分かった。


開け放しの扉を潜り、屋内へ。

狩猟ギルドの中は、手前側が食堂というかラウンジのようになっており、数組の狩猟者が備え付けられたテーブルを挟んで会話を楽しんだりしている。

その奥には大きなカウンターがあり、その奥に数人の男女が座っている。

あれが受付だろう。


よくある冒険小説のように食堂は併設されていないんだなと思ったら、脇の階段からあがった2階が食堂になっているようだ。

魔物の死体を持ち込む場所なので、衛生上の配慮があるのかもしれない。


ともあれ、まずは受付へと思って歩みだそうとしたその時、突然後ろから強い力で押しのけられた。


「邪魔だ小僧。そんなとこに突っ立ってんじゃねえ。」


そこにいたのは、傷跡が残る禿頭が印象的な、いかにも強そうなおっさんだった。

吹き飛ばされるように押しのけられた俺を見て、ラウンジにいた冒険者たちの顔に嘲笑の色が浮かぶ。


「お前みたいなひ弱な小僧に狩猟者は務まらん。あきらめて村へ帰れって、前も言ったよな?」


強面のおっさんが低い声でそういうと、周囲からは笑い声が漏れ聞こえてきた。

ああ、なるほど。

俺はなんとなく、少年の立場というか、立ち位置を理解した。


お読みいただきありがとうございます!

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