表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁月の従魔士  作者: まぼろし
2/354

1-2 異世界の町へ

「本当に何から何まで、ありがとうございます。」

「はは、礼ならもう何度も聞いたよ。気にすんな。」

「そうそう。でも、今回はたまたま私たちが通りがかったからよかったけど、二度とあんなとこに一人で行っちゃだめだよ?」

「はい。気をつけます。」


突然動き出した草木に襲われ、危うく殺されそうになった俺は、2人の男女に助けられた。


男性の名は、アレッセ・オーガン。24歳。

金色の短髪と無精ひげが似合う、精悍な印象を抱かせる人だった。

女性の名は、ロッカ・ハリアード。23歳。

赤茶色の髪を短く切りそろえた美人で、快活そうな人だ。


二人は運送屋をしているらしく、商人から依頼された荷物を近くの町に運んだ帰りだったらしい。

さらに「折角助けたのに、放置して死なれたら寝覚めが悪いから」ということで、アレッセさんが所有する馬車で町まで送ってもらえることになった。


いかにも頑丈そうな馬車を牽くのは、サラブレッドのような馬ではなく、足の太いどっしりとした馬。

額からは角というか、宝石でできた突起のようなものが生えていた。


馬を見て驚く俺を、ふたりは「馬を初めて見るって、どんなところから来たんだよ」と言って笑った。

「世間知らずなもんで・・・」と言ってごまかし、ついでに世間知らずの坊主と言う体でこの世界のことを聞いてみることにした。


その結果、色々なことが分かってきた。


まずこの世界は、魔素に満ちた世界であるらしい。

魔素というのがなんなのかはよくわからないけど、魔素は「意識を現象化させる」。

たとえば人が火を願えば、その思いに魔素が反応して火が現出する。つまり魔法だ。


そして意識を持つのは、人だけでない。

動物も植物も、道端に転がっている石にすら、意識が宿るのだそうだ。

そのなかで特に意識を強く宿すものは、魔物と言われる。

人の生活圏を離れるとこうした魔物があふれているので、彼らのような運送屋は人の暮らしに不可欠なのだという。


実際、今も周囲の木々がざわめき、たまに襲ってくるのを馭者台のアレッセさんが器用に剣で防いでいる。

小石がすごい勢いで飛んでくることもある。

近寄っては来ないものの、木々の合間を縫うようにして馬車と並走する野犬のようなものは魔物だろうか。

馬車がやたら頑丈そうだった理由がわかった。


「それじゃあ、僕を襲った木や草は魔物なんですか?」と聞くと、「いやいや、ありゃあ精々『半成』だろう。」と言われた。

どうやら俺は、魔物にすらなっていない草木に殺されかけたらしい。


次にわかったのは、俺が乗り移った少年が狩猟ギルドという組織に所属しているということ。

少年のカバンに入っていた金属板を見せたら、「ああ、やっぱり狩猟者か。まあ、働き口がない奴はそれ以外にないもんな。」という事だった。

どうやらこの世界では多くの者が、魔物を倒して素材を収集する「狩猟者」を生業としているらしい。

ちなみに、アレッセさんとロッカさんも狩猟者を兼業しているらしい。


少年のステータスを見た二人に驚かれたことが2点あった。


ひとつは、少年の種族について。

ロッカさんが「てっきりエルフかと思ったよ」と言っていたのは、おそらく尖った耳を見てのことだろう。

彼らの耳は、地球で見る人間のものと変わらなかったから。

「もしかしたら、エルフの血がちょっとだけ混じっているのかもね。」とのことだ。


もうひとつは、「業」という項目について。

こちらは特に本人に影響を及ぼす項目ではないらしいが、魔物を多く倒したり、交友を広くもったり、多くの者と縁を結ぶことで増えていくのだそうだ。

強い魔物専門の狩猟者や犯罪に手を染めた者は数字が増えやすくなるらしいのだが、こんな数値を見たことはないらしく、アレッセさんに「どんな数奇な人生歩んでたらそうなるんだ?」と聞かれてしまった。


どう返事をしたらいいのか困っていたら、ロッカさんが「まあ、言いにくいなら言わなくてもいいよ。てか、私たちが通りがかったのもその業のおかげなのかもね」と取りなしてくれた。

案外、そうなのかもしれないと思った。


ここで二人に出会えた幸運に感謝しつつ、町の事や狩猟者のこと、魔法のことなど、思いつく限りのことを聞いた。


「全部の質問に答えてやりたいが、時間がいくらあっても足りなさそうだな。まあ仕事がないときは町にいるから、なんかあったら訪ねて来ればいいさ。ほら、町が見えてきたぞ。」


アレッセさんが前方を指さす。

薄闇がかかり始めた大自然のなか、町のあかりが見えてきた。


山々の狭間にあって、そのあかりはあまりにも儚げで頼りない。

でも俺には、それは希望の灯に見えた。



××××××××××



その町の名前は、トスガルズ。

町の入場門を潜った先はロータリーのような空間になっていて、3方に設けられた第2門から町に入れるようだ。


アレッセさんは右側の門を選んだ。

東門という表示があるから、最初に潜った入場門は南門ということだな。


町の第一印象は、西部劇みたい、ということだった。

なんとなく、石造りの家々に石畳の街路を想像していたのだけど、ほとんどの家が木造。

家々の高さは2階までというのがほとんどで、平屋建ても多い。


魔物化するのを恐れてか、街路樹的なものが一切ないのも殺風景さを感じさせる一因だろう。

町の周囲を覆う外壁は石造で高く、その威容と街中とのギャップに戸惑う。

きっと何か理由があるのだろう。


アレッセさんは第2門を潜ってすぐの小広場で馬車を止めた。

ここで積み荷を降ろすというので、手伝うことにする。

おろした積み荷をロッカさんが確認し、広場で待っていた商人風の男や下男風の男がそれぞれに荷車に乗せていく。

個々に配達するのは大変なので、そういう契約になっているのだろう。

馬車の奥に積んでいた荷物は降ろさなくていいと言われたから、一部の取引先は有料で配達するのかもしれない。


「さて。とりあえず町にはついたわけだけど、少年は寝泊まりする場所も金もねえんだろう?とりあえず、家来るか?」

「あー・・・えっと。」


荷物の積み下ろしが終わったところで、アレッセさんが聞いて来た。

どう返事をすべきか。

正直ものすごく有難いけど、あまり好意に甘えるのも悪い。

二人が悪人という事はないだろうけど、この世界の常識も治安もよく知らない状況で、初対面の他人の家に泊まるというのもどうなんだ。

逡巡していると、遅れて荷車を牽いてやってきたおばさんに声をかけられた。


「タクトじゃないか。あんた無事だったんだね!昨日は戻ってこなかったから心配したんだよ!」

「ん?なんだ少年、ミゼリアさんの宿の客だったのか?」

「え?えーっと・・・。」

「ああ、そうだよ。なんでアレッセたちと一緒なんだい?」

「カシュキシュの森辺りで木に絡まってるところを俺たちがたまたま通りがかったんだよ。」

「まあ、そうなのかい?運が良かったね。それじゃあタクト、宿に戻るから荷物を運ぶのを手伝っとくれ。」

「え?いや俺・・・僕、手持ちの金が・・・。」

「?何言ってんだい。10日分、まとめて前払いでもらってるじゃないか。」


どうやらそういうことらしい。

よくわからないけど、とりあえず野宿はしなくて済みそうだ。


そして俺は、アレッセさんとロッカさんに改めて礼を言った後、ミゼリアさんについて宿へ向かった。

荷物を降ろした後、自室へ。

部屋を覚えていなかったことでミゼリアさんに心配されてしまったが、適当にごまかして部屋を教えてもらう。


ベッドのみが置かれた6畳ほどの居室。

そこには、少年の持ち物であろうズタ袋のようなものが置かれていた。

プライバシーを侵害するのは心苦しいが、少年のことを知らなければ今後の生活にも影響がでる。

俺は心の中で少年に謝りつつ、袋の中を検めることにした。


袋の中に入っていたのは、着替えと数枚の硬貨。

そして、メモを書きつけた紙の束だった。


「これが何かの手掛かりになればいいけどな・・・。」


月明かりの差す窓際に移動して、紙の束をめくる。

ふと、一緒に神社近くの池を見に行った飛鳥馬のことを思い出した。


もしかして、飛鳥馬も俺と同じようにこちらの世界に来ていたりするのだろうか。


お読みいただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ