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暁月の従魔士  作者: まぼろし
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1-1 真昼の月

抜けるような青空を縫って、どこまでも高く飛んでいく風船を見ていた。

その先に見えるのは、真昼の月。


僕たちは、ゆっくりと手を伸ばす。

今なら、あの月に手が届きそうで。

でも、伸ばした手がつかむのは空ばかりで。


僕たちは風船に願いを託す。


あの月まで飛んでいけ。

たった一人で虚空に浮かぶ、あの月の元へ。

そしてそこで、美しい花を咲かせておくれ。


永遠を謳歌しながら。

永遠を呪って――。



×××××××××××



懐かしい子どもの頃の記憶。

ずっと忘れていたあの頃を夢に見た。


そして――目が覚めると、そこは知らない場所だった。


「えっと・・・どこだ、ここは?」


そこは森だった。

だが、何か様子がおかしい。

木々や草花の感じが、日本のものではないような?


俺はゆっくりと体を起こす。

目の前にあるのは小さな池。

そこで思い出す。


「そうだ。確か飛鳥馬と一緒に、神社近くの池に行ったんだったよな?」


小さなその池には、特定の時間に訪れると願いが叶うという、どこの地域にもありそうな伝説があった。

悪友である榊飛鳥馬に誘われて、俺はその伝説に乗っかってみることにした。

そして高校からの帰りに寄り道したんだった。

だが、そこから先の記憶がない。


俺は改めて、今目の前にある池を見る。

水は澄んでいて、底の様子までがしっかり見える。

神社近くにあったあの池とは全然違う。


もっと近くで見てみよう。

俺は身を乗り出す。


湖面に映し出されたのは、妙に目鼻立ちがしっかりとした少年だった。


やや巻き毛の、黒灰色の髪。

意思の強さを感じさせる太い眉、スッと通った鼻筋。

やや褐色の肌。

大きくとがった耳。

あえていうなら、南米っぽい感じだろうか。

全体的に整った顔立ちだが、いまは幼さの方が際立っている。


「・・・これは誰だ?」


その呟きに応える者は、周囲にはいない。

だが口にせずにはいられなかった。

どうやら俺は、どこの誰ともわからない少年に精神だけが乗り移ってしまっているらしい。


動揺しつつ、少年の持ち物を検める。

麻のようなごわごわした上着とズボン。

サイズの合わない大きめの皮靴。

足元には、さして切れそうもない短剣。

肩掛けカバンの中に入っていたのは、何に効くのかもわからない軟膏と、あまり清潔ではなさそうな包帯。

そして、小さな金属板。


「見たこともない文字・・・なのに、読める。」


――――――――――――――――

タクト・ミヨーク(人族/12)

職業:従魔士

レベル:10 体力:34 魔力:28

固有:共感

業:999999

――――――――――――――――


どうやらこれは、この少年のステータスを示しているようだ。

気になる箇所がありすぎて、どこから突っ込んで良いのかもわからない。

だが、とにかく地球の常識が通じない世界であることだけはわかる。


見逃せないのは名前だ。

俺の本名、明空(みよく)拓人(たくと)とほぼ同姓同名なのは偶然なのだろうか。


「考えててもしょうがないか・・・。」


ここがどんな世界なのかはよくわからないが、だからこそ、森の中でグズグズしているわけには行かない。

俺は荷物をカバンに詰め込み、俺はその場を離れることにした。


だが数歩進んだところで、突然足を何かにつかまれる。

見れば、足元の草が足首に絡みついていた。


「ちょ・・・なんだこれ?」


短剣を使って草を切り払う。

だが、その間にも反対側から別の草が伸びてくる。


「冗談だろ!?」


短剣を振り回し、草を切り払いながら移動する。

だが周囲は草だらけ。

しかも周辺の木立までがうねうねと動き、枝を伸ばしてくる。


「ぐっ!な、なんなんだよこいつら!!」


足元の草を切り払ったことが誘い水になったかのように、周囲の草木が一斉に動き出す。

しかも、徐々にその動きを速めていくようだ。


まるで周りのすべてが敵意に包まれているような錯覚に囚われ、俺は無我夢中で剣を振り回す。

しかし少年の体力としょぼい短剣では、満足に打ち払うこともできない。

ムチのように振るわれる枝をかわすことも徐々に困難になり、肌が赤く腫れあがっていく。


そして、ついに両腕を拘束され、完全に身動きがとれなくなってしまった。

腕と足をギリギリと締め上げられる。

滅茶苦茶痛い。

だが草木の攻撃はそこで終わらず、さらなる枝が俺の首元に迫る。


まじか。俺は思わず目を瞑る。


俺に乗り移られたことで、この少年は命を落とすのかと思うとやりきれない。

なんとかしなければともがくが、手足はがっちりと拘束されている。


ダメか。

あきらめかけたその瞬間、手前の茂みから冒険者風の男女が現れた。


「坊主しっかりしろ!今助ける!」


彼らはそう言うなり、俺を拘束していた枝や草を次々に切り払う。

すごい。俺の持っていた短剣とは全然違う。


「あ、ありがとうございます・・・。」

「礼は後だ!走れるか?すぐにここから離れるぞ!」

「は、はい!」


俺はどこの誰ともわからない冒険者風の男を追って走り出す。

女性の方は、俺の背後について背中を守ってくれているようだ。


足元がおぼつかないなか、必死に男の後を追い続ける。

幸い、200mほど進んだところで拓けた場所に出ることができた。

どうやら、林道から近い場所だったらしい。


荒い呼吸を整えつつ、俺はもう一度礼を言うために二人に顔を向ける。

だがそこで見た光景に俺は言葉を失った。


二人の背後に見えたのは、見たこともないほど巨大な蒼い月。


非現実的な光景は、ここが地球ではないという事実を俺に突き付ける。

俺はいま、異世界にいるらしい。


お読みいただきありがとうございます!

まったり進行ですが、お付き合いいただければ嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[一言] この物語は一人称視点で描かれていますが、なんとなく三人称っぽさがあります。 それぞれに長所短所があり、どちらが良いということはないと思いますが、なんとなく作者さんは三人称視点のほうが向いて…
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