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王立博物館ガイド6

「人質をとる私たちを前に、魔王は罵りの言葉を発することしかできなかった。私たちも負けじと言い返した。罵声の応酬だった。『バカ』『アホ』『お前の母ちゃんデベソ・オブ・デベソ』の言葉が30往復はしただろうか」


 なんて低レベルな争いなんだろうか。

 とはいえ、ラストバトルで語彙力たっぷりに様々な罵りの言葉を浴びせてもしかたないだろう。

 これもリアルなラストバトル、リアラスなのだ。


「その時幹部がとつぜん魔王に向かって叫んだ。『オレら下っ端のことは気にしないでおくんなせぇ! 魔王様の本気の力で勇者たちに目にもの見せてやってくだせぇ!』。そして幹部は自ら死を選んだ」


 さすが魔王だ。そのカリスマ性は部下が自害を選ぶレベルだったのだ。


「怒りとも悲しみともつかない咆哮を上げる魔王のうちに強大な力が満ちていくことがわかった。空気がビリビリと震え、とんでもない攻撃を予感させた。次の瞬間、魔王を中心として周囲は吹き飛んだ――次!」


 順路に従って進む。

 次の展示が見えてきた瞬間衝撃が走った。


「勇者が土下座してる!?」


 思わず見たままを口に出してしまう。


 勇者シゲル・イシダが荒れ果てた大地に額を押し付けるようにして土下座をしている。かなり情けない姿だ。

 魔王は土下座する勇者の前で腕組みをして仁王立ちしている。その表情はかなり厳しい。


「そうだ。吹っ切れた魔王は全体攻撃を連続しておこなった。私たちは体力を立て続けに削られいっきに形勢が逆転した。次だ」


 やはり魔王は強かったのか。

 全体攻撃のダメージなのか、勇者以外の3人も膝をついてしまっていた。


 言われるままに次の展示へ移動すると、


「また勇者が土下座してる!?」


 勇者の土下座は続いていた。というか、さっきの展示と何が違うんだ? 場面が進んだように見えないが……。


「勇者は大地の精に干渉し、地を削り取った。そこに頭を入れるようにして頭の位置を地よりも下にした。さらなる謝罪の意を示したのだ」


 説明によって初めて気がついたが、なるほど、地面が抉れていてより深い土下座になっているようだ。

 まさか土下座の発展のために2コーナー使うとは思わなかったが。


 仁王立ちする魔王の表情はよりいっそう険しいものになっていた。当然だ。城を吹き飛ばし配下の者を皆殺しにした連中がピンチになったとたん急に謝りだしたのだから。


 リタリ先輩の「次だ」という言葉で先に進む……また土下座が発展していた!


「勇者はふたたび大地の精に干渉。さらに大胆に地を削り、上半身を投げ込むという新しい土下座に挑戦したのだ」


 蝋人形の勇者シゲル・イシダは上半身を地の底に思いっきり潜り込ませて、倒立状態になってしまっていた。まるで『犬〇家の一族』だ。


 魔王も苦笑しちゃってるじゃないか! あんまり困らせるなよ!


「さて、次に進む前に、ちょっとこちらをお飲みになりませんかな」


 館長はいつの間にか近寄ってきていた職員から紙コップを受け取り、僕に手渡した。

 コップには白くてドロっとした液体が注がれていた。

 甘い良い匂いがする。


「これは……なんでしょうか?」


「そちらはラルティーヌ地方産の桃とエルフの集落より取り寄せた蜜で作ったジュースですよ。こちらもご子息たちに飲んでいただく予定でしてな。ま、博物館職員側の予行演習ですな」


「へぇ……いただきます」


 一口くちをつけただけで濃厚な甘さが広がった。

 美味いじゃないか!

 ちょっとドロっとしているが、のど越しが悪いとまではいかない。むしろゆっくりと幸福感が全身に伝播していく。

 あまりの豊かな味わいに脳みそがクラクラしてくる。ここが現実じゃないみたいな気分だ。

 すごいな異世界ドリンク。


「ありがとうございます……とても美味しかったです」


「どういたしまして。これならご子供たちも喜んで飲んでくれますかな」


「絶対に喜んでくれますよ!!」


 大げさでなく地球で飲んだどのジュースよりも美味しかった。

 貴族の子供たち役だからなんだろうけど、僕だけが飲んでしまってなんだか申し訳ないくらいだ。


 リタリ先輩のガイドは続く。


 次の展示では、戦局が進展していた。

 銀色に光り輝く矢が魔王の左胸を貫いていたのだ。


 矢を放ったのは竜騎士のローランドだった。さっきまで膝をついていた他のメンバーも立ち上がり、勇者を穴から引っ張り出している。


「勇者の土下座に気を取られた魔王はローランドの矢をかわすことができなかった。ローランドは竜騎士でありながらありとあらゆる武器の名手でもあった。魔王に突き刺さった矢は戦の女神ドレイルデの神殿で千年間聖水を浴びた特殊な矢だった。私たちは最後の回復をし、命がけで戦った。次だ」


 ようやくまともな戦いになりそうで僕は興奮してきていた。次の展示に急ぐ。

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