アカネ、昔の自分を恨む
アカネは今まさに過去一番の苦境に立たされていた。中東のミサイル前線基地を超高高度からの空挺作戦よりも命の危機を感じている。
(参ったな。栗原に事情を説明するとなると、清水准尉も巻き込むことになるな。今ここで追い出して俺のこと嗅ぎ回られても面倒だしなぁ。)
アカネは今、過去を知る女と今を知る女と何も知らない女に囲まれているわけだ。時間をかければかけるほど人は疑り深くなっていく。わざわざ『思考加速』を発動させ高速で結論を導き出した。
(清水准尉には悪いが巻き込まれてもらうか。栗原の後輩らしいし何とかなるだろ。多少の保険は掛けさせてもらうが。)
アカネそう決め話し始めようとしたとき、それよりも早く栗原が口を開いた。
「何で、自分を置いて行ったんですか!」
栗原は今も真っ赤な目に涙を溜めながらアカネを睨みつける。先程よりも声は小さいが、答えを聞くまで返さないと言う強い決意を感じられた。
「全部話すから落ち着け。あの時の事は、すまなかったと思ってる。」
アカネが謝罪したことに対して驚愕の表情を浮かべる栗原だったが、そんなことに気がつかない清水准尉は自身が一番気になっている事について尋ねた。
「話を遮ってすまないが、栗原先輩とはどんな関係なんだ?ただならぬ仲の様だが、栗原先輩の知り合いとなるとアカネ君も隊員なのか?」
「そうだな。先ずは俺と栗原の関係から話そうか。因みにだが、清水准尉。ここでの話は多言を禁じる。」
アカネは言葉に魔力を込め言霊に変える。それは束縛の魔法となり清水准尉に刻まれる。
清水は自分のされた事に気がつき、言霊魔法使いとして自分が格下であると分らされ苦虫を噛み潰したような表情になる。
「不意打ちで悪かったな。それでも話さない様にするより話せなくする方が清水准尉にとっても都合が良いはずだ。なんせ清水准尉が本当に所属している部隊に関わる話も出てくるからな。」
「書類上の経歴はわたしも知ってますけど、栗原なんて名前の人は出てきませんでしたよ?その割には親密な間柄の様ですけど。」
「そうだな。俺の元々いた部隊は書類には一切残っていない。ユズハのもらった資料にも俺の所属は特戦になってるだろ?特戦すらも偽装なんだよ。」
ユズハは納得した様に首肯し話の続きを促した。
「栗原はその中で俺の小隊の隊員だった訳だ。」
「単なる部下と上司の間柄のようには見えませんけど。」
「それは、俺が昔別の任務で施設を潰した時に実験に使われてたところを助け出して面倒見てたからだ。」
「なるほど。」
ユズハはアカネにしては珍しく濁した言い方をしたのを察してそれ以上深く聞くことをやめた。
「まぁ、それで4年ぐらい前か?俺の部隊で任務にあたってたときちょっとした面倒ごとに巻き込まれてな。軍隊って奴に嫌気を差して逃げた訳だ。」
「自分を置いて行った理由はまだ聞いてません。」
アカネが話に区切りをつけようとした時、今まで素直に聞いていた栗原が口を開いた。
「あの時助けてくれるって、一緒に居てくれるって言ってたのに!」
「約束破っちまってすまなかった。俺が悪かった。それでも置いて行った事に後悔はない。三島1佐は信用できる奴だったし追われる身になるよりはマシだと考えた。身を隠してる時もお前らの活躍は聞いていたし、忘れてたわけじゃないんだ。」
栗原の目からは涙がこぼれ落ちる。
「それでも、それでも自分はアカネと居たかった。」
栗原の言葉にアカネは答えることが出来なかった。それ程に4年4年と言う月日は長かったのだろう。
清水もユズハもその空気の中新たな質問をする気にはなれなかった。
「分かりました。自分は捨てられたのかと思っていましたがそうじゃないことを聞けたので良しとします。アカネ、これが自分の連絡先です。必ず連絡して下さい。」
そういうと栗原は泣き腫れた顔のままアカネに紙切れを一枚渡すと立ち上がり部屋から出て行った。
栗原が出て行った後、清水は職員会議があると言う事で解散となった。
アカネとユズハは大学からの帰り道スーパーに寄り買い物をしてから家に帰った。
「今日は色々ありましたね。」
「随分と疲れたよ。大学が毎日これだったらたまらねぇな。」
アカネの自虐的な物言いにユズハはクスリと笑う。
「大体はアカネさんが悪いですけどね。」
「栗原についてはそうだが、そもそもケイスが間違えてなけりゃ遅れなかったし指導室にも呼ばれる事はなかったさ。」
「いつ来るか分からないことが今日来ただけなのでアカネさんが悪いですね。」
これ以上言っても自分の旗色が良くなる事はないと、アカネは降参するように両手をあげる。
「私は色んなアカネさんが見れたので楽しかったですけどね。」
「からかってるだろ。」
「さて、どうでしょう。」とユズハは微笑みながら答えた。




