アカネ、知る
「日本は最低だ。梅雨があるからな。」
「それだけの理由で日本が最低であると決め付けるのは寡聞であると思いますが、梅雨が最低なのは否めませんね。」
アカネは今清水准尉と昼食を取っている。アカネが日本に帰国してから二ヶ月ほどが経過しており、今は梅雨真っ只中。外ではシトシトと雨が降っている。
「それで、ただ雑談をする為に私を呼び出したわけでは無いのでしょう?」
「まぁな。それでも会話を温めるのに雑談は必要だろ。」
「一般的にはそうでしょうが今は必要だとは思いませんね。」
「すぐに本題に入ろうとするのは職業病か何かか?」
「いえ、どちらかと言えば性分でしょうね。」
清水准尉はなんだかんだ言いながらも結局はアカネの雑談に付き合いながら昼食を進める。別に清水自身も雑談が嫌いとか、話すことが億劫であるとかいう人物では無いのでアカネの返答に焦れる事はない。
昼食の手を止める事なくアカネは本題に入った。
「今回呼び出したのはダンジョンについてだ。そろそろダンジョン実習が始まるんだろ?実際のところ攻略度はどれぐらいなんだ?」
アカネの質問に清水准尉は口をつぐむ。
日本のダンジョンは世界中にあるダンジョンとは深さが違う。世界標準だと五層ほどで深いところでも十層ほどしか無い。
それに比べて日本のダンジョンは未だにダンジョンの全容が明かされていないのだ。以前アカネがニュースを見た時には十九層に到達したと報じられていたのだ。
「ここから先は機密情報になります。公式には未だ十九層で足踏みしている事になっていますが我々が潜ったところ三十層目まで確認しました。しかしながら‥」
清水准尉はそこで言葉を濁す。
「壊滅か。」
「ええ。おそらくは。三十層に到達したと同時に連絡が途絶えました。」
「特戦で無理となると中々に厳しいな。」
「そうですけど、前回の部隊は特戦の中でも強硬派と言いますか、三島1佐と敵対している派閥でしたのでイマイチ実力がわからないんです。」
清水准尉は「私の知り合いも居ませんでしたし。」と付け加える。
アカネはここでも5年という時の流れを感じた。アカネのいた頃は特戦の魔導部隊も創設されたばかりで一枚岩であり、三島1佐の管轄外で起こる事象などなかったからである。
「派閥なんかできたんだな。知らなかったよ。」
「今じゃ特戦の正確な部隊員が何人いるかもわかりませんよ。私も結局は一部隊員なので上の考えてる事は分かりません。」
「それでもある程度は掴んでるんだろ?」
「ええ。まぁそれなりには。」
そう言って清水准尉はこれ以上は話さないという態度で食事を再開する。アカネも聴きたかった事は聞けたし藪を突いて蛇が出ても仕方ないのでそれ以上の追求はしなかった。
その後二人は黙々と食事を続け、配膳トレーを返却し食堂を出た。
「それでは。」と清水准尉が頭を下げて立ち去ろうとするがふと何かを思い出した様にアカネに聞いた。
「そう言えばユズハさんって上層部に知り合いが居るんですかね?」
「いや、そこまで深くは知らないがいないと思うぞ。何でだ?」
「いえ、この前有原2佐と立ち話をしていたので知り合いだったのかなと。まぁでも有原2佐なのですれ違った時にナンパでもしていたんでしょう。」
「気にしないでください。」そう言って清水准尉は立ち去った。
アカネは有原という名前に心当たりは無かったので、どこか少しシコリを残しながらその場を立ち去った。




