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傭兵団解散するってよ。

 東南アジア


 ――


「なぁなぁ、ダンチョー。そろそろ次の仕事はねぇーのか?このままじゃ体がラムレーズンになっちまうよ。」


 そう言って一人の青年は、自分のグラスを飲み干し、空になったグラスに新しくラム酒を注ぐ。


 団長と呼ばれた男は青年の顔を一瞥し、大きなため息をついた。


「おいおい。何だそのため息は。俺の顔がいくら童顔だからって駄々を捏ねる子供みたいな扱いはいただけねーぜ。」


「自覚があるのなら、少しは自重したらどうだ。」


 男は諦めたようにうなだれ、自分のグラスに口をつける。


「ちっ。仕方ねぇ今日も仕事はなしかよ。」


 そう言って青年ーーミツルギ・アカネーーはバーカウンターから立ち上がり他の団員の座る卓に移動していった。


 男ーー傭兵団団長カークスーーは自分たちの現状を憂いていた。自分たちは()()の仕事に戻らなくてはいけなくなった。

 しかしそれには大きな、とても大きな障害が一つある。それこそが目の前の青年なのだ。


 カークスたちは正確には傭兵ではない。海兵隊から選抜された特殊部隊であり、表沙汰にできない裏の仕事をするため傭兵に偽装している。


 しかしながらアカネだけは違う。


 とある事件をきっかけに行動を共にしているうちになし崩し的に傭兵団入りしてしまったのだ。


 カークスは悩みながらまた溜息を吐き、そのままバーカウンターに突っ伏した。


(まさかこんなに早く軍に戻ることになるとは思ってなかったしな。)


 世界にはカークスたちのような傭兵に偽装した特殊部隊は多岐にわたり存在している。

 表沙汰にするわけにはいかない事件を秘密裏に解決する。そのためには軍の記録に残らない部隊というのは有用性がとても高いのだ。


 カークスはアカネと共に今もドンチャン騒ぎをしている自分の部隊員達を一瞥しまたため息をついた。


(あいつらもこの生活に馴染んだもんだ。最初の頃は傭兵に偽装するなんて、不満たらたらでやってなのにな。)


 海兵隊の中でも特別な部隊であったカークスの部隊はグリンベレーにも並ぶ屈強な部隊として有名だった。そこから傭兵である。これはある意味左遷に近く、部隊員達は納得していなかったのだ。

実際それは軍上層部に疎まれていたため起きた事態なのであながち左遷であるというのは間違いでもないのだが。


 カークス自分のタブレット端末を開き、指令書をもう一度確認するがそこには以前と変わらない指令があるだけだった。


「カークス。俺の前でそんな簡単に端末を広げるなよ。見たくなくても見えちまうぞ。」


 カウンターの奥にいる女がカークスに声をかけた。


「ケイス。お前には見せたところで今更だろうが。それにこっちだってやけになる事くらいあるんだよ。」


 カークスはそう言うと自分のグラスを傾けて一息に飲み干した。


 ケイスはカークスの真向かいに移動し次の酒を注ぐ。


「あのなぁ。俺はただの酒場のマスターだ。厄介事はごめんだ。お前達の素性なんか何も知らねえし、関わらねぇ。この街で探り屋は長生きしねえからな。」


 白々しくそう言うとケイスも自分のグラスを用意し、バーボンを注ぐ。

 カークスに目でいるか?と合図を送ると無言でカークスはグラスを前に押し出した。


 ケイスはカークスのグラスにもバーボンを注ぎながら続ける。


「ここからは独り言だが、この街で傭兵が消えるなんざ当たり前だ。一晩のうちに二十人やそこらが消えたって誰も気に留めやしない。ただ、俺の金づるが減って新しい金蔓がやってくる。それの繰り返しさ。」


 ただ次にやってくる奴らが気のいい奴らかはわからんがな。と最後に付け足すとバーボンを一息に煽る。


「カッ。わざわざいつもは飲まねぇバーボンなんか出してそんな事言うんじゃねぇよ。まぁ、お前にはだいぶ世話になったから何かあればここに連絡しろ。」


 フンと鼻を鳴らすとカークスは一枚の紙切れにサラサラとペンを走らせケイスに渡し、自分のグラスを飲み干した。


「後これは余談だが、アカネは馬鹿じゃねぇ。俺にわざわざ()()はしなかったが、それとなく聞いてきやがった。俺も命が惜しいもんで、濁したがあいつは確信を持ってたぜ。」


 カークスはフンともう一度鼻を鳴らすと、あいつが馬鹿じゃねぇことは俺たちが一番知ってるよ。と呟き立ち上がった。


「お前ら!次の仕事が決まった!()()()仕事だ。わかったな。それと、アカネは俺の部屋に来い。話がある。以上だ。」


 そう言うとその場は静まり返り各々が自分の部屋に戻る準備を始めた。その視線は一様にアカネに集まり、その当の本人は疑問符を浮かべていた。


「カークス?話って何だ?」


 アカネはそう聞くが返答はない。周りの団員たちに目でジェスチャーを送るが誰もが答えようとしない。仕方がないのでうなだれるように首を振り、既に歩き出しているカークスの元へと向かった。


 アカネはカークスと共に部屋へと入り、その場にあった椅子に腰掛け、リラックスした姿勢を取る。


「なぁ。カークス。話ってのは何だ?それと最後の仕事ってのどーゆーことだ?」


 アカネが矢継ぎ早に聞くが、カークスからの返答はない。

 数瞬の間が開き、カークスはタバコに火をつけ紫煙をくゆらせながらゆっくりと答えた。


「アカネ。お前ならすでに気付いるだろ。最後の仕事ってのは俺たちが帰るってことだ。」


 アカネはとぼけていた表情を一変させ、スゥーと表情が抜けていき冷徹な目線を向ける。


「カークス。そこまで話すってことはもう良いんだな?」


「ああ。お前がどこまで知ってるか分からないが、俺たちに本職に戻るよう指令があった。この生活とはお別れだ。」


 アカネは、大きく息を吐きだしながら背もたれに全体重を預け、脱力し天を仰いだ。そこには青い空なんて広がっていなくてただタバコの煙で少しくぐもった木の天井があるだけだったが。


「そうか。戻るのか。」


 アカネはそう一言だけ呟くと手で顔をゴシゴシと擦る。

 よし、と一言掛け声を出すと、カークスに向き直った。その顔はいつも通りのヘラヘラとした愛嬌のある顔だった。


「もし、お前が俺たちと来るってんなら無理やり部隊にねじ込んでやることも出来るがお前はそんなこと望まんだろ?」


「ああ。そういう生き方が嫌でこっちに来てるんだからな。」


 アカネはそう答えると手サインでカークスにタバコを要求する。カークスは渋々ながらアカネに一本手渡す。


「そこでだ、お前に一つ提案がある。」


 アカネはタバコを加えたままキョトンとした表情になる。

 最後の仕事というワードを聞いた時、カークス達と別れる事になるのは予想できていた。そのあと軍の部隊に勧誘されることも予想していた。

 しかしカークスからのそれ以外の提示があるとは考えもしなかったのだ。


「そんなに驚くな。これはあくまで俺の思いつきだ。お前の情報網にも引っ掛からんだろうさ。」


 カークスはしたり顔でアカネを見るものだからアカネは少しむすっとした表情になる。


「おい。その顔をやめろ。それで提案の内容ってのは?」


 そう言いながら立ち上がり、カークスの部屋を物色する。そして、御目当てのカークス秘蔵のウイスキーを発見しボトルを開ける。


「おい!待て!それは俺が「まあまあ、これも俺の退職金だと思え。」」


 カークスが止めようと手を伸ばすがアカネはそれをひらりとかわしさらに物色をつづけた。アカネは棚から二つグラスを取り出しウイスキーを注ぐ。


「それを言われちゃ、止めようがねぇだろうが。」


 アカネは悪戯顔でニシシと笑い席に戻った。


「はぁ。最後までお前らしくて良いさ。それで提案だが、お前日本に帰らんか?」


 アカネはゴフッとむせ酒を吐き出した。


「バカ!おまえその酒マジでいくらしたと思ってんだ!」


「いや、さすがに今のはカークスが悪りいだろ。俺に日本に帰れだと?笑い話も程々にしろよ?」


 アカネは口元を乱暴にぬぐい答えた。


「分かってるから最後まで聴け。闘気をわざわざ纏うな。」


 アカネはそう言われて、渋々右手に籠めていた闘気を解除する。

 その目は次ふざけたことを言ったらどうなるか分かっているだろうなと語っていた。


「それでだな。その内容ってのはだな、日本のダンジョン探索者養成所の調査だ。どうやら日本政府がこれまで以上にダンジョン攻略に力を入れるようでな。世界初の学校ってわけだ。本国としてはなぜ今になってと言うところが気になるらしい。」


 アカネはその話を聞き一先ず話を聞く態度に戻る。


「それで?」


「ああ。お前も日本が今ダンジョン先進国ってことは知ってるだろ?その、先進国様がさらに力を入れるってことは、何か力を入れなければ行けない理由が見つかったって事だ。それが本国にとって利益なのか、不利益なのか調べて来いってわけだ。」


 そう言うとカークスはウィスキーに口をつけ、流石高いだけはあると呟いた。


「それで、内容は分かったが何でお前から俺にその話が来る?」


「あーそれはだな。元々本国が日本政府に対して友好国なんだからウチの子も生徒にしてくれよって、留学生枠作らせたんだ。そこに俺の部隊から人員を派遣する予定なんだが当然警戒される。そしたら丁度ここに暇を持て余した日本人がいるじゃねぇか。だからお前にこの話をもってきたってわけだ。」


「ふーん。筋は通ってるな。筋は。」


 アカネはそういうと怪訝そうな目でカークスを見つめる。

 アカネは直感的にカークスが何か隠しているのを捉えていた。


「あー。まぁ後はうん。…した……ごこ……だ。」


 カークスはアカネがこのままじゃ納得しない事を察し、付け加える。気恥ずかしさから最後の言葉を少し濁しながら頬をぽりぽりと掻いた。


「ん?最後なんて言った?」


「だから、ちょっとした親心からだってんだ!」


 カークスのその言葉にアカネは驚き、目を丸くするがすぐさまニマニマとした笑顔を向ける。


「へー。そっか。カークスが俺に親心ねぇ。」


「うるせぇ!悪いかよ!」


 そう言ってカークスは自分のウィスキーを煽りダンと机にグラスを乱暴に置いた。


「俺だってなぁ。2年も自分の子供ぐらいのガキと一緒にいりゃぁ情くらい沸いちまうんだよ。」


 アカネはカークスたちが嫌いではなかった。寧ろ初めて気の合う仲間ができて、居心地が良かった。仕事は傭兵という血生臭い職場を転々とするものだったが、その後に馬鹿騒ぎをする空気が好きだった。

 だから、最初にカークスから自分たちが帰ると言うことを伝えられた時、どうしようもない焦燥感に駆られ酷い目をむけてしまった。


「俺もカークスたちといれてよかったよ。」


 それはアカネの隠し用のない本心だった。

 そういうとカークスの目に涙が溜まっていき、ついにそれが決壊した。


「アカネ。出来るならずっとお前と馬鹿騒ぎして仕事したかったぜ。すまねぇなぁ。これが俺の精一杯なんだよぉ。」


 そう言いながらカークスはデスクから封筒を取り出しアカネに投げた。


「ここに必要なものが全部入ってるからな。元気でやれよ。」


 そのあと、しばらく思い出話に花を咲かせているうちにカークスは机に突っ伏してイビキをかき始めた。


 そんなカークスを見つめながらアカネは頭をぽりぽりと掻き、毛布を被せてやる。


「ここまでしてもらっちゃ、行かなきゃならねーよな。ありがとよ。」


 そう言って眠っているカークスに告げ自分の部屋に戻っていった。

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