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79 勲章



 外に出ると公爵家から借り受けた馬車の紋章が剥がされ、テオフィルス王家の紋章に張り替えられていた。

 公爵家の紋章でも問題なく城に入れるだろうが、やはり王家の紋章と公爵家の紋章では格が違う。

 この紋章を付けた馬車は国賓扱いとなり、誰が同乗していたとしても検査なしで城の正門から入ることができるのだ。

 公爵家の旅行用の馬車なので造りは少々質素だが、この紋章さえあれば馬車に乗った客人は立派な国賓ということになるのである。

 正門の衛兵は訝しむかもしれないが、実際にアルバートが乗っているのでこの紋章を使っても何の問題もないというわけだ。

 一応アルバートは見た目で侮られることがないよう、金のモールが付いたフロックコートにはダメ押しで、パーシヴァル国王から以前贈られた勲章を付けていた、

 贈呈の理由は多分、アルバートが留学してきたことで二国間の友好に寄与したとかそんな内容だったと記憶している。

 まだアンジェリカが現れる前の、陛下もアルバートも正気を保っていた頃の代物だ。


「その勲章、懐かしいわね」


 そんな場合ではないのに、ついそんな言葉が口をついた。


「ああ、そうだな。この勲章をもらった時のことが、もう遠い昔のことのようだ」


 年数にすればまだ三年と少しぐらいだが、色々なことがあり過ぎて遠い昔の出来事のような気がした。

 彼が勲章を受け取った日、私は友人の晴れの日を誇らしい気持ちで見つめていたというのにだ。

 あの時、隣にはライオネルがいて、私はまだ彼の婚約者だった。

 いよいよ彼と対峙するのかと思うと、婚約を破棄された日のことを思い出してひどく心もとない気持ちになる。

 ずっと忘れようとしてきたが、やはりあの日のことは私の中で深い悲しみと共に深く刻みつけられているらしい。


「そうね。昔よね」


 その遠い日々の中で、婚約破棄の事だけが今もありありと思い出せるのは何故だろう。


「大丈夫か?」


 どんな顔をしていたのだろう。

 アルバートに声をかけられ、私は現実に引き戻された。


「え?」


「いや、君がパーシヴァルの城に行くのは、ライオネルとのその……婚約を破棄した時以来だろう?」


「そんなこと、よく覚えていたわね」


 思わず皮肉な口調になってしまったのは、仕方のないことだと思う。

 アルバートは魅了にかかっていた頃の記憶が曖昧なようで、彼からその頃の具体的な話を切り出されるということはあまりなかったからだ。

 たとえ話題に出したところで、場の空気が険悪になるだけだ。だから記憶が戻っても、黙っていたのかもしれないが。

 アルバートは複雑そうな顔で、こちらを見ていた。

 彼は一体、どんな言葉を望んでいるのだろう。もう気にしていないと言えば、己の中の罪悪感が薄まるのだろうか。


「別に平気ではないけれど」


 少しの意地悪のつもりで、そんな言葉を投げた。

 アルバートは居た堪れないとでもいうような顔で、体を固くしていた。

 私は急に馬鹿馬鹿しくなって、彼の懸念を否定する。


「正直なところ、もうどうでもいいわ。あの頃に戻りたいとも思わないし、今はこの国の人々にかけられた魅了を解きたいという思いだけ。あなただって、言ったでしょう。己の過ちを償いたいって。この短期間の間に、取り潰しになった家もいくつかある。すべてを元に戻すことは難しいけれど、今は原因であるアンジェリカを除くことだけを考えましょう。それ以外のことは、後でいいわ」


 全てが上手くいって何もやることがなくなったら、その時にでも考えればいいのだ。

 今はまだやるべきことが山積みなのだから、余計な雑念に心奪われている場合ではない。


「わかった。そうだな」


 そう言って彼が表情を引き締めると、私たちは城についた後どうすべきかの詳細な打ち合わせを始めたのだった。


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