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王子様なんて、こっちから願い下げですわ  作者: 柏てん


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13 魔女の素質


「ふわー?」


 目の前の毛玉が、やけに間の抜けた声を上げた。

 私は乱れてしまった髪を気にする暇もなく、目の前の毛玉に釘付けになった。

 それは白いなめらかな毛皮を持った、見たことのない生き物だった。

 なのになぜだろう。不思議と懐かしく感じられた。

 手を伸ばすと、まるで懐くように指先にすり寄ってくる。

 確かに触った感触があり、幻ではないのだともう一度驚かされた。


「これは……」


 私の肩を抱いたままのアルバートが、呆けたような声で言った。

 どうやら彼にも、この奇妙な生き物が見えているようだ。

 だが、毛玉はなぜかアルバートに敵意を抱いているらしく、ふさふさの毛が割れて舌のようなもの突き出しアルバートを挑発した。

 突然の敵意にアルバートは戸惑い、私と同じように伸ばしていた手をすぐさま引っ込めた。


「ふむふむ、重畳重畳。おぬしを守るためにかなり力を使ったようだが、どうにか生きていたな」


 先ほどまで侍女を演じていた娘はすっかり別人のような口調になり、現れた白い毛玉をよしよしと撫でた。

 すると心なしか、毛玉が嬉しげに一回り大きくなったような気がする。


「一体これはなんですの?」


 不思議に思って尋ねると、魔女は何やら含みのある顔をした。


「こいつはな、おぬしを守っている守護精霊というやつだ」


「守護精霊?」


「そうとも、魔女の素質がある娘が生まれると、必ず自然界から守護精霊が現れ、陰日向から娘を守る。むしろ守護精霊が現れた娘にしか魔女の資格はないと、言い換えてもいい」


「それじゃあ……」


 魔女の言葉を信じるなら、私には魔女の素質があると言うことになる。

 今まで優秀だと言われたことはあったが、そんなことを言われたのは初めてで戸惑ってしまった。

 それがいいことなのか悪いことなのかすら、判断がつかない。

 ただ嬉しげにすり寄ってくる毛玉に、くすぐったいような心地を覚えた。

 先ほどの魔女の言葉を信じるなら、この毛玉は私が生まれてからずっとそばにいたのだ。

 パーシヴァルで一人で戦っていると思っていた時に、見えなくとも私の味方をしてくれていた。

 そのせいで一人アンジェリカに立ち向かう羽目になったとしても、彼女の意のままに操られ平気で人を殺したりするより全然いい。

 毛玉は今気づいたとばかりにアルバートを見上げ(目らしきものは確認できないが)、私から離れろとばかりに彼に体当たりを始めた。

 大して痛みはないようだが、アルバートは気圧されたように私から離れる。

 私を守護する存在に拒絶されたと知って、少し落ち込んだように見えたが気のせいだったかも知れない。


「これは仮の姿だが、回復すれば本来の姿に戻ることも叶うだろう。だがそのためには、おぬしにはしてもらわねばならんことがある」


 先ほどまでいたずらっぽく笑っていた魔女が、突然真剣な顔で私をまっすぐに見つめた。


「私が、ですか?」


「そうだ。この守護精霊の力が戻れば、隣国に巣くう魔女の討伐も容易かろう。だが今のままでは、守護精霊が回復するのに何十年もかかってしまう。故におまえには、魔女になるための訓練をしてもらわねば」


 これはさすがに予想外だった。

 つまり彼女は私に、自らと同じく魔女になれと言っているのだ。

 だがそもそも私は、魔女になりたいと思ったこともなければ口にしたことだってない。

 話の流れから察するに隣国に巣くう魔女というのはアンジェリカの事だろうが、彼女を討伐したいかというと微妙なところである。

 彼女のことは確かに憎いが、では戦って勝ちたいかというとそんなことはないのだった。

 一方的に打ちのめされ叩きのめされた私は、もう二度と彼女とあの国には関わりたくないというのが、偽らざる本音であった。

 だからそのために魔女になれと言われても、戸惑うばかりで全くその気になれないのだ。


「どうしてわたくしなんですの?」


 だから、思っていたことがそのままポロリとこぼれ落ちた。


「わたくしはもう、静かに暮らしたいだけなのです。あの女に立ち向かって父や婚約者たちを助けたいなんて気持ち、もう欠片も持てないわ。あの国がそれで滅びることになっても、わたくしはかまわない。そんなわたくしに、あなたはどんなものだかも分らない魔女になれとおっしゃるのですか?」


 私の問いに、魔女は目を丸くした。

 一方で毛玉は、こちらを心配するように私の周囲を飛び回る。

 私に逃げるなと言ったアルバートは、ただ静かに事の成り行きを見守っている。

 緑豊かな庭園に、気まずい沈黙が落ちた。

 だが少しすると魔女は、驚いたことに怒るでもなくただ破顔してみせる。


「なるほどなるほど。確かにおぬしの言う通りだ」


 思ってもみない反応に、今度は私が目を見開く番だった。







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― 新着の感想 ―
何というか主人公はもっと怒って良い。そうでなければ今までの苦労がその程度の事だったとなってしまう。 怒り、恨みつらみ、自虐、諦め、恐怖などがそこにあるはずなのに。 多分このまま抵抗も無くあっさり魔女修…
[一言] 今のところ主人公が気の毒でしかたありません。 勝手に追い出しておいて、今度は手のひら返しで利用しようとするなんて。 殿下達も魔女も権力者の傲慢さが全開。こういう輩は自分こそ正しいと言って譲ら…
[一言] まぁ今更祖国に尽くせなんて言われてもねぇ…笑いに
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