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僕は踏まれたい~踏まれるほどに強くなる~  作者: 怪ジーン
四章 ユーラシア教国へ
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13 司教の聖具

 突然ひゃっはー教の協会が激しく揺れる。離れた場所にいたタイヤーも地面が揺れるのを感じた。



「うおっ、また揺れた!」



 二度目の揺れで協会の壁に亀裂が入るのがタイヤーには見えた。中の様子を窓越しに見るが、煙が立ち登りエルを発見出来ない。


 もう少し近づいて伺おうとするが、今度は野次馬が集まり始めて、邪魔になる。



「くそ、人混みに紛れてみるか」



 タイヤーは、何事もないように野次馬の中へと入って行った。



◇◇◇



 時はエルが教会に忍び込み、像を退かして地下に降りるところまで遡る。

エルは地下、それも像で塞がれ隠された場所で、蝋燭の明かりに自分以外に人が居ると察する。


 こっそりと壁に背をつけて中を伺うと、フードを頭に被った人影が何やらごそごそと探しているようであった。



「あった」



 声に聞き覚えがある。しかし、すぐに誰かは思い出せない。



「誰っ!?」



 よくよく考えるとエルの姿は、ミュオのローブのお陰で見えない。安心したエルは姿を現し近づこうとした。


 しかし、フードを被った人影の顔を見るとエルはギョッとした。人影はお面を被り顔を隠しているが、その上からは、もう一つ、この教会にあるあの何でも見通す鼻眼鏡をつけていた。



「くっ!」



 仮面の人物は、懐から箱を取り出し、中の円筒状の物をエルに向かって投げつけた。

嫌な予感がビンビンと感じたエルは、咄嗟に近くにあった蝋燭の燭台を取ると、打ち返す。


 円筒状の物体は、仮面の人物の後ろの棚に当たると爆発を起こし、地下が崩れ出す。耳をやられたエルは三半規管が言うことを聞かず、フラフラと地下を出ようとする。その横をサッと仮面の人物が通り過ぎた。



「ま、待ちなさい!」



 エルが追いかけようと這い出るように地下から出てくると、再び円筒が投げられる。



「くっ!」



 避けることは出来たものの、礼拝堂の椅子は吹き飛び、教会の古壁は今にも崩れそうに亀裂が大きく入ってしまう。


 エルが頭を振りながら立ち上がるも、仮面の人物は裏側の窓を破って逃げ出してしまった。



「くっ、あれが聖具ね。他のも奪われたと考えるべきか」



 正直、聖具にこれ程の事が出来るとは予想しておらず、舐めていたことを反省する。



「な、何事なの!?」

「何してるの、早く逃げなさい!」



 現れたのは司教と、同じく教会に残っていた信徒達。亀裂は徐々に大きくなり、いつ崩壊してもおかしくないとエルが必死に訴えるが、言うこと聞かずモタモタしているのに、苛立ち始めた。



「エル! 早く出て! 崩れる!!」

「タイヤー! まだこの人達が!」



 パラパラと砂が屋根から落ちてくる。猶予は無い。タイヤーは、走り出してエルの腕を捕まえ、今度は司教達の元に。



「エル、本気出していいよ! 放り出す!」

「わかったわ!」



 エルが、司教を始め、他の信徒三人のフードを掴むと、ぐるんぐるんと振り回して、一気に教会の窓に向かって投げつけた。



「いやああああああああっ!!」



 怪我程度気にしている暇はない。タイヤーも、万一に備えて二段階目の身体強化まで発動させておいて幸いだったと、エルと違い、一人一人同様に放り出す。



「よし、僕達も出よう!」



 エルと二人走り出したタイヤーは、破れた窓に向かって飛び込んだ。


 タイヤー達が、地面を転がり立ち上がるタイミングで、教会の屋根は崩れ落ちていく。土煙と突風が二人を襲い、腕で目を防ぐ。


 屋根だけでなく壁まで崩れ始め、教会は見るも無惨な瓦礫の山と化す。



「ふぅ~、間一髪とはこのことだね、エル」

「もう、散々よ。聖具は盗まれるし──!!」



 ガチャリと音がして、エルの首には奇妙な円形の首輪が取り付けられる。



「おい! 助けてもらって何を!」

「ひゃっはー! 動かないで! この子の首が地面に転がるわよ!」



 エルには自分の首元が見えないが、タイヤーは司教の言葉で、その意味を理解する。首輪の内側には、鋭い刃が取り付けられており、首輪から伸びる鎖を引くとどうなるかは明らかであった。



「エル、動くな! 動くなよ!」

「はぁ……はぁ、よくも教会を壊したわね」

「僕達じゃない! だからエルを離せ」

「いけしゃあしゃあと。聖具を盗むつもりだったのね」



 司教はピッとタイヤーの顔を指差す。不覚であった。タイヤーがあの鼻眼鏡を外し忘れたせいで、司教が勘違いをしてしまったのだ。


 ハナが拝借したものだと言っても聞き入れないだろう。エルの怪力をもってすれば壊せるかもしれない。しかし、鎖を引くのが少しでも早ければエルの首が落ちる。

賭けには出られない。



「さぁ、早く盗んだ聖具を返しなさい!」

「だから、僕達ではないって!! この眼鏡で確かめろよ!」



 タイヤーは、嘘も見抜く事が出来るこの鼻眼鏡を放り投げた。司教がすぐに眼鏡をかける。年配の女性の鼻眼鏡は中々シュールな光景で、周囲の野次馬からも微かに笑いが聞こえる。



「僕達は、盗んでいない! ほら、嘘じゃないだろ!」

「確かに……。でも、あなたはこれを持っていたじゃないの! 人の物を盗んでおいて!」



 タイヤーは、流石にカチンとくる。彼女は司教の地位にある。ハナでも知っている事を知らないはずはない。この鼻眼鏡さえも、ミュオの仲間である神無族から目を奪い、命を犠牲にして異界から呼び寄せた物であることを。



「人を盗人呼ばわりしたり、そんな処刑にでも使うような首輪を女の子に取り付けるのと、どっちが最低なんだよ! 周りをよく見ろ!」



 司教に向けられる野次馬の目は、侮蔑の目。人質を取っているだけでなく、その命を刈り取る首輪をつけている光景は、他の人が見ても明らかに異様であった。



「あんたなら知っているよな! その首輪も今かけている鼻眼鏡も、どうやって手に入れたのか! ひゃっはー教ってのは、大したスキルを与えられなかった者の拠り所だろ! そんな人達を差別けら守るのが教示だろ! なのに! その聖具は、神無族から目を奪い手に入れたやつじゃないか。それも迫害という手段で!!」

「ぐ……っ!」



 図星を突かれ司教の女性は、思わず言葉が詰まる。そこへ、他の信徒が報せにやってくる。



「司教様。やっぱり聖具は何処にも……それと、モブサップの姿が」

「ああっ!! そうよ、彼女よ! 仮面を被って顔は分からなかったけど、聖具を盗んだのは!」



 エルはどうりで聞いた声だと思い出す。殆んど会話らしい会話は無かった。何せモブの声。明日になれば忘れていただろう。

今日、聞いていなければ。



「ほら、見ろ! 僕達じゃないだろ! 大体、何の聖具かも分からないのに、どうやってあの爆発音を起こすんだよ!」

「あの爆発音は聖具“でぇなめえとの箱”の中身……いやしかし」

「それじゃあ聞くけど、その聖具はエルの何処にあるんだよ。よくわからないけど、箱なのだろ? 服の下にも隠せないよ」



 司教は、周囲からの目もあってかその場で握っていた鎖を地面に落とす。それを好機とみたタイヤーは、エルに視線を送った。


 メキッと鈍い音と共に首輪がエルから離れる。鎖を手放すのを待っていた。


 エルは立ち上がり司教へつかつかと近づくと鼻眼鏡を奪い、タイヤーへと放り投げた。



「さぁ、どう落とし前つけてくれるのかしら?」



 指をポキッと鳴らして近づいてくるエルの姿に、司教の女性はその場で腰が抜けるのだった。

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