04 再びの二人組
危うく宿を全面改装しなければならないほど、水浸しにしてしまったタイヤー達は、宿の主である老夫婦に謝罪をして、損害賠償としてリックから頂いた金貨を一枚手渡し、宿をあとにした。
「使っちゃったな、金貨」
「仕方ないわよ。あれは不可抗力ですもの。また稼ぐしかないわね」
「稼ぐって言ったって……」
タイヤーが落ち込むのは仕方ない。何せ、このゴルディアの街では、討伐者として稼ぐことが出来ないからである。
ミュオも不用意に魔法の事を言わなければと反省してか、言葉も少ない。
「それよりタイヤーくん。次の街に向かうのでしょ? 元々その予定だったんだから落ち込まないで」
「そうだった。ユーラシア教国の首都……たしか名前は女神と同じアーマイルだっけ?」
ミュオはその名前に怪訝な表情を浮かべるも、街中では姿を消している為、タイヤー達にはわからない。
「ミュオ、大丈夫か? あくまで立ち寄るだけだから、心配しなくていいよ」
「わ、わしは別に平気なのじゃ」
きゅっと、繋いだ手の力加減でミュオの異変に気づいた。タイヤーがミュオを抱えてやると、首に強くしがみついてきた。
「エルは、アーマイルについて何か知ってる?」
「そうね、首都アーマイル。その名前の通り、女神アーマイルが降り立った聖地と言われているわ。アーマイル教の人間が大半を占めるとは聞いているけど、今は、ほら、先日二人組の例の……アレが、ね……」
「ああ。アレね、タイヤーくんをモブキチって呼んでいた人達ね」
「フローラ、やめて!」
珍しくタイヤーは顔を真っ赤にして怒る。本気で、モブキチと呼ばれるのが嫌らしい。
エルの話では、例の二人組の組織、ひゃっはー教が、アーマイル教を上回っていく勢いだと言う。そして女神アーマイルを信仰する者と、モブのようなスキルや容姿しか与えられなかったひゃっはー教とは当然仲が悪いと。
「それで、タイヤー。アーマイルからもしかして更に南に向かうの?」
「うん、もういっそのこと大陸の東側へと向かおうかと。ただ……」
「ただ?」
大陸の中央に分断するようにそびえ立つ、エルラン山脈。ミュオのいた西の洞窟もその麓にあるのだが、大陸の東側へ向かうには、港から船で回り込む必要があった。
タイヤーが言いにくそうにしているのは、一度東側へと向かうと、すぐには戻ってこれない可能性があったから。
「うん、ほら。いくらチームとは言え、フローラやエルの家族はこっちにあるし……」
「ばかっ! ついていくわよ、あたしもフローラも。大体今戻った所で、あたしもフローラも適当に結婚相手でもあてがわれて、自由に出来なくなるだけよ」
忘れそうになるが、二人ともそれなりの家柄で結婚適齢期である二人には、お相手が殺到してもおかしくはなかった。
「そうそう、それで大陸の東側に向かうのはどうしてなの?」
「うん、幾つか目的はあるのだけど……一つはミュオの母親探しかな」
「わしの?」
ミュオの母親が居なくなってから、およそ百年余りの年月が経過している。もう亡くなっている可能性もあるが、食べずに生きているミュオを見ると、まだ生きている可能性もあり、一度育児放棄したことに関して説教をしたいと思うのもあった。
「もう一つは、聖騎士に関することかな。ほら、こっち側で聞く聖騎士に関する話と、東側ではどうなっているのかなって。絵本では東側へと消えて行く結末だからさ」
「なんじゃ、聖騎士ってのは?」
「今度、絵本買って読んであげるよ」
「じゃあ、まずはアーマイルを目指すって事で。どうする? 馬車用意するの?」
「馬車は嫌なのじゃ! 気持ち悪いのじゃ!!」
それならばと、旅の荷物を背負う馬を一頭購入することにして徒歩で向かうことに。手分けして必要な物を買い揃えるのであった。
「出発しようか!」
「「「おーーっ!!」」」
タイヤーが元気よく号令をかけると、エルとフローラ、ミュオも続く。
ゴルディアの街を街道に沿って、南へと歩き始めたフマレ隊。何事もなければ、三日も歩けば着くはずの行程であった。
黒光りする馬体の背に荷物を全て載せ、タイヤーが馬の手綱を牽き、残った手でミュオと繋ぐ。まだゴルディアの街が近いためか、ミュオの姿は消えたまま。
「タイヤー、つけられているの気づいている?」
「うん、さっきチラリと姿が見えた。というか、僕はもう出来れば関わりたくない」
タイヤーは前を見ながらも街道沿いにある雑木林に一瞬視線を送った。
このまま街道を歩いて行くと、自然と雑木林へ近づくことになる。二人がフローラを見ると、気づいているらしく大きく頷く。
「来るわね。フローラ、お願いね」
「うん、わかってる」
フマレ隊が雑木林へ最接近すると、ガサガサと音を立てて、人影が飛び出して来る。
「ひゃっはー! ここは、通さね──ひげっ!!」
雑木林から飛び出してきた男は、そうそうにフローラに吹き飛ばされて弧を描きながら、雑木林への中へ戻っていってしまった。
「モブゾウーーっ!!」
モブカの虚しい叫び声が、辺り一面に響いた。




