03 次の段階
翌朝、履き慣れないパンツを履いてか、ミュオは目覚めると、白地に花模様の綿のパンツが足元まで脱げていた。
大きな欠伸をしながら隣を見るとエルとフローラは既に着替えを終えて、二人で何やら真剣に話し合っていた。
「あ、ミュオちゃん。おはよう」
「何してるのじゃ?」
ミュオはボサボサの寝癖のついた白い髪を手櫛で解きながら、二人の元へと歩こうとすると両の足元まで脱げていたパンツに引っ掛かり盛大に転ぶ。
スカートの裾が大きく捲り上がり、プリっとしたお尻が丸出しになった。
「うぅ~、邪魔なのじゃ!」
脱いだパンツを勢いよく部屋の入口の扉に投げつけた。
ノーパンでスッキリした顔のミュオが座っていたエルの膝の上に乗る。ちゃぶ台並みのローテーブルの上には、番号が一、二、三と書かれており、その一の隣にはミュオの名が。
残りの、二、三には二人の名前が入るのだろうと予測は出来たがが、空白のままであった。
「なんじゃ、これは?」
「これはね、タイヤーくんを踏む順番を決めているの」
「それで、わしの次に踏む順番をどっちにするか、悩んでおるのじゃな……どっちでもいいような気がするのじゃが……」
膝上に乗っているミュオは少し呆れ気味な目で下からエルの顔を見上げた。
「そうはいかないのよ。タイヤーのスキルを次の段階に発動させるには、どうしても二段階目の身体強化が障害なのよ。身体強化を超える力で踏まないと。だから、力が強いあたしが踏むって言ってるのにフローラが譲らないのよ」
「確かに力の順番で言えば、エルちゃんなのは、わかるの。でも問題はもう一つの発動条件なの」
フローラはミュオから少し視線を外すと、小声で「タイヤーくんに性的興奮を……」と照れから頬を赤く染めた。
「ちょっと、フローラ! それじゃ、あたしが色気無いみたいじゃない!」
「そんなことは言ってないよ。エルちゃんは、綺麗だよ。でも、そのちょっとだけ胸が……ほら、男の人っていつも胸ばかり見てくるし」
「あたしもちゃんとあるわよ! フローラが大きすぎるの!」
「ひ、酷いっ、エルちゃん!!」
エルがフローラの胸を鷲掴みで力を込め、フローラも負けじとエルの赤い髪に掴みかかる。その一方でエルの膝の上にいるミュオは、どうでもいいと大きな欠伸をしていた。
「五月蝿いよ! 隣まで声が丸聞こえだよ!! 何してんのっ!!」
タイヤーがノックせず部屋に入ると、修羅場の二人に慌てて割り込んだ。
「一体、何が原因……なんだこれ?」
タイヤーはテーブルの上の紙切れに目をやり、呆れる。
「あのね、そもそも三段階目があるのかどうかもわからないのに気が早いよ。それに僕がミュオに性的興奮を覚えるとでも?」
エルとフローラはそれはそれは力強く頷く。
「失礼な! 僕とリックを同じにしないで!」
十分、リックにも失礼なタイヤーであったが、それならばと、この場でタイヤーはミュオに踏ませることにした。
「いいかい? 確かに僕はミュオを連れて来たけど、別に自分のスキルを発動させる為にじゃ無いからね! ちゃんと見ててよ、発動しないから!」
タイヤーは敷きっぱなしの布団の上に寝転んだ。少しばかり人肌の温もりがした。
エルとフローラ、果たしてこの布団にはどちらが寝ていたのだろうかと、自然とタイヤーの鼻の穴が広がるのであった。
──ん? なんだ、あれ?──
ちょうど部屋の入口付近に塊の白い何かが視界に入るが、特に気にする必要は無いかとタイヤーはミュオに視線を移した。
「わかったのじゃ、タイヤーの顔を踏めばいいんじゃな? お母ちゃんが昔、人間には変な人が多いと言っていたが、タイヤーのことじゃったか」
「変じゃないよ! それを今から証明するんだから、ほら、早く!」
タイヤーに急かされミュオは頭付近までやって来る。そしておもむろに片足を上げて素足でタイヤーの顔を優しく踏みつける。
不正が無いように、タイヤーはしっかりとミュオのパンツを視界に焼き付け──られなかった。
「タイヤー、発動してるわよ」
「うん、しっかり発動してるね、エルちゃん」
「な、な、何で! 何で、パンツ履いてないんだよぉ! 驚いて発動しちゃったよ! 初めてあんな角度から見ちゃった──じゃなくて!」
慌てたタイヤーは、ミュオを退かして二人に弁明するも、体は青白い光で発光しており、説得力が皆無であった。
ノーパンなんて不正だと声を上げる度に二人からは白い目で見られていく。
「今なら、タイヤーを踏み潰せそうだわ。フローラ、いいかしら?」
「うん、次は任せてエルちゃん!」
「いや、待って! 踏み潰すって何?」
問答無用とフローラに足を刈られ布団の上に倒れたタイヤーは、そのまま顔をフローラの素足で踏まれてしまった。
こんな状況であっても、タイヤーの視線はしっかりと弾むフローラの胸と、パステルカラーの水色のパンツを捉えていた。
「二段階目、発動したわね。それじゃトドメといきましょうか!」
「トドメって、何!?」
フローラが踏みつけている足に体重をかけながら、タイヤーを飛び越えるとニヤリと笑い八重歯を見せるエルへと交代する。
「さようなら、タイヤー」
エルはこれでもかと足を大っぴらに開く。最後の手向けといわんばかりにピンク色の花柄が真っ白なキャンパスに描かれていた。
「ふがっ!!」
かかと落としか、四股なのか。思わずタイヤーは鼻水と唾を吐き出しながら踏みつけられた。
「う、うぐっ……は、発動してる……?」
「ちっ、緑色に発光しているわよ。それにしても、しぶといわね」
「あ……あんまりだ……」
タイヤーの体からは黄色から緑色の光に変わり包まれていた。
「それで、何か変化は?」
「わ、わからないよ。ひとまず退いてくれ」
エルの足がタイヤーの上から退くと、タイヤーは自分の体の変化を確かめる為に、握り拳を作る。
「二段階目は反射神経と、防御力が上がっていたから、今度は攻撃力が上がっていればいいんだけど……」
立ち上がり拳を突き出して見るが、特に変わった様子はない。エルに初めは軽く、徐々に強くしながら拳を受けてもらうが変化はなかった。
フローラも協力して確かめるが反射神経や目の強化自体は変わらないまま。もしかしてと思い、タイヤーは目に力を込めてフローラを凝視するも、残念ながら望んでいた透過のスキルではなかった。
三人があれやこれやと話し合う中、ミュオが手を挙げる。
「どうした、ミュオ?」
「うむ、気になったのじゃが、タイヤーの周りの光に強力な魔法の力を帯びておるのは関係あるのではないのか?」
「魔法!? でも、僕は本当に誰もが使える生活魔法くらいしか……でも、試してみるか!」
四人は宿の中庭を借りて桶を用意する。
“ラ・ウォータ”
タイヤーが魔法を唱えると、普段なら桶一杯に溜まる程度しか出ない水の量。初めこそは、その程度であったが、水は止まることを知らず、どんどんと溢れて来る。
瞬く間に、中庭は水浸しになり、それでも終わりが見えないほど溢れて、遂には床上浸水しかけた所でタイヤーが慌てて止めたのであった。




