02 神無族
「神無族? 初めて聞く種族ね。タイヤー達は知ってる?」
エルは二人の顔を見るが、首を横に振る。
そもそも、人間の亜種と言われてもミュオの姿は、形こそ、人のそれだが、色素の無い白い肌に白い髪、瞳すら色がなく、辛うじて瞳の輪郭が分かる程度。何より頭から伸びた二本の角が最大の特徴であり、人間の亜種というより二足歩行の魔物に近い。
「それにミュオちゃんが、百年以上何も食べずに生きているってのは、人間としてあり得ないよね?」
フローラの言葉はもっともだと、今度は二人は首を縦に振る。
百年という年月を生きていて背丈や顔つきなどは七、八歳程度の女の子。果たしてあと何百年生きればタイヤー達と変わらぬ背丈までになるのか。
そもそも百年という年月を、あの部屋で引きこもっていて何故認識出来たのかのかもミュオに問う。
「角が一年に一度生え変わるのじゃ。百何回かまでは数えていたのじゃが……途中で数えるのが面倒になっての。わしも神無族が何百年生きられるのかは知らぬのじゃ。お母ちゃんの話で六百年くらい前の話が出てきたから多分、それくらいは……」
悠久とも言えそうなほどの長命。もしタイヤー達が彼女を連れ出さなければ、あの部屋で五百年以上一人で過ごすことになっていただろう。
それを思うと可哀想でタイヤーが何気なく自分の膝の上に座るミュオの頭を撫でてやると、真っ白な混じり気のない象牙のような角にタイヤーの指先が触れ、ピリッと痺れのようなものが走る。
「っ痛! なんだ、これ?」
「あー、気をつけるのじゃ。わしの体内には“でんき”ってのが溜まっておるのじゃ。角からは溢れた“でんき”が漏れ出しておるのじゃよ」
女神アーマイルに与えられるスキルとは違い、ミュオが言う“でんき”というものが溢れる分に関しては、自分では制御出来ないらしい。
「わしら神無族は、元々この世界にアチコチ居たらしいがの、どうも女神アーマイルを信仰する者達が、昔迫害したらしく、隠れ住むようになったらしいのじゃ。わしのお母ちゃんは、その頃から生きておるらしいのでな、人間に強い恨みを持っておるようじゃが。結局、人間の男と出ていってしもうた」
「あー、もしかして“西の魔王”って言うのは、その時の名残なのかもしれないな。人間が迫害していって東西南北に追いやった時の」
エルはタイヤーの言葉の一部に嫌悪感を抱き顔を歪めた。二人はエルの赤い瞳が怒りに燃えているようで、何か気に障ったことを言ったかと冷や汗をかいた。
エルは別にタイヤー自身に嫌悪感を抱いた訳ではない。迫害を受けてきた神無族に同情してモヤモヤした気持ちになったのだ。
エルはタイヤーの膝の上にいたミュオを自分の膝へと乗せて頭を撫でてやり、自分の気持ちを二人に打ち明ける。
「うん……あたしにも経験があるから」
幼い頃、家の者達から特異な目で見られてきたエルにとってミュオ達神無族への迫害は他人事ではなかった。優しく髪をとかすように撫でてやるとミュオは気持ち良さそうに目を細めた。
◇◇◇
エルの気持ちが落ち着くのを待ち、ミュオが話をしたのは女神アーマイルが神無族を嫌った理由である。
「時空眼?」
「そうじゃ。わしらの瞳は特別でな、こことは別の世界から様々な物を持ち出せるのじゃ。あの“ついんはみこん”や“ てれぇび”はお母ちゃんが持ち出した物なのじゃ」
「しかし、そんなもので嫌うってどんなに度量の狭い女神よ」
エルは迫害の原因になった女神に憤る。
「まぁ、わしは分からなくはないがの? 例えばじゃ、ここでは全く未知の武器など持ち出したらどうなる? この世界じゃ対処出来ないかもしれんじゃろ? 現に魔物、あれもそうじゃ」
「魔物も?」
「お母ちゃんに聞いた話じゃから真偽はわからぬが、魔物の生核。あれは神無族から時空眼を奪った人間の仕業らしいのじゃ。迫害の目的の一つとして時空眼を奪うというのは昔からあったそうじゃ」
だとすれば、近年魔物が増えてきたことにも関係ありそうだと、タイヤー達は話し合う。今後、討伐者としてやっていくならば、頭の隅にでも入れておくべき情報であった。
「大丈夫? ミュオちゃん」
「むう……眠いのじゃ……」
生まれて初めての満腹感からか、ミュオは何度も目を擦り眠いのを耐えていた。
「話はまた明日、道すがらにでも聞くか。今日は解散して寝よう」
パンっと柏手を打って話を切り上げたタイヤーが立ち部屋を出ていこうとすると、トコトコと眠い目を擦りながらミュオはあとをついて行く。
「ちょっと、ちょっと。ミュオちゃんは、こっちの部屋で寝るのよ」
「やじゃ、タイヤーといる!」
がっしりとタイヤーの足を掴んで放さないミュオをエルが強引に引き離す。いやじゃと、暴れるミュオを抱えて自分の部屋に戻ったエルから、タイヤーは何故か蔑んだ目で見られてしまった。
激しく誤解だと、宿の廊下にタイヤーの声が響いた。




