01 魔王とは?
「ただいま~、お腹空いたぁ」
宿に戻って来たタイヤーは、真っ直ぐにエル達の部屋へと向かう。空腹で元気のないタイヤーが部屋の扉を開いて見たものは、テーブルに置かれた夕食の数々──の空き皿。
「あれ? 僕の分は?」
エルとフローラの二人分にしては皿の数が妙に多く感じたタイヤーは、ぽっこりお腹を抱えて横になっていたミュオをジト目で睨みつける。
「ごめーん、タイヤー。ミュオちゃんが、そのタイヤーの分まで……」
「ポンポンがこんなに膨らむのは初めてじゃ」
気まずそうにエルは、タイヤーに手のひらを合わせながら謝る。
事情を聞くと、ミュオの姿を見せる訳にもいかず、夕食を宿に頼むと、当然のように三人前しか出てこない。
初めはエルとフローラの分を半分ずつ分けていたという。
「だからって、どうして僕の分まで……」
グーグーと腹の音が収まらないタイヤーは、その場に腰砕けに座り込む。
「それは……ちょっと理由があってね。実は、気になったのよ。ミュオちゃんが食事を今までどうしていたのかって」
エルがミュオから聞いた話によると、ミュオの種族は食事を摂らなくても問題はないらしい。
そもそも生まれてこのかた食事をしたこと無いらしく、初めて食事を摂り、あまりにも美味しそうに食べるので、ついついタイヤーの分まで与えたのだという。
「はぁ……満足そうで何よりだよ。仕方ない、外に食べに行くか」
タイヤー達と、フード付きのローブで姿を消したミュオは、一旦宿を出て食事処を探す。その道すがら、グルであった出来事を二人に話す。
「それでね、早々に明日にでもゴルディアの街を出ようと思うんだ」
「まぁ、ミュオちゃんの事を言うわけにはいかないものね。あたしは構わないわよ。フローラは?」
「私も別に問題は……それで、何処に行くの? タイヤーくん」
タイヤーは一拍間を開けて、頬を吊り上げ「ユーラシア教国」と、笑顔で言う。
「まぁ、ラーナシア連合王国と友好国の一つではあるから、最寄りの隣国といえば、そうなるわね。今後はユーラシアを拠点に活動するの?」
「と、思ったんだけど……ほら、ひゃっはー教がいるし。更に南方へ向かおうかと思っててね。まあ、理由は帰ってから話すよ。さ、ご飯、ご飯!」
大衆食堂を見つけて入ると、タイヤー達は四人がけの席に案内してもらう。エルやフローラも量が足りず小腹がすいたと、メニューを各自見ていた。
メニューが決まりタイヤーが店のお姉さんを呼ぶ。店は盛況で、ガヤガヤと雑踏が五月蝿く、タイヤーの声が聞こえないのか無視されてしまった。
「あ、ダメだ……お腹が空きすぎて声が……エル、代わりにお願い」
「もう……! しょうがないわね」
呆れ気味にエルが辺りを見渡して近くの店員に向かって手を挙げながら呼ぶが、やはり聞こえていないらしく、そのままエルの後ろを通り過ぎようとしていた。
「待ちなさいっ!!」
ガッとエルが店員のお姉さんの服を掴み引っ張る。お姉さんが倒れそうになる前に、服の方がエルの力に耐えられなかったのだろう。ビリリッと音が鳴り、店員のお姉さんの背中が丸見えに。
「きゃああああああっ!!」
悲鳴に注目が集まり、男性客はヒュ~口笛を鳴らす。騒ぎになると店の主らしき男性がやって来て、「出ていってくれ」とタイヤー達は追い出されてしまった。
「タイヤー、ごめんなさい……」
反省の色濃くエルはタイヤーに頭を下げるも、お腹が空いたとタイヤーは通りで倒れてしまった。
「エルちゃんは、タイヤーくんの側に居て! 私が何か買ってくる!」
フローラが屋台で食べ物を買って帰るまで、倒れたままのタイヤーをミュオは枝で突ついていた。
◇◇◇
宿へと戻って来たタイヤー達は、一度エルとフローラの部屋に集まることに。風呂に入りたいフローラとエルであったが、タイヤーから話があると言われて待っていた。
「それで、話って何よ?」
若干早くして欲しいとエルがタイヤーを急かす。
「まぁ、落ち着いて。話ってのは、ミュオのことだよ」
「わしのことか?」
タイヤーが部屋に来てからずっと胡座をかいたタイヤーの上に座っていたミュオが、不思議そうにタイヤーの顔を見上げる。
「気になったことがあって。“げ~む”はしてないけど、質問していいかい?」
「仲間なんじゃろ? 全然良いのじゃ」
「ミュオは西の魔王なんだろ? っていうことは、あと東と北と南にも魔王がいるってことか?」
「なんじゃ、そんなことか。もちろんいるのじゃ。会ったことはないがの。お母ちゃんから聞いた話じゃし。そもそも、魔王っていうのは、人が名付けた名称に過ぎぬ」
「じゃあ、ミュオちゃんって何なの?」
フローラの問いにミュオは腕組みをして悩み出す。しばらく悩んだあと、ミュオは三人に向けて問う。
「お主らの中に、女神アーマイルを信仰しているものはおるかの?」
突然の信仰論にタイヤー達は顔を見合せ、首を傾げる。答えは出なかったが、どうやら、正直に話すまでミュオが続きを話そうとしないので、三人はそれぞれの見解を述べた。
「いや……僕は違う。アーマイルって女神がスキルを与えてくれるって事くらいしか意識していないよ」
「あたしも、タイヤーと一緒よ。むしろ嫌いな方よ。使いにくいスキルくれちゃってって思っているわ」
「私も宗教に興味は無いかな」
ミュオは、三人それぞれと目を合わせて、本当かどうかを確認したあと、皆の顔を寄せ小声で話始めた。
「ふむ、なら話そうかの。まず、そもそも、わしは魔王と呼ばれているが、魔王という種族は無い。わしは“神無族”という人間の亜種じゃ。神無族はな、その名の通り、女神アーマイルに嫌われスキルを与えられなかった種族なんじゃ」




