07 ノーパン魔王が仲間になりたそうに見ている。仲間にしますか?
「ちょっと、タイヤー! わかってるの? 彼女は魔王なの!?」
エルに反対されるもタイヤーはどうしてもミュオを、妹のルカと重ねあわせてしまう。
「だって、エル考えてみてよ。もし僕達がタイラントタートルを倒した時点で帰ったとしたら……。入り口は崩れた岩で隠れていた。そりゃ誰かがいつかは見つけるかもしれない。けど! その間、彼女はずっと一人なんだよ!」
ルカがこんな何も無いところで一人でいると想像しただけで胸が苦しくなる。既にタイヤーには彼女を放っておくという選択肢を失っていた。
「何より、僕は友人に恵まれた。エルにフローラ、それにリック。僕は友人としてエルやフローラが助けてくれたのが本当に嬉しかったんだ。だから、今度は僕が彼女を助けたい!」
話を聞いていなかったのかエルは心ここにあらずといった感じで何度も「友人、友人かぁ……」と呟く。皆がエルの返事を待ち注視されている事に気づくと、誤魔化すようにプイッと顔を横に背けた。
「わかった! わかったわよ! このフマレ隊のリーダーはタイヤーなんだから好きにすればいいわよ!」
「フローラ、何でエルはあんなに怒っているんだ?」
「……さぁ、自分の心に聞いたらいいよ」
タイヤーは首を傾げたあと、今度はミュオと向き合う。
「ねぇ、ミュオ。ここで一人で“げ~む”しているの寂しくないかい?」
「別に“げ~む”があるから平気なのじゃ! それより、質問は、わしに勝ったらじゃろ? 勝負、勝負じゃ」
ミュオは、そう言うと胡座をかいているタイヤーの懐に入り込み足の上にちょこんと座った。
「おい、手元が見えないよ、これじゃ」
「ふっふーん。ハンデじゃハンデ。わしが勝つまでやるのじゃ。そうすれば……お主はここにいるじゃ……ろ?」
「ミュオ?」
タイヤーからはミュオの角やつむじしか見えず分からなかったが肩を小刻みに震わせていた。
「僕達は、行くよ。この一戦で終わりだ。それにミュオはさっき『“げ~む”があるから退屈はしない』って言ったよね。それって“げ~む”が無ければ退屈って言ってるのと同じだろ?」
「……さい、うるさい! うるさい! うるさいのじゃ!! 何でこんな気持ち思い出させるのじゃ! 折角……ぐすっ、折角思い出さないようにしていたのに!! わしが……わじのおがあちゃんがいっだのじゃ……『ここでいい子に“げ~む”して待ってなさい』っでぇ……じゃから、わじは……わじは……」
ミュオは母親が男を作って出ていった事を知っている。けれども、健気にも母親の言い付けを守っていれば、母親が戻って来るのだろうと。
タイヤーがそっとミュオの頭を撫でてやると、ミュオは振り返り小猿が母親に抱きつくようにタイヤーの胸に顔を埋めた。
「一緒にここを出よう。僕にはルカって妹がいる。きっといい友達になれると──」
「いやじゃ、お主といる!」
「いや、だから……僕は討伐者として、仕事が……」
「やじゃ! 一緒にいる!!」
困ったタイヤーはエルとフローラに助けを求めるも、いつの間にか部屋の隅に移動しており、二人の会話が聞こえてくる。
タイヤーは「やっぱりリックと同類なんじゃ……」とあらぬ誤解を受けていた。
「誤解だ、二人とも!」
エルとフローラは、タイヤーの叫び声に反応して戻ってくるが、タイヤーにしがみつくミュオを見て「本当かしら?」と疑いの目を向ける。
タイヤーを説得するよりミュオを説得した方が早いと踏んだエルは、タイヤーの側にしゃがむとミュオに呼び掛けてみた。
「あのね、ミュオちゃん。あたし達についてくるってことは、タイヤーを踏むってのと同義なのよ」
「同義なのか……」
フマレ隊の入隊条件に『タイヤーを踏む』が書き加えられた瞬間であった。
「踏む? 何故じゃ?」
「ミュオちゃんには分からないだろうけど、大人の世界には色々とあるのよ」
「そうそう……って待ってよ! そっちの方が酷い誤解だ」
「タイヤーは黙ってて! それでね、ミュオちゃん。タイヤーを踏むのと同じくパンツも見られちゃうのよ? それでもいいの?」
「パンツ……パンツってなんじゃ?」
パンツの存在を知らないと知り、まさかと思ったタイヤー達の中で、エルとフローラはいち早く動きだす。ミュオを強引にタイヤーから引き離し、部屋の隅へ連れていくと、自分の体を壁にして、タイヤーからミュオを隠した。
エルとフローラは二人がかりで、恐る恐る黒のワンピースのスカートを捲り上げた。
「どう……だった?」
と、タイヤーの問いにエルは無言のまま首を横に振って答えた。
「ゴルディアの街に戻ったらパンツ買わないとね、エルちゃん」
「フローラまで! うぅ……わかった、わかったわよ! 確かに魔王とはいえ、ノーパンの少女が一人でここに居るなんて知ってしまったら放っておけないわよ! でも、まだ問題あるわよ! ミュオちゃんの見た目。明らかに人とは違うもの。ミーアさんに何て言うの? 魔王連れ帰りましたなんて言えないわよ!」
「それならいい方法があるのじゃ」
ミュオは部屋の片隅にある岩をどけると、壁に穴が空いており、中に腕を突っ込み布地の塊を取り出した。
布地はどうやらミュオの服らしく、そのうちのフード付きのローブを広げた。
「うっ! く、臭いのじゃ!」
長年洗濯していなかったのか、匂いを嗅いだミュオは顔を歪める。
「ちょっとぉ、どれだけ洗濯していないのよ! タイヤー、フローラ、三人がかりでこれ全部洗うわよ」
エルは荷物から小さな桶を取り出すと、誰でも扱える魔法で桶に水を貯めた。
「“ラ・ウォータ”」
エルが出した魔法の水は小さな桶を一杯にするのでやっとであった。
エルがゴシゴシと洗い、フローラがシワを伸ばしてエルの大剣を壁に突き刺し物干し代わりに干す。
「“ラ・ウィン”」
タイヤーが両手をかざして洗濯物の周りに小さな風の渦を作って乾かし始めた。
十分ほど経過して服が乾燥し終えると、ミュオは早速フード付きのローブを被る。すると徐々にだがミュオの姿が薄くなっていき、一分もかからずにその場から消えた。
「ミュオ!?」
「ここじゃ」
タイヤーは自分の手に何か触れるのに気づく。どうやらミュオが手を握っているらしけ、その感触だけが残る。
「どうじゃ、これなら誰にもバレんじゃろ?」
ミュオは自慢気にペタンコの胸を張って見せるが、その姿はタイヤー達には見えていなかった。




