06 対戦ゲームは、人とやってこそ
タイヤー達は物語に出てくるような魔王と、今現在対峙しているかと思うと、二、三歩部屋の出口に向かって後退りをしてしまう。
いつ襲って来るのかと警戒を強め、逃げ出す心構え作る。
タイヤーはフマレ隊のリーダーとして今の状況を作ってしまった責任を感じて、二人を逃がす隙を作るべく周囲を見渡した。
しかし、部屋は殺風景で、ベッドすら無く、あるのは先ほどまで奇妙な音を出していた箱のみ。
「えっと、これって何かな?」
なるべく相手を刺激しないようにと冷静を装い、タイヤーは箱を指差す。
魔王の少女は、急にペタンコの胸を張ってふんぞり返ると、「それは“てれぇび”じゃ」と自慢気に言う。
「て、てれぇび?」
「ふっふーん。知らんのか? ん? ん? 教えてやろうか?」
タイヤーが頷くのを見て魔王の少女は急にご機嫌になり「どうしようかっなぁ」と、わざとらしくしらを切る。
分かりやすくご機嫌になり、この手しかないとタイヤーは「お願いします」と頭を下げて、更にご機嫌を取りに行った。
「仕方ないのぉ。この“てれぇび”は“げ~む”をする為の物じゃ!」
「はぁ……? げ~む? げ~むと言うのは一体……」
「ふっふーん。わしの“げ~む”は最新版じゃぞ。これじゃ! この“ついんはみこん”じゃ!」
魔王の少女は“てれぇび”の前に置かれた“てれぇび”より薄い四角い箱を指差した。
「は、はぁ……。それでその“ついんはみこん”というのは何をするものなの?」
「じゃからさっきから言っておるじゃろ! “げ~む”じゃ!」
「はぁ……、だから“げ~む”ってのは一体……」
「何度も言わすな! じゃから、今やっておるのは“ついんはみこん”の“ぐらんでうす”ってやつじゃ」
堂々巡りの会話は続く。魔王の少女は苛立ちを覚えてくるが、自慢したい。タイヤーはご機嫌を取りたいが言っている意味がサッパリ分からない。
「ええい! 埒が明かんのじゃ! 一度やってみたらいいじゃろう! そうじゃな、わしに勝てれば何でも教えてやるのじゃ!」
魔王の少女は「これで対戦じゃ!」と、“ストリートファイト”と書かれた四角形のソフトを取り出し早速準備に取りかかるのであった。
◇◇◇
「あの、僕やり方分からないんだけど」
「ほれ、取り敢えずコレを持て。よいか? この十字でお主が選んだ太っちょが動く、上を押すとジャンプ、右にある丸いのを押すと殴打や蹴りを出すのじゃ。この上の棒の緑が無くなると敗けじゃ」
タイヤーが無造作に選んだのは“エロモンド田本”、筋肉質ながら太っていて動きの遅いキャラクター。
一方魔王の少女が選んだのは主人公キャラクターの“りょうじ”、バランスの良いキャラクターであった。
「わしはやり込んでおるからのぉ。強いぞ」
不敵な笑みを見せる魔王の少女だが、初めて触るタイヤーはそれどころではなく“てれぇび”に映る絵を物珍しげに見ていた。
「それじゃ、始めるのじゃ!」
“てれぇび”から音だけでなく声が聞こえてきて、タイヤーは思わずビクッと体を震わせる。
余裕の笑みを見せながら“りょうじ”は“エロモンド田本”に無防備で近づいてきた。
「えっと、これが殴打でこれが蹴り……わ、来た!」
「タイヤーくん、頑張れ」
「負けないでよね、タイヤー!」
タイヤーは二人の応援を受けて必死に丸ボタンを押し続ける。張り手を繰り出す“エロモンド田本”。タイヤーはその場から動かず必死に張り手を出していた。
「あ、あ、あ、ちょ、ちょっと待つのじゃ!」
魔王の少女のキャラは張り手の連打を無防備に受け続ける。ジャンプして上から襲っても張り手の壁にすぐ捕まり、どんどんとゲージが減っていく。
『You Win!』
あっさりと一本目を先取するタイヤーに魔王の少女は悔しそうに歯軋りをする。
すぐに二本目が始まるが、一本目同様に張り手の嵐に捕まり、これまたあっさり勝負がついた。
「えっと……勝ったのか? これ?」
「あたしに聞かないでよ」
横を見ると魔王の少女は、よっぽど悔しいのか目尻に涙を浮かべていた。
「えっと、もう一回やる?」
「当然じゃ! 次は負けないのじゃ!」
「ちょっと待って! タイヤーが勝ったら『何でも教えてくれる』んじゃなかったの?」
「むう……そうじゃな。何が聞きたいのじゃ?」
しばらく質問を考えたタイヤーは「取り敢えず、君の名前を教えて」と、魔王の少女に聞く。
「わしの名前か? わしはミュオじゃ。よし、一つ答えたのじゃ、次の勝負じゃ」
「えっ、一つだけ?」
「そうじゃ。一勝負一つなのじゃ」
唇を尖らせてそっぽを向いたミュオは、鳴らない口笛を吹き誤魔化すが、二回目の勝負も始まってすぐにタイヤーが勝ってしまう。
不機嫌になっていくミュオは「何が聞きたいのじゃ!!」と語尾を荒らげる。
「えっと、そうだな。僕らに危害を与えないで欲しい」
「質問ではないのじゃ。まぁ、元々そんなつもりもないしの。わかったのじゃ。それより次じゃ!」
三回目の勝負の時、同じでは芸がないと適当に動かすタイヤー。タイヤーのキャラクターである“エロモンド田本”は、絵が急に動かなくなったと思ったら、次の瞬間、何度も何度も平行に飛んで行き、“りゅうじ”に頭突きをかます。
「おお! 超必殺技なのじゃ! どうやったのじゃ? どうやったのじゃ?」
ミュオはタイヤーの胸ぐらを掴みかかる。やり込んではいるミュオであったが、未だに超必殺技を出したことがなかった。
「い、いや分からない……適当だし。それより、勝ったから質問するよ? えっと……ミュオの家族は?」
「ちょっと何よ! その質問は?」
初めてゲームをするタイヤーにアッサリと負けるミュオが妙に気にかかった。しかし、今度はエルがタイヤーに掴みかかってきた。
「い、いや思い浮かばなくて……それに、ちょっと気になるし……」
「わしの家族か? わしの母親なら五十年ほど前かのぉ、男作って、わしに魔王の座を渡してどっか行ったのじゃ!」
「え……? それじゃ、五十年前から、ここに一人で? 友達とかは?」
「友達などおらんし、ここに人が来るのも、お主らが久しぶりじゃ。だけど、母親が置いていった“げ~む”があるから退屈はしないのじゃ……って、何でお主泣いておるのじゃ!?」
「えっ!?」
タイヤーは自分でも気づかないうちに涙を流していた。ミュオがベッドも無い殺風景な部屋で一人“てれぇび”に向かって“げ~む”をしている姿を思うと、感極まってしまった。
「ミュオはもしかして二人で“げ~む”ってのをやるのは、初めてじゃないのかい? だから、全くやったことの無い僕でも勝てた。違うかい?」
図星のようでミュオは押し黙ってしまった。対戦ゲームに関しては一人でやるだけで、タイヤーの言うように対人戦は今までやったことがなかった。
タイヤーとの勝負に張り切っていたのは、初めての対戦ゲームの醍醐味に興奮していたから。
そんなミュオにタイヤーは突拍子のない提案をする。
「良かったら、僕達と一緒に行かないか? きっと世の中には“げ~む”より、楽しいことがいっぱいあるはずだよ?」と、ミュオを誘うのであった。




