05 西の魔王
“魔王の部屋”とご丁寧に書かれた扉を見つけたタイヤー達は、扉を開くか退くかで悩んでいた。
魔王という存在は、この世界においては物語の中の話でしか出てこない。しかし、現にこうして扉に書かれているのだから、対応に困っていた。
物語の中の魔王は、どれもが強大な力を持ち、英雄しか倒せないような設定がされている。
聖騎士を傾倒するタイヤーとしては、倒せば近道であろうが、扉の向こう側から発するプレッシャーのようなものに気後れしていた。
エルとフローラもそれは同様で、扉を開くのを躊躇ってしまう。
「どうするの……タイヤー? もし、タイヤーが望むなら、あたしは付き合うわよ」
「うーん……」
タイヤーとしては、ここで引いたら憧れを抱く聖騎士から遠退くように思えるが、それはあくまで自分の夢。
エルやフローラを巻き込むのは違うとタイヤーは結論を出した。
「と、取り敢えず、中を覗いてみないか? 万一不味そうなら全力で逃げるという方向で」
二人が頷くのを確認すると、タイヤーは扉に耳を当ててまずは中の様子を伺う。扉の向こう側からは、ピコピコと妙な音が聞こえてくる。
「中から音がする……けど、何の音だろう?」
タイヤーは扉の取っ手に手をかけて、ゆっくり音がならないように少しだけ開き、エルとフローラとタイヤーで縦に顔を寄せて中を覗き見た。
ピコピコ、ピコピコ……チュドーン!
奇妙な音がハッキリと中から聞こえてくる。扉の向こう側は明かりが灯っており、誰かが居そうな雰囲気が漂う。壁や天井といった所は洞窟内と変わらない。
部屋というにはあまりにも殺風景であり、視線を動かすと音を発する原因の箱が見えてきた。
「なんだ、あれ?」
「さぁ?」
音が発する箱には絵が書かれており、奇妙な事にその絵が動いている。そして、箱の前には背中側しか見えないが、背丈より子供と思われる人物が胡座をかいて座っていた。
「あれが、魔王?」
「さぁ? ルカより幼いくらいでロリ王女様より少し上といった位か……?」
こそこそと小声で話すタイヤーは魔王らしき人の姿以外の人物を探すも、他には誰も居ない。タイヤー達は、一度扉を閉めて作戦を練り直す。
「やっぱり、あの子供が魔王なのかしら?」
「でもエルちゃん。この重苦しい雰囲気は、あの子というよりは、部屋全体から漂っているよ」
「そもそも、あの箱も何か分からないしなぁ……。大体箱の前で、あの子は何をしていたんだ?」
考えても考えても理解が追い付かず、タイヤーは別の切り口で考える事にした。
「もし仮にあの子が魔王だとして、エルやフローラは戦える? 僕は少なくとも無理だ」
「あたしも無理よ」
「私も……」
「そこでだ。ここで引き返すとするだろ? 他の道を進んだチームはハズレだから必然的に僕たちが進んだルートに“魔王の部屋”があるのは分かっているはず。何もなかったと誤魔化したとしても、いずれは他の討伐者がやって来るだろう。少なくとも今何かの手を打つべきじゃないかな?」
そう提案するも別にタイヤーに妙案があるわけでもなく、何かないかと再び偵察することに決め、少しだけ扉を開き中を覗いた。
タイヤー達三人は、開いてすぐに白目にうっすらとしか分からないほどの白い瞳と目が合った。
肌も雪のように白ければ、腰まである髪の毛までも銀のように輝く白髪の女の子。
頭から伸びた二本の角も真っ白で、唯一、大きさがブカブカでワンショルダーのようになったワンピースだけは黒かった。
「なんじゃ、お主達は? 今わしは“げ~む”で忙しいのじゃ邪魔するな!」
内側からパタンと扉を閉められたタイヤー達は、唖然としたまま顔を見合わせる。
色々言いたいことはあったが、いきなりの事に言葉を失っていた。
もう一度だけとタイヤー達は、扉を開くと何もかも白い女の子は、再び箱を前にして座っており、こちらを見る気配はない。
「お邪魔しま~す……」
こっそりと部屋に入っていき、タイヤー達は女の子の背後に回って箱に書かれた動く絵を見ていた。
「えいっ、このっ!!」
魔王らしき女の子は、時折声を発しながら体を揺らす。そーっと横から女の子を覗き見ると唇を尖らしたり、眉を潜めたり歯を食い縛ったりとなにかと表情が忙しない。その表情は手に持った何かと連動しており、しきりに指で叩く動作をしている。
「あと、ちょっと! あと、ちょっとでボスを倒せるはず!!」
集中している女の子は、ピコピコピコと音を鳴らす箱に少しずつ顔を近づけていく。とてもじゃないが話しかけれる雰囲気ではない。
タイヤー達は、顔を見合せ女の子から少し距離を取ると邪魔してはいけない気がして小声で話し合う。
「あーーーーーっ!!」と女の子の叫び声に驚き見ると、ピコピコピコピコピコピコ……チュッドーーン!! と、一際大きな音が鳴る。
「あ、あとちょっとじゃったのに……」
背中に哀愁を漂わせ女の子はガックリと肩を落とすと、振り返りタイヤー達をキッと睨み付けた。
「お主らのせいじゃあー! お主らのせいで……うぅ、あと少しだったのに……」
怒鳴ったり落ち込んだり泣いたりと感情の起伏が激しく、遂には不貞腐れたのか背を向けてしまった。
「これ……謝ったほうがいいのかな?」
「知らないわよ。タイヤー得意でしょ、小さい子の扱い」
「そうだよね、タイヤーくんって、ロリ王女にも好かれているしね。小さい子に懐かれるの得意じゃない」
「うう~……さっきから聞いていれば“小さい子”“小さい子”やかましいのじゃ! こう見えても、わしはお主らより百歳以上年上なのじゃ!」
背格好は七~八歳程度。しかし、人とは思えない容姿と、ここが“魔王の部屋”でなければ、タイヤー達は笑い飛ばしていたであろう。
着色していない蝋人形のような姿が妙に納得させてしまう。
「え……と、本当に魔王……なの?」
「まぁの。正確には西の魔王じゃがの」
魔王がタイヤーの方へ顔を向けニヤリと白い歯を見せ笑うと、タイヤーは背筋が凍るのを感じた。




