04 西の洞窟の最深部
「今、助けるわ! タイヤー!」
傾いたタイラントタートルと壁の隙間に卍の形で挟まるタイヤーを助けるべく、エルは甲羅から突き出た岩を破壊しようと大剣を振るう。
「いででででで! エル、待った、待ったあ! タイラントタートルがこっちに迫って僕が潰れるぅ!」
「それじゃあ、どうすれば……あっ、生核を壊せば!」
エルは再びタイラントタートルが腹を見せている場所へと移動する。タイラントタートルの腹には宝石かと思わせる正六角形の石が嵌め込まれており、エルが今まで見たことないほどの大きさの一瞬、見とれる。
「硬そうな生核だけど、多分スキル使わなくても破壊できるはず」
エルは正眼に大剣を構えていると、フローラとギルとミーアの三人が“青雲の牙”達の応急手当を終えてやって来る。
「うおっ! こんなデカイ生核は初めて見た」
「本当に大きいわね。ところで、どうするつもり?」
ミーアとギルも長年討伐者としてやってても初めて見る大きさに驚きを隠せずにいた。
「えっ? 壊すつもりだけど?」
あっけらかんと答えたエルにギルは詰め寄る。
「本気か!? あの大きさだぞ!? 綺麗に取れればグルが高額で買い取ってくれるんだぞ!」
「でも、それじゃタイヤーが危険なままだわ」
「ギル、やめな! 残念だけど、私達は殆んど何もやっていない。彼女らにはこれを好きにする権利があるのさ。なぁに、たとえ壊したとしても欠片を回収して、グルに持って行けば新種のタイラントタートルとして認められるはず。それなりに金になるんだからさ。さ、壊すのは私たちも手伝うよ」
「ありがとうミーアさん。それにギルさん、ご免なさい」
ギルは大きく肩を落としてガッカリするも、ミーアの言い分の正当性に負けた。四人は、それぞれポジションを取る。エルとギルは生核を壊す役、ミーアとフローラは万一、壊した時の衝撃でタイラントタートルがタイヤーのいる方向へ傾いた時のために備える。
「せーーーのっ!!」
激しい金属音と共に生核にヒビが入ると、タイラントタートルが暴れ始める。四肢をバタつかせるだけではあるが、尖った甲羅の先が壁に余計にめり込む。
「た、タイヤーくん! 大丈夫!?」
「ま、まだいける……」
「エルちゃーーん、タイヤーくんが死にそう!」
強がるタイヤーであったが、タイラントタートルのによる圧迫により、顔を歪めていた。
「よ、よし。フローラちゃん、私たち二人で支えるわよ」
ミーアはなるべく隙間を作るべく“テンペストウォール”で風の壁を作り、フローラは息を止め、スキル“絶息の極み”を使用し壁に足を掛け、タイラントタートルの体をこれ以上傾かないように支えた。
「次、行くわよ! ギルさん!!」
「おう!!」
「せーーーのっ!!」
二人同時にヒビを狙って剣を叩きつける。再びピシッと音が鳴りヒビが大きくなるが、まだ壊れない。
フローラもミーアも衝撃に耐えるものの、早くも限界に近く、苦しそうに顔を歪めていた。
「あっ!!」
次に備えて力を溜めていたエルが声を上げる。生核のヒビが、更に大きくなり、遂には一部が剥がれ落ちる。こうなれば、もう叩きつける必要はないと、エルとギルは、剥がれた部分から隙間に剣を挿し込み壊れた生核を剥がしていく。
半分ほど剥がれた所でタイラントタートルは絶命し、暴れなくなる。そして、全てが剥がされるとタイラントタートルの遺体は煙になり、消えてしまった。
◇◇◇
助け出されたタイヤーは、皆と“青雲の牙”の様子を見に行く。応急処置は終えているものの、あまり下手に動かす訳には行かないと、これからどうするかを相談を始めた。
「まずは、こいつらだよな。あとは、あの壊れた生核のこと、最後はこの先を進むかってことだな」
「ギルさん。“青雲の牙”の容態は決していいとは言えませんし、頭を打っている人も。他の道に進んだ人を呼びに行って、そーっと運び出さないと」
「生核は置いていくしかないわね。あたしが抱えて持って帰ってもいいけど、何往復かしないといけないし馬車には多分乗らないわよ?」
「それなら私に任せて。“ボックス”の魔法ならあれくらい持ち運べるわ」
「最後は進むかどうかですね? このまま行かなければ依頼は不成立になるでしょうから……」
最後の一つが難関であった。このまま引き返したとなると、仕事は不成立になり共闘ということもあり、他の道を行った者も不成立となってしまう。
「……あなた達だけで行きなさい。私とギルで“青雲の牙”の人達は看ているから」
「ぼ、僕達だけで!?」
「大丈夫。あなた達は強いわ。だけど、無理は駄目よ。危険だと感じたら戻ってきたらいいから」
不安げなタイヤーの肩をフローラとエルが激励するように同時に叩く。
突発的な事があったが、幸いというかタイヤーのスキルも切れてはいない。
「わかりました。“青雲”の人達をお願いします! 行こう、エル、フローラ!」
タイヤーは振り返り先頭を切って歩き始める。エルとフローラの二人はミーアに頭を下げて礼を言うと、タイヤーの後を追いかけた。
◇◇◇
タイラントタートルが住み着いていたからか、タイヤー達は西の洞窟を魔物に襲われることなく、ズンズンと進む。
道幅は狭くなっていくものの、道は一本道で迷うことなく、突き進んでいく。
実に順調であった。二つの分かれ道に着くまでは。
「タイヤー、感じるかしら?」
「うん、ビリビリする」
「明らかにこっち側だけ、空気違うね」
二つの分かれ道の内、右側だけが異質な空気を感じていた。タイラントタートルの時も同じように感じていたが、明らかに今の方が重く、呼吸をするのも苦しく感じる。
「もしかして本当に魔王が……?」
「確か説明によると“魔王の部屋”ってあるんだよな? 取り敢えず、そこまで行ってみるか」
道幅や天井はますます狭くなっていき、岩壁に触れるとじめっとした液体が手に付く。湿気が妙に多くなり、地面もぬかるみ始めた。
「行き止まり?」
タイヤー達は、一瞬拍子抜けしてしまう。真正面には岩壁しかなく、一応調べてはみるものの、例の“魔王の部屋”など書かれていない。
「ねぇ、タイヤー。これじゃない?」
正面ではなく左側の壁を調べていたエルが、壁に触れるとボロボロと石が崩れる。どうやら何かの拍子で天井が崩れ扉を隠したようであった。
「まさか扉があるとは思わなかったけど」
扉の上部には、間違いなく“魔王の部屋”の文字。そして、タイヤー達が感じていた重苦しい空気は、明らかに扉の向こう側からであった。




