01 タイラントタートル
「よし、俺達は一番左の道を行くぞ」
ハヤトは意気揚々と左側の道へと入っていく。タイヤー達は、緊張した面持ちで仕方ないとハヤトの後に続く。更に“群青の魔剣”の二人は殿を買ってくれた。
たった数メートルほど進んだだけでタイヤー達には空気が重くなり、暗闇で明確な広さも分からない広い道を、警戒することなく進む“青雲の牙”。
奥へ奥へとどんどん進んでいく途中ハヤト達は、急に足を止めて辺りを見渡す。その間にタイヤー達が追い付くと、ハヤトに声をかける。
「どうかしましたか?」
「何か音がしないか?」
耳を澄ますと確かに、ズズッ……ズズッ……、と何かを引きずる音が洞窟の奥から響く。タイヤーはハヤト達より前に出て、目を細め暗闇をジッと見つめた。
「どうかしたの? タイヤーくん」
心配そうにフローラはタイヤーの腕に自分の腕を絡ませ、顔を覗き込む。タイヤーは辛うじて見える距離に地面を蠢く何かを見つけた。
「えっと……ハヤトさん!」
「ん? なんだ?」
「この先に何か居ます。気をつけて下さい」
タイヤーはハヤトに警告を促す。しかしハヤトは「そうか」とだけ言い、再びタイヤーを追い越して先へと進んでしまう。
「エル、頼みがある」
「何?」
「二段階目まで発動させておきたい、踏んでくれないか? それと、万一僕のスキルの発動が切れた場合、遠慮なく僕を置いていってくれ」
「踏むのはいいわ。でも、あなたを置いていくなんて出来ないわよ。いざとなったらあたしが担ぐからね!」
タイヤーは一度地面へ寝そべりエルに踏んでもらい二段階目を発動させ黄色の光へと変化させる。
「あなた達、どうしたの? ハヤト達に置いていかれるわよ」
「ミーアさん。ミーアさん達も、戦闘の準備しておいた方がいいです」
追い付いたミーアが声をかけてくると、タイヤーもミーアに警告する。
ここまで魔物には遭遇していないことがおかしいと。
ここの西の洞窟に来た目的は、“魔王の部屋”の調査、そして溢れかえっている魔物の討伐である。
「確かにおかしいわね。魔物が一匹も居ないなんて」
ミーアも異変に気付き、ギルも警戒してか腰の二本の剣を抜く。
あまり離されてはいけないとタイヤー達とミーア達は急いでハヤト達へと追い付く。
「下り坂? タイヤー、この辺りなの? 何か見たって」
「うん。そうなんだけど……僕が見たのは、地面を蠢く何かなんだよ。でもさ、ここが下り坂ってことは、この先に何かが降りて行ったことになるんだけど……」
「おーい、何してるんだ! 置いていくぞ!」
緩やかではあるが下り坂になっている手前でタイヤー達は止まるも、ハヤト達は雑談しながら一切の警戒もなく進んでいく。
「何か引きずった跡があるな」
独自に調べていたギルが地面を照らすと、確かに地面を何かが引きずったような跡が残っているが、問題はそれではなかった。
「随分と大きいわね」
ミーアも引きずった跡の幅の大きさから、警戒を強める。しかし、ここで引き返す訳にも行かず、タイヤー達はハヤトの後を追った。
◇◇◇
「行き止まり?」
タイヤー達が立ち止まっている間、随分と先行した“青雲の牙”一行は、突然目の前に現れた石壁に出くわす。
ろくに魔物もおらず、来た道は行き止まり。このままでは他の道に行った連中に先を越されてしまうと、苛立ちを覚え始めていた。
「くそっ!! 引き返すぞ!!」
ハヤトは壁に向かって蹴りを入れ戻ろうと振り返ると、タイヤー達がやってくる。
「おい、何が“何か居ます”だよ。行き止まりで何も居ねぇじゃねぇか」
ハヤトはタイヤーに詰め寄るも、タイヤー達はハヤトを見ておらず、大きく数歩後退する。
「おい、どこ見て──」
「ハヤト! 後ろ、後ろ!」
仲間に呼ばれ振り返ったハヤトは、驚き目を丸くしていた。先ほどまで岩壁だったものが動いたのだ。壁が持ち上がり正体を現したのは洞窟の天井にまで届きそうな巨大な亀。
「き、危険度Aの、た、タイラントタートル!? いや、それにしてもこの大きさは……?」
ハヤト達は、慌ててタイヤー達と同じ場所までさがり、ゴクリと唾を飲み込む。岩壁だと思っていたのは、ゴツゴツした石で覆われた甲羅だった。
「大きすぎるわ……どうりで道中魔物が居ないわけね。それに洞窟から魔物が溢れ出すってのもコレから逃げてきた魔物なのかもしれないわね。ハヤト、どうするの? 逃げるの?」
ミーアは、一応このメンバーのリーダーであるハヤトの指示を待つ。
「ふ、ふはははは。逃げないよ。良いじゃないか、このタイラントタートルを倒せば一気に討伐者としての知名度が上がるぞ」
「本気なの? ねぇ、君達はどうするの?」
「やりますよ。エル、フローラ、いいね?」
「あたしはいいわよ」
「私も大丈夫。タイヤーくん」
タイヤー達はこれが初の討伐者としての仕事である。ここで逃げ出せば今後討伐者としてやっていけないのではないかと、タイヤーは考えた。
「ああ、もう! わかったわよ、手伝うわ!」
ミーアが覚悟を決めるとギルも二本の剣を抜く。一番槍は自分達だと、ハヤトも剣を抜き、“青雲の牙”だけでタイラントタートルへと、向かっていった。
これが洞窟内でなければ“青雲の牙”も気づいていただろう。真っ暗なランプくらいしか明かりの無い場所以外なら。
「エル! フローラ!! 何か来る、避けろ!!」
唯一タイヤーだけはタイラントタートルの変化に気づいており、咄嗟に叫ぶ。太い首が膨らみ、その膨らみが徐々に口元へと上がっていくのを。
タイラントタートルの口から、一つ一つが人の頭くらいの大きさの石を無数に吐き出す。
タイヤーは、スキルで上がった身体能力と動体視力で、エルは大剣を盾にして、フローラは飛んで来る風切り音により正確なタイミングで、拳で叩き割る。
「ギル、私の後ろに! “テンペストウォール”」
タイヤー達に比べて少しばかり気づくのが遅れたが、彼らの動きを注視していた為、ミーアの前に出来た竜巻状の壁で石を防ぐ。
誰もが自分の事で手一杯で、岩と呼んでもおかしくない石の弾丸に晒された“青雲の牙”を救う事が出来なかった。




