10 青雲の牙と群青の魔剣
ゴルディアの街のグルの前には、三台の大型の馬車が並ぶ。タイヤー達が一番後方の馬車に乗り込もうとした所にハヤトから声を掛けられる。
「良かったら一緒に乗らないかい? 俺達が討伐者としてのイロハを教えてあげるよ」
タイヤー達には実戦経験は少ない。ハヤトの物言いは気に食わないと一度は渋るが、ここで断れば周囲の目もある。
生意気な奴らだと目を付けられかねないとフローラの助言で、渋々ハヤト達の馬車へと乗り込んだ。
ゴルディアの街を出て西へ山沿いを馬車は進んでいく。
出発から小一時間ほど経過したタイヤー達は、初めてユーフラテス教国に入国するもテンションが上がることなく、早くもうんざりしていた。
「流石、バードストライカーだと思ったね。何せ、素早い上に空を飛び回る。片方の翼だけで俺の背丈くらいの大きさだ。そこで俺は起死回生に迫って来るバードストライカーをギリギリ避けて翼を掴んだのさ」
この調子で繰り返されるハヤトの自分語りにタイヤー達だけでなく、一緒に同行していたチームも、げんなりとしていた。
「ね、ねぇ。そう言えば、あなた達は養成所を首席と次席で卒業したのよね? 年はいくつ?」
ハヤトの話を遮るように他のチームのおかっぱ頭の女性がタイヤーに向かって話かけてきた。お陰でハヤトの自分語りは止まり皆の視線がタイヤーに降り注ぐ。
「三人とも十六です。あと、僕じゃなく、この隣のエルとフローラの二人がなんですけどね」
すんなり答えたタイヤーに女性だけではなく、“青雲の牙”のメンバーもざわめく。
「ちょ……ちょっと待って。何歳の時に養成所に入ったのよ?」
「僕達三人とも十五でですね。それが何か?」
「な、何かって……い、一年で卒業したってことよね? それで首席と次席? 凄いじゃない!」
タイヤーは、思わずふふんと鼻を鳴らす。自分が褒められるよりも、エルやフローラが褒められる方が誇らしかった。
「そうでしょ、そうでしょ。二人は凄いんですよ」
「そんなタイヤーは、卒業試験であたしとフローラに勝っているじゃない?」
「いや、あれは僕のスキルをエル達が発動させてくれたからで……」
互いに謙遜し合うが、おかっぱ頭の女性は「ちょっと待って」と再び割って入ってくる。
「三人とも一年で卒業して、かつそこの女の子達が首席と次席で、そして君は卒業試験で勝ったのよね? 三人とも超ルーキーじゃない! そこにいる“青雲の牙”のハヤトだって卒業に三年かかっているのよ? あなた達自分の凄さがわかってないみたいね」
おかっぱ頭の女性や同行しているチームがタイヤー達を称える中、“青雲の牙”のハヤト達は面白くないとむくれていた。
◇◇◇
馬車は日暮れ間近になると、停車して一同が夜営の準備に取りかかる。
「ほら、暗くて見にくいけど、あの山の麓に西の洞窟はあるのよ。馬車で進むのはここまで。今日は夜営して早朝に出発するそうよ」
「わざわざ、教えてくれてありがとうございます、お姉さん。何か“青雲の牙”の人達が急に冷たくなっちゃって困ってた所なんです」
「ああ、紹介がまだだったわね。わたしはミーア、こう見えても魔法使いよ。彼処で馬車酔いして吐いているおっさんはギルよ。わたし達二人でチーム名は“群青の魔剣”というの」
「魔法使い!? 初めて見ました。僕は“フマレ隊”のタイヤーです。赤い髪の子がエル、青い髪の子がフローラです」
タイヤー達は、ミーアと握手を交わしていく。ギルと呼ばれた男だけは木の陰で四つん這いになったまま動けずにいたが、目線だけは此方に向け会釈する。
「しかし、“青雲”のやつら、ざまぁないわね。あなた達がかなり有望とわかるや黙りで無視とは。男としての器量がしれるわね」
「僕達は気にしていませんから」
周囲は、各々が焚き火を焚いて夜営の準備に取りかかっていた。
タイヤー達もミーアに誘われ、一塊となって夜営の準備を始める。ギルという中年に近い男性は顔色を悪くしたまま木にもたれかかっており、いまだに彼の声を聞いていない。
「ごめんなさいね、いっつもなのよ、ギルは。でも、ああ見えても双剣の腕はたしかよ」
「挨拶は……それどころでは無さそうね。タイヤー、初めの見張りお願い出来る? 後半はあたしとフローラが変わるから」
「ああ、任せて──」
いきなりエルに蹴り飛ばされ顔を足で踏まれるタイヤーに、ミーアは唖然として目を丸くしていた。
「な、何をしているの?」
「ああ、タイヤーってこうしないとスキルが発動しないのですよ」
「初めの蹴りはいらないはずだけど」
エルの足の下でタイヤーは平然と話をしてくるのでミーアの頬は思いっきりひきつる。そして何か納得した様子で柏手を打つ。
「あ! ああ、そうか。それで“踏まれたい”っていうチーム名……」
「僕の名前がフマレなだけです!」
誤解だとエルの足に顔を半分潰されたまま、もうそろそろ退けてくれと思いながらタイヤーは、エルのパンツを覗くように見上げる。暗くて今一つハッキリと見えないが、それが却ってタイヤーを刺激する。
事情のわからないミーアは、タイヤーを踏みながら会話するエル、それを助けようともしないフローラ、踏まれながら、パンツを見上げながら笑うタイヤーに、ついていけていない。
助けを求めてギルに目をやるが、いまだにぐったりしており「役立たず」と呟くのであった。




