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僕は踏まれたい~踏まれるほどに強くなる~  作者: 怪ジーン
一章 踏まれたい養成所時代
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01 聖騎士に憧れる少年とエル

 エル・ハーバードとフローラ・ルーデンス。二人の少女とタイヤーが初めて出会ったのは、討伐者(サブジュゲーター)を育成するラーナシア養成所に入所するための試験であった。


 幼い頃、タイヤーに母親が読み聞かせてくれた絵本の中の人物が、聖騎士と呼ばれる前にやっていたのが討伐者(サブジュゲーター)という職業だった。


 単独でも絶対的な強さを持ちながらも、仲間と協力して、最後は魔物の大半を討伐。

 世界各国満場一致で称賛され、与えられる筈だった聖騎士という称号。

 しかし、彼は辞退し姿を消す──全ての功績を仲間に譲って。


 タイヤーは、そこに痺れる憧れる。


 討伐者(サブジュゲーター)には、巨大な魔物でも斬り伏せられる物理的な力や、硬い甲殻をも吹き飛ばせる魔法、そして各々のスキルを駆使して戦う。


 養成所に入るには、どれか一つが必要であった。


 魔法に関していえば素質によるところが大きいため、彼は体力や筋肉を鍛えながら、女神アーマイルから人に与えられた加護、個人の特性を最大限に発揮する“スキル”の鑑定に全てを賭けた。



◇◇◇



 養成所の入所試験、初めは二つの筋力測定。

 そのうちの一つ、岩を持ち上げるというだけと単純に力を計る重量挙げから開始された。


 タイヤーは少し気後れしていた。周りの受験者達が、あまりにも筋骨隆々な人ばかりであったために。彼は決して体格で恵まれているとは言い難かった。


 次々受験者が呼ばれる中、それぞれが自分に見合った用意された岩を持ち上げる。まだかと待機して見学していた受験者達から歓声と驚嘆の声が上がる。


 何事かと壁になった人だかりの隙間から覗き見ると、信じがたいモノを見たと目を丸くする。



「おいおい、まだ子供、それも女の子じゃねぇか……」

「あんな大岩を軽々と……信じられん」



 タイヤーの壁になっていた太い腕をした二人組の男性の会話が聴こえてきて、同意するように頷く。


 長く燃えるような真っ赤な髪が揺れる。


 細い二本の腕で、自らの背丈と変わらない大岩を軽々と持ち上げているのが、タイヤーと年が変わらないであろう少女の仕業であったことに。



「すっげぇ……」



 語彙力を失うほど驚愕していると、その少女はパフォーマンスのつもりか、調子に乗ったのか、頭上に大岩を持ち上げたまま、からかうように教官達を追いかけ回す。

逃げ惑う教官の姿に、受験者達から笑いが起こった。


 皆が笑いの渦の中、タイヤーは笑うどころか一人、ぽかんとだらしなく口が開きっぱなしだった。


 細く括れた腰付きや、筋力のきの字も見えないほど細い手足。

 しかし、胸元の盛り上がりは、運動するためとは思えない薄手の青色のサマードレスということもあり、ハッキリと主張している。

 茶目っ気のある笑顔で、笑いながら教官を追い回す姿にタイヤーは見惚れてしまっていた。


 可憐さと健康美溢れる少女に、タイヤー自身も気づいていないが、一目惚れをしていた。


 気づくとタイヤーの目はずっと彼女の姿を追っていた。一挙手一投足見逃さないように目を皿のようにして。


 ひゅーっと暖かい風が吹くと彼女の真っ赤な髪が鼻をくすぐり、「くちゅん」と可愛らしいくしゃみをする。


 彼女はぱちくりと長い睫毛を動かし、両の手のひらをまじまじと見始める。

そこにあの大岩は無かった。


 彼女しか目に入っていなかったタイヤーの耳にわぁっと大勢の騒ぎ声が入ってきた。

 何事と周りを見渡すと周囲にいたはずの受験者達が誰もいない。


 ドシーーンっと、音がして目の前は何かに塞がれる。

 舞い上がる土煙にタイヤーが咳き込んでいると、視界を塞いだものが彼女の持っていた大岩だとわかり、ゾッとして恐怖で体が(すく)む。



「ごめん、ごめん。大丈夫? 怪我はない? うん、無さそうね。……あれ、もしかしてチビった?」

「チビってなんかねぇーしゅっ」



 タイヤーは盛大に噛んだ。


 ──ギリギリだった。ヤバかった。例えるなら表面張力パンパンに張った水の入ったコップに貨幣を一枚入れるくらいに。でも大丈夫、チビってねぇーしゅ……──


 激しく動揺しているタイヤーは、心の中であっても盛大に噛む。


 駆けつけた彼女は、動けずに立っていたタイヤーの身体をペタペタと気安く触り調べ始める。

 膝立ちのまま、長い睫毛をした目をタイヤーに向けると、「ふーん……」と笑ってみせた。

 彼女は怪我がないことを確認すると、再び大岩を持ち上げて去っていってしまう。


 この会話がタイヤーとエル・ハーバードとの初めての会話である。もちろん、タイヤーにもエルにもこの出来事は互いに印象付けることとなり、入所後仲良くなる切っ掛けの一つとなった。


 因みにタイヤーの成績というと、エルの半分の大きさも持ち上げられずに、あれほど鍛えたはずと不思議そうに首を傾げるタイヤーであった。



◇◇◇



 “赤い蜂蜜”を追い出されたあと、エル達と合流したタイヤーは、エルとの出会いを思い出しながら、ふふっと笑みを溢す。



「どうかしたの、タイヤー。急に笑ったりして」



 日も暮れ始めて来て、広がる荒野の片隅に立ち並ぶ低木の側で焚き火を一緒に取り囲むエルが、怪訝な顔をしながらタイヤーを見てきた。

 焚き火の灯りに彩られた彼女の真っ赤な髪は、まるで燃えているようだと錯覚してしまいそうだ。



「何でもないよ。ちょっと昔を思い出していただけ」



 地面に無造作に置かれた彼女の大剣を見て、ほくそ笑みを浮かべる。

彼女の怪力があればこそ扱えるものなのだろうと。



「タイヤーくん、はい、お茶」



 フローラが耳にかかったコバルトブルーの髪をかき上げながら、茶色い液体の入った木製のコップをタイヤーに手渡す。

 前屈みになると、フローラの豊かな二つの山は、重力に引っ張られ、たゆんと揺れた。


 ──そう言えば、フローラと初めて会った時も盛大に揺れていたな──


 フローラと言えば胸、胸と言えばフローラ。

 それほど彼女の第一印象は、強烈に瞼の裏にこびり付いていた。

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