第一章 3話 戦闘の既視感
俺達は食堂へと案内され、豪華な食事を与えられていた。異世界というだっけあって食べ物も見たことのようなものばかりだ。
他の奴らは楽し気な雰囲気だが、俺はさっきのステータスの件が気になっていた。
「どうしたのレイ?浮かない顔して」
「そうだぜレイ。なんかあったのか?」
隣に座っていた佳奈と雄輔が心配そうな顔で聞いてくる。ちょうどいい。この二人にステータスのことを聞いてみよう。
「おい雄輔、佳奈。お前らやっぱり魔力系統は"無"だったか?」
「おう、そうだぜ」
「私もそうだったけど……どうかしたの?」
そう聞かれ少し焦った。やはり俺のステータスだけ異常だ。このことは誰にも言わないでおこう。
「いやなんでもない」
雄輔と佳奈が不思議そうな顔でこちらをみてくる。このままでは言及されかねない。適当に誤魔化しておこう。
「俺は午後からの訓練まで部屋にいるな」
そう言って俺は部屋に戻った。
レイが部屋へと戻った後、食堂に残された雄輔と佳奈の二人はレイの様子を気にしていた。
「やっぱりレイ、どこかおかしいよね?」
「そうだな。やっぱりレイでも違う世界に飛ばされるっていう状況じゃ冷静でいられないんじゃないか?」
雄輔にそう言われるが、佳奈はどうにも納得のいかないという様子だった。
「それは違うと思う。森に飛ばされたすぐ後一番にあのセレンって言う人に質問したのはレイだったし、その後も……。レイはただ何らかの情報を得ようしてるんだと思う。こんな状況だからこそ冷静でいるのがレイだし。だから冷静じゃないってことはないと思うな」
「だとしたら何があったって言うんだよ」
二人の間に沈黙が流れる。レイと10年以上の付き合いがある二人だが、先程のレイの反応は二人にもわからないらしい。
(さっきも妙に誤魔化された気がするなぁ)
そんなことを思っていた佳奈だがふと何かを思い出したようにまた口を開いた。
「さっきあの森でセレンさんを見たときちょっとおかしな反応をしてたの」
「おかしなってどんな反応だよ?」
「どんなって聞かれると困るけどあの時は明らかにおかしかった。セレンさんに何か関係あるのかも」
佳奈の推測は正解でもないが間違ってもいないといった具合だがこのときの佳奈には知りえないことだった。
「それにしてもレイのことよく見てんな」
「そ、そうかなぁ?」
先程とはうって変わって佳奈があたふたし始める。
「さっさと告白しちまえよ」
雄輔の発言に佳奈は耳まで赤くなる。佳奈はずっとレイに好意をよせている。しかし幼馴染という微妙な距離感が邪魔をしてずっと言えずにいた。
それでも周りからみると隠しきれていないので雄輔も佳奈の気持ちは知っている。だからこそいつもこうして佳奈を後押ししている。
「レイの奴も鈍感だからなぁ」
レイも佳奈の気持ちに気付いているがあえて気付いていないふりをしている。レイはこの二人に悟られないようにしているし、二人も気付いてはいない。
「そんなことより早く食べないと。午後から訓練するって言われたでしょ」
そう言って佳奈は誤魔化した。
食事の前にセレンとあのスタードという男から午後には訓練をすると告げられた。セレンによるとスタードはこの国の近衛騎士団団長らしい。これからはスタードの指揮の下、騎士団員達によって訓練されるとのことだった。
そして俺達は訓練場へと集められていた。
「これより訓練を開始する」
スタードが高らかに声を上げる。
「改めて、俺はスタードだ。お前達の教育係になった。よろしくたのむ」
これから訓練が開始される。この城の奴らが信用できるわけではないし分からないことだらけだが、この世界では戦争が起こっているくらい命の価値がひどく軽いらしい。
生き残るためには力がいる。この訓練は真面目に受けておこう。
「全員ステータスは確認しているな?ならばまず職別に分かれてくれ」
この世界では個々に職というものが与えられる。これはそれぞれの性能に応じて振り分けられる。
俺の職は剣士だ。斬撃を攻撃手段の主とする職が集められ訓練が開始された。
「ここの担当を任されたザルムだ。よろしく頼む」
俺達の担当は騎士団長副長を務めているらしいザルムにきまった。
「「「よろしくお願いします!」」」
気合いの入った声が響く。
剣士系の職だけあってここにいるのは剣道部かそうでない者でも剣道の経験がありこの場で剣を握ったことがないのは俺だけだった。
「まずは今の実力を見るために二人組で模擬戦をしてもらう。なるべ全力を見せてくれ」
ザルムの指示で訓練用の木剣を持たされ、模擬戦のペアが決められた。俺が組むのは地区大会の個人戦を製し全国大会へと出場をした剣道部の上村義和だ。正直こいつには勝てる気がしない。
「おい、二羽。お前剣道やってたのか?」
上村が話しかけてくる。
「いや、剣を持つのは今日が初めてだ」
「そうか……。手加減しないからな」
それだけ言って上村は俺と一定の距離をとる。間合いをはかっているのだろう、あるところで止まって構える。
「全員準備はいいか?」
ザルムが確認に入る。そして
「それでは、始め!」
合図が出された。上村は動かずじっとこちらを見つめて、隙をうかがっている。俺も剣を構えをとり臨戦態勢をとる。
一泊して上村が一歩を踏み出しこちらに接近してきた。俺も一歩で上村に側まで近づく。上村は多少驚いた顔をしていたが、すぐに切り替え上段から真っ直ぐに剣を振り下ろしてくる。そのタイミングに合わせて俺は剣を横凪ぎに振るい"カーン"という音とともに上村の剣を吹き飛ばす。そして上村の首筋へと剣を当てた。
一時の静寂が流れる。模擬戦の最中だというのに誰もが手を止めこちらへと視線を向ける。
「おい、手を止めるな続けろ」
ザルムの一声ではっとしたように模擬戦が再開される。
「そこの二人は全員の模擬戦が終わるまで待機していてくれ」
ザルムが声をかけてくる。周りを見渡すと他の奴らはなかなかに拮抗している。これはしばらく終わりそうにないな。
「大丈夫か、上村」
上村へと手を差し出す。上村は俺の手をとり起き上がった。
「すまない。それにしても驚いた。本当に剣を握ったのは初めてか?二羽は何でもできると思っていたが剣までできるとは……。俺の完敗だよ」
「そんな風に思われてたんだな」
苦笑いでそう答えた。全国大会に出場するぐらいの実力だからもっとプライドが高い奴なのかと思ったが、案外そうでもないのか?
「大体の奴がそう思ってるだろ。うちの学校でお前を知らない奴なんてほとんどいないと思うぞ」
「そう……なのか」
ちょっと嫌だな。
ペアを変え何回か模擬戦をやったあと俺達は再びザルムのもとへ集められていた。
「今回の訓練はこれで終了だ。明日からはそれぞれの実力に合わせた訓練内容を組んでおく。それでは解散」
「「「ありがとうございますした!」」」
再び勇ましい声が響き渡る。
それぞれの部屋へと戻り始める中、俺は今日の模擬戦を思い出していた。結果は全線全勝、どれも一瞬でけりがついた。そしてどの模擬戦でも違和感を感じた。
俺は今日初めて剣を握った、握ったはずだ。しかし自分でも今日初めて剣を握った気がしない。ずっと前から、それも幼いころからずっと剣を握ってきた気がする。
そんなわけないのは俺がいちばんわかっている。それでも今日の模擬戦では信じられないほど体が自然に動いた。
一度感じたこの違和感はそう簡単には拭えそうにもないほど俺の頭の中に住み着いた。
部屋に戻った俺は何度も今日のことを反芻した。異世界へと召喚され、訓練での既視感いろいろなことがありすぎて今日はクタクタだ。明日は朝から訓練がある。
とりあえず寝てしまおう。