無駄足
「この血液はデータベースに登録されていないな。」
人工血液センターの普段、誰も使わない非常用の階段の踊り場で赤髪はセンターの職員で協力者のカネコと密談していた。
カネコは赤髪が公安にいた時に知り合ったギャンブル依存症の男で、赤髪がキルトーキョーのカジノ街の偽装入場セキュリティカードを与えるのを条件に情報を与える情報屋だった。
カジノ街に入るには入場カードが必要で、入場カードはギャンブル依存症の診断を受けた者に発行禁止という法律が存在していた。
毎月 失効し再発行手続きが必要な入場カードはカネコにとって喉から手が出るほど欲しい代物だった。
赤髪がカネコに調べさせた血液はジョンドゥと呼ばれる男の物で、この男の経歴を調べるために持ち込んだ物だった。
公式機関の職員の血液情報がない。
謎だった。
イバラ葬儀店、、、、
アイスピックのタケオが残した言葉はすぐに調べがついた。
イバラ葬儀会社はデッドトーキョーやキルトーキョーに山ほどある重度のジャンキーや何かしらの事件に巻き込まれて死んだ
身元の分からない死体を処理する死体処理会社で表向きは公式機関の許可を受けた葬儀屋であった。
公式な許可を受けたと言っても、デッド キルトーキョーの世界は外界とは分離状態であったため、許可自体が曖昧で何処のどの組織の誰が許可したのか分からず、そして、ワザワザそれを調べ者もいなかった。
アイスピックの最後の言葉を元に胡蝶アオイはキルトーキョーにあるイバラ葬儀店を捜査する。
イバラ葬儀店は使われなくなったキルトーキョーの一角を買い占め、膨大な土地に無縁仏の墓地をたて、最新式の火葬施設を持つ、ナカナカ羽振りの良さそうな会社だった。
羽振りがいい。不思議である。
スラム街の野垂れ死にの死体を処理する会社が羽振りがいいのがアオイことチビにとっては疑問であった。
それこそ国からの報酬があると言っても雀の涙ほどのはずで、物価の高いキルトーキョーにコレ程の土地と最新式設備が整った建物をもてる余裕は何処から出るのか?
内部調査をするとチビは疑問が増えていった。
従業員は二人。
40代ほどのジョンドゥと呼ばれる男と
年齢不詳の蟲と呼ばれる山高帽を被った男
ジョンドゥ、、蟲、、、彼らに至っては素性どころか本名すら誰も知らなかった。
チビはイバラ葬儀店の近くに張り込みようのどこにでもあるような軽ワンボックスを止めて、窓を開け、助手席に置いてある小さめのアタッシュケースをあける。
アタッシュケースには蚊ほどの大きさの血液採取ロボットが二匹おさめられたケースとコントロール用のゴーグルが入っていた。
チビは二匹の蚊ロボットを飛ばし、イバラ葬儀店の二人の血液を採取するために操作する。
二匹の蚊ロボットは見事に建物に侵入し、二人の獲物に向かい狙いを定める。
建物は四階建てで一階は大きな火葬場、二階はホールになっていた。
二人の獲物の居住スペースは三階以降で
三階の部屋でテレビを観て、くつろぐジョンドゥと呼ばれる男の首すじに気づかれる事なく着陸した一匹目の蚊ロボットは見事にジョンドゥの血液を採取し、チビの元に帰還する。
二匹目の蚊ロボットは蟲と呼ばれる男を狙うために四階に向う。
殺風景な部屋の真ん中にベッドをおき、帽子たてに山高帽が一つ。この時間から寝ている、妙に白い肌の色をしたスキンヘッドの男に二匹目の蚊ロボットが接近し、着陸体制に入ると、
監視していたチビの視界が急に真っ暗になる。
蚊ロボットとの通信が途切れてしまった。
ヘッドに寝ていた蟲と呼ばれる男が突然起き上がり、蚊ロボットを食った。
奥歯で粉々にされた蚊ロボットはそのまま胃へと。
妙に感のいい男だった、しかし、気づかれてる節はなかった。
チビは再度、違う蚊ロボットでの血液採取も考えたが、蟲の妙にいい感に危機感を覚え中止した。
赤髪は普段使われていない非常用の階段を出るとセンターをあとにする。
収穫はゼロだった。
かすかにでも青田郡司に繋がるかと期待していた分ショックは大きかった。
「あとは古い戦法でいくしかないか。」
古い戦法、張り込みである。
何かしら動きがあるまで張り付く。
赤髪はアンパンと牛乳を買い込み、チビの待つ事務所に向かって帰っていった。