第8話「感性の極致」
第8話「感性の極致」
ミツキとミーヤとの戦闘が始まるその号砲となった雷。それが落ちたと同時に遠くの戦場でも。いやたったの一キロぐらいしか離れてないけど…だけど違う戦場でも刻同じくしてそれは号令となった。
「ウォォォォォオ!!」
雄叫び上げる1人のウルフのそれに呼応するように戦い始めるウルフ達。ケアルとスラヴァは武器を用いて応戦を開始する。
ーーー
話が変わるが
ケアルは商管連の共同創立者である。
そんなものただの名義で名刺に書かれるだけのただの責任の所在。だがその責任にも持つべき者がいる。
例えば犯罪を犯した者は罪という責任が付与される、それは死ぬだけでは償えない物もある。だが今回の責任を持つべき者はそんな特例ではない。当たり前、単純に重い責任を持たせるのは信頼できる人物であるから。
商管連の共同創立者として3名、人物がいるが残る2人は経営、法律に明るい者。ならケアルは?
馬鹿で陽気でボケしかできないような人物。
それでも場違いな人物がトップに立った。それはそうさ、責任とは取るべき者が取る。そして信が置ける者でなくてはならない。創立者にしたのはアラヴィルだがそこから先は彼らが決めた。
ケアルは元軍部第1攻撃連隊 連隊長である。
自力で勝ち取ったその地位、だが部下からの信頼は話が違う。自らが動き他者に評価され信頼を得てそうして自分が意識せずともその形態は派閥。独裁とは違うが周囲が決めそして動き苦難困難を突破する。そうやって生きてきたのがケアルなのだ。
さて蛇足極まるこの説明、何が言いたいか…その結論は単純。
ケアルは弱くない。
「討ち取った!」
そう言って敵の首根っこを握りしめ掲げる様は強者のよう…まぁ本人が残念過ぎてどうしようもないけどな。
ーーー
スラヴァは隣で勝鬨上げてる馬鹿を見て微笑ましく思う。
前からいつか化けると期待し手塩をかけていた。少し早いぐらいの時期から武勲を上げ始め、今ではこの里内では5人目の実力者だ。まぁ負ける気は無いがな。
拳に自信があるのか丸腰で近づいて来たウルフを瞬殺し捕縛までしている男は軽く苦戦していたケアルの方を見てそう評価していた。
ーーー
「さて、これでお前が出した手駒2人は確保した。次はなんだ?お前自身が戦闘を始めるのか?」
アラヴィルは2人の勝ちを見た後にそう疑問を投げる。ウルフは手で頭を掻きむしりながら会話をし始める。
「まぁーこうなるわな、武の極みとか自称してるけどやはり総合的な武力ではお宅ら竜人がトップだ。けどこのまま引き返しても殴られるだけだ、1人ぐらい取っ捕まえねーとな」
「ここにいる奴はお前よりも強い、もし里の者を攫おうともアサヒが対処している。詰みだよ」
「…そりゃ大誤算だ、あの化け物が守備貫徹してんならそりゃ無理難題ってもんだ。ならこの戦闘のデータぐらい持ってかねーとな」
すると爪をむき出しにした両手で構えこちらとやりあう気満々だ。
「名乗った方がいいのか?というか挑戦者として名乗りたいんだけどな」
「別にいいぞ?なら俺から、竜人の里長 ドラゴ・アラヴィル」
「狼人の第5歩兵部隊 小隊長 マルコ」
名乗りあったなら殴り合わねばならない。それは里の掟、それを止める者は自分の種族の栄光に泥塗るような所業。一家は末代の代まで里の汚点として除け者扱いされる。ましてや戦闘の承諾をしたのは長、死刑にもなり得る。
そんな重さを知っているからこそ不安な戦闘であっても号令をかけなければならない。スラヴァは溜息を零し声を掛ける。
「いざ尋常に…勝負!」
ーーー
両者は共に走り出し正面からぶつかり合う。ウルフは、マルコは爪を突き出しアラヴィルの心臓を狙うがそれを手の甲で払う。
現代のボクシングのようなジャブを放ち軽くマルコにダメージを負わせる。しかしそれが目的では無い、放ったジャブはマルコの顔に当たり目をつぶってしまった。その瞬間を求めていた。
アラヴィルはその場で一回転する。そのまま遠心力を乗せ、体重を乗せた右の拳をマルコの身体へ突き出す。その拳が触れると威力は絶大、マルコの身体は地面を2バウンドする勢いで吹き飛び崖にぶつかり止まる。
「…まさか一発でノックダウンったつまんねーな」
そう呟き確認しようと崖へ歩き始めたアラヴィル。しかし聞こえた、その声はとても遠く明らかに崖の方向からのものでは無いが確かに聞こえた。そしてもう一度聞こえた、右耳の方から
「そりゃ失敬だったな」
不確かな情報しかないが確信した、奴は右にいると。そこからの行動は早かった。
咄嗟に前方に転がり込みその勢いを生かし立ち上がり後ろを振り返る。
そこには奴がいた。しかし先程と様子が少し違う。まるで血肉飢え己の飢餓感をどうにか抑えたいとする獣のような…自分よりも強い強者を見つけそれに歓喜し己の肉体が滅ぼうとも挑戦しようとする獣ような…
「この身体が朽ちようとも挑戦を止めれない、止めればそこで俺という存在意義がなくなってしまうのが怖い…だがそれよりも…」
ヨダレを垂らし獲物を正確に認識し、然しながら知性を失うことはない。そんな人間が、いや毛が生え美しい黒色が風でなびく。二足歩行から四足歩行へと変わるがそちらの方が堂に入っており元の戦闘スタイルというのがよく分かる。ウルフや一定の獣から派生した人族達が扱える奥義の1つ『感性の極致』
「絶対的強者と戦わない何ぞ勿体なさすぎる!!」
駆け出した狼は速かった。事実狼は時速70キロならば20分ほどだが一般道路を走っている乗用車、基本的に30キロぐらいだがそのレベルならば7時間走れる。瞬発力だけではなくその足の速さをギアのように変えれば耐久力さえもある。
そして何より狼はハントを中断することがある。無理な戦を仕掛けず必ずこちらが勝つように立ち回る。即時判断できるその知性こそ狼が恐れられる怖さの1つ。
…攻撃の起点となるのが前足からの払い攻撃ってのはわかるがそこから先の攻撃のコンボが理解できないな……
そう考えつつ右へ左へのらりくらりと躱すアラヴィルをマルコはその起点後に目にも止まらぬ速さで動き回る。例えば右前足での払いの後に一回転し尻尾で攻撃、そのまま着地したかと思えば瞬時に後ろに回り込み左前足で引っ掻きにやってくる。
その戦法は縦横無尽の一言。空中攻撃さえもお手の物、それこそ人間大の本物の狼と戦闘しているとも思えてくる。
「…やっぱ面白いな、戦闘ってのはよ!」
空中に浮いたマルコを勝機と受け取ったのかアラヴィルは掴み地面にぶん投げる。しかしマルコは爪で地面を切り裂き、土埃を起こし目眩しをする。
「どうした逃げんのか?」
「というよりもタイムリミットだ」
いつの間にか離れていたマルコは人の姿に戻り笑顔でこちらに語りかけてくる。
「元々この作戦はあなた達の里を掌握するのが目的だ。だがミーヤの部下…偽名で言うところのテセルマから手引きして竜人のサンプルは既に取っている。だから掌握はもう違う」
「…テメーの作戦を語ってくれるのはいいが、サンプルの件は許せねーな」
「いいのか?今回は既にその時点は過ぎている、はっきりと言えばこの戦闘はあんたの邪魔なんだよ」
「何が言いたいんだ?」
「ミーヤはファルス?とかいう奴に時限型のある魔法を最初にかけた。エルフの総力を挙げた一大開発…『原点回帰』の術式化をな?」