第7話「衝突する怒気と悪意」
第7話「衝突する怒気と悪意」
「クソったれ!なんでここにきて番狂わせしか起きねーんだよ!!」
「失礼ですが祖先様、口が悪いかと」
「それどころじゃねーだろ!とりあえずアサヒだけで里内の民は移動できるのか?」
「そもそも一度滅びかけたことがあり、以来ミツキが怒ったら避難勧告なくとも事前に決めていた場所に集まります」
「災害レベルなのねあれ?!!わかった、ならお前も参s」
「ですがその場所に大多数の生体反応が向かっているのでそっちを迎撃に行きます」
「…ここにきて攻撃カードを取られたか」
「ミツキを言葉で動かせば僕より強くなるはずですよ?」
「無理難題を出すな」
「では」
翼を勢いよく羽ばたかせ空に浮く、目的地の方を見たと思えば風を切りそちらへ向かう。
「…なんか言ってけよ」
まぁそれ程まで切羽詰まってんだろうなと思いながら壇上を眺め溜め息こぼす。
「さてどうしたものか」
上空にて1人これから戦地になる場所に向かうアサヒは言葉をこぼす。
「3つの中でも一度も間違えずに攻略してきたじゃないですか、頑張ってください。ツカサさん」
ーーー
「うーん、だって熱苦しいおっさんもビビってんだよ?あんなのどうしろってんだよアサヒ」
壇上に近づいてみたがその場はなかなか混沌としていた。評議院の面々から言うならばファルスは何かされ意識が飛んでおり倒れている、セルツは慌てふためきあっちこっちへ、ミニレはエルフの動向を観察しているようだ、スラヴァはアラヴィルの前に立ち守る態勢。
次にエルフとミツキは対照的だった。エルフの方はミツキをどう調理しようか考えているような邪悪な笑みを浮かべている。対するミツキはいつ魔法を使うかわからないような無表情。
最後にアラヴィルは…なんであんた天に願ってんの?あんたのところの管轄でしょうが…
そんな状況把握中に戦闘は開始する。
戦闘の初撃は天から降る雷のような物だった。
放ったのはミツキ、それに詠唱はなくただ手を
掲げ、地へ降らせただけの代物。しかし効果は絶大。
放たれた雷により爆音と眩い光は、人族が司る五感のうちの二つを封じる。それ故にエルフは杖を構え直すしかできなかった…いやその後の行動よりそれが最善であったことが立証される。
ところで話は変わるが
ーーー
【魔法とは…魔素を消費し別物質に変換する、いわゆる『錬金術ベース』と魔素を消費し両者ともに認識させる、いわゆる『類感ベース』がある。
錬金術ベースによる魔法は個人により完結しその威力は当人の魔力干渉能力によって変わってくる、が。
類感ベースによる魔法は2人から多人数により完結しその威力は当人の魔力干渉能力のみではなく想像能力と対象者の共感能力が高くなければならない。
前者である錬金術ベースは魔法使いの中でも上級者が好むもので後者である類感ベースは下級者に対する救済処置のようなものだった。
なんせ不意打ちの類はできずその効果への期待は低い。1対1、または1対多でしか使えない品物でそこに価値は皆無とされ、よもやその存在意義は無いに等しかった】
はてさて何故今この状況でこの説明が入ったのかよくわからないだろう。しかしこれは必要な情報、ここの説明がなければ理解不可能の会話が続いてしまう。故に今では過去の現在に戻ってまで説明している。
ちなみに俺は導き手である程度まではこのように語れるがそれの受け取り方の調整まではできない。
しかしこの程度なら未来は揺るがない、変わらないと言うことを実証されてしまったと言うわけだ。
残念だったな!$32(「37//
ーーー
…なんかノイズが入ったような感覚があったけど気のせいだな。
ところで話は変わるが
あの雷…エルフにあたってはいないけど落ちた先に人いたよな?……さらに言えばそれ竜人のシルエットじゃ無いよな?!!
脳内で考え事していたら不思議そうに見ていた煙の中から拳が飛んでくる。あ、ロボットみたいにじゃなくて身体もくっついてるよ?
だからって暫定5メートルの位置から視界に拳が映るとは思わないじゃん、ロケットパンチかと思うじゃん。
「うぉっと!!?」
反射神経に物言わせ躱すことはできずアラヴィルのおっさんに首根っこ捕まれ強制的に回避させられる。
「最優先対象の首を取れたと思ったのに…まぁ仕方ねーか、竜人の長殿が常に見張っていたからな」
「狼人族の者ならばやはり今回の評議院での一悶着は連邦の一手か」
「答える気はねーな、とりあえずその庇ってる純族の命もらうぞ?」
狼と人の間、アラヴィルは狼人族と呼んだがやっぱりエルフとウルフ。この2つが絡んでる連邦が黒幕っぽいな…なおかつ目的はこの里の崩壊若しくは消滅だろうな。
チラッと女2人が睨み合ってる修羅場を見てウルフはそれをネタに会話しだす。
「…あの悪意の塊みたいな女、どうか引き取ってくんねーか?」
謎の提案をしてくるウルフに俺が「は?」と言葉を零してしまう。
「あーいやいや、無罪放免で引き取ってくれともアイツを殺して今回の騒動を収めようってわけでもねーんだ。単純にアイツはどっち付かずで中途半端に命を賭けてる」
「敵さんの内情など知って意味ありますか?」
「ケアル、今は戯言はいい。連邦の素性ほど謎はない、それで負けたらバカみたいじゃないか」
腕組んでカッコよくアラヴィルの前に立ったのに肩掴まれて後ろに飛ばされるケアルさん。なんだろうこのカッコいいんだけど全てがご破算になる感じ。
「連邦ってのはそこまで縦社会じゃねーんだよ、だが横社会ってわけでもねー」
「…そんなやり方、貴族がトップに立てなきゃやれねーな」
「その通りだ、さすがは1種族の長。連邦に参加している国家はもれなく王政を破棄、又は民衆を弾圧している」
「だからと言ってエルフの嬢ちゃんを助ける通りにはならんだろ」
次に参戦したのはスラヴァ。ほら「なんで俺だけ!!!」って言って地面叩かないで見てみろよケアルさん、スラヴァはアラヴィルの隣に立っているだろ?そこだよ、そう言う気遣いがなかった。
…アラヴィルの心情なんざまだ2日目でわかってないけどな。
「さっきも言ったが今は貴族優遇社会なんだ、もちろん連邦の幹部はその叛逆で一番の功を得た者がなれるんだよ」
「……」「……」
いつの間にかこちらの二人は黙って聞いt…だからなんでまだ地面叩いてんのケアルさん!!
「お宅らではどんな内情か知らないが悪い要素は無さそうだね、みんな明るくて陽気な里だ。ほんとは攻撃なんざしたくないさ、ホントだぜ?」
周囲をキョロキョロしまだ少しだけある生活感がある見てそう述べる。
「だがエルフに関しちゃ無理をしている。なんせ最重要事項の一つ『魔素干渉能力』が低ければ殺し、高ければ親と離し貴族の軍部の一員にしちまう。そうだな、ウチはあんたらとエルフの間くらいかね」
笑いながら話しかけてくるウルフ、そこには邪険など無いような顔でこちらが信じたくなるような人格者。
敵として一番やりづらいタイプの人格者。
「まぁここまで言っちまったんだ、こんぐらい言ったってバレねーし感づいたと思うが…あの貴族の末っ子、干渉能力ほぼゼロなんだ」
想像は簡単だった、連邦全体としてはそこまでの無理はしていないもののエルフは独断で過度な政策をしていて、なおかつ自分の身内にそれがいる。
称するなら歪な国家だ。
「どうやらエルフ国内でもリークされ始めて結果を出せなきゃ殺されるようだ。ここまで愛を注いでいたのに急な方針転換、いや自国の統制が取れない方を危機と捉えたかな」
そう締めくくり頭をポリポリ掻きながら質問を問う。
「どうだ?あの女受け取る気になったか?」
「なる訳ねーだろ、そんなことより武しか能がないウルフの中でもこれだけ知識があるやつがいるんだ。ウルフの内情を教えてくれよ」
アラヴィルはその申しを即切り捨て逆にさらなる情報を寄越せという…悪い顔?めっちゃしてるよ??
「…人情がないねーお宅ら、交渉も決裂したし仕方ねー…開戦するか」
そう言うと雄叫びをあげ、周囲に2人のウルフの仲間が現れる。
「ちょうど3対3だ、これでいいだろ?」
突如走り出す三体のウルフ、それを迎え撃つようにアラヴィル、スラヴァが出陣。
問題は…ケアルが出るかどうかだけど……
後ろ見るとすでにその姿はない、代わりにめり込んだ地面がそこにはあった。
「評価をカサッさらってやる!!」
そう言ってウルフの残り一人と戦闘を始める。
「…役立たずじゃね?俺」
いやわかってたけどさ…なんかこう自分だけ置いてかれるとさ……思うところあるじゃん………ね?
『そうだよねー、参戦できないの辛いよねー。だから僕と話し合いをしようよ』
そう周囲から反響するように聞こえた。
ーーー
「雷鳴轟かせ、其は大地へ降り注げ!!」
詠唱のような、いやどちらかと言えばただの文を読んだだけとも取れるそんな稚拙な言葉。
詠んだのはエルフ、目の前にいる竜人へ躍起になりボロをこぼす…がその力は本物ようでミツキに雷が降る。
「…だからその杖を奪ったのですか、自分の欠陥を補うために。その致命的な欠陥を」
ミツキに向かっていた雷は何故か避けるように大地へ落ちてしまう。
「えぇ、類感による魔法ほど他者に逸らされる。そんなのわかってる。だからこそのこの杖よ?この杖ならこんな文章でさえ上書きされない!!」
「…だから三流なんですよ」
その言葉は2人の間に吹く風に流されたように思えた。だがエルフは口元から血を出すほど悔しがっている。いやよもや憎悪と言えるものだろう。
「消し飛べ!」
大地が揺れ、近くの地面は渦巻く。まるで蛇の塒のような動きをする何かはこちらへ飛んでくる。四方八方を囲まれた、ただそれに驚きもせずに壁に成り果てた何かを見て「お疲れ様」と声をかける。
その刹那、土の中に混ぜられた起爆剤のようなものが炸裂する。壁もミツキも大地も消し飛ぶ。
「…ふふ、調子乗ってるからよ」
そんなセリフを放ち次のターゲットを探す。しかしそれが決定打になった。
「まず一発目」
後ろから肩を掴まれ振り返りざまにぶん殴られたエルフはわからない。どうやって助かったのか、そもそも無傷なはずがない。倒れるその動作中に敵を見るエルフは驚愕する。そこには五体満足で服装は何処も変わりなく、髪さえも会った時と変わらない。
「今のは私の杖を奪った罪、あなたにはあと3つ罪があるわ。それを償わせてくれれば私は見逃してもいい」
「…なんのことを指してるかわからないけど私が改心するとでも?それこそ無意味よ!私には…
もう死ぬか殺すしかないもの!!」
「可哀想な人、けど絶対に殺さないわ。殺さない程度でボコボコにする」
するとミツキは人差し指を4回、別々の方向に向け認識する。
「北を天使長ミカエルとし、東を外典神炎ウリエルとし、西を監護神癒ラファエルとし、南を聖告神人ガブリエルとする。そしてそれぞれに対応する四元素を定着、その前提条件にアリストテレスの錬金術を使用する」
ミツキを囲むように四方に現れたのは風、火、地、水の四元素。具現化されたそれぞれのそれは宙を浮く。
「第1資料までは届かないけど…これとこれで十分よ」
するとミツキは右手を天に向ける…そこから飛来するは先程の雷とは威力が違う。それは黒雷、古事記に出てくる神の一柱そのものを降らす。
エルフの耳の近くに落ちた黒雷は側撃せず触れた大地を焦がす。エルフは涙目になりながらも目の前にいる女性から目を逸らさない。
ーーー
…これは、神降ろしは錬金術とは全く関係ない、いやあると言えばあるがこれは特殊変異としか言えない。
そもそもミツキは魔法の中でも上級者が使う錬金術ベースを自由自在に扱える、いわゆる天賦の才。究極の第1資料までは行けずともその手前であるホムンクルスさえ生成ができる。
だが本当に恐ろしいのはそこではない、アサヒが言ったが彼女はさらに先へ進んだ。それは違う術式を用いて。
もしかしたら順番が違ったのかもしれない、陰陽道と神道の先にあった『惟神の道』
これはテウルギアと呼ばれる代物、これ以上はない。
そんな極限を知ったからこそ『マゴス』である錬金術を扱えるのだろうか…
蛇足は置いといて、結論はミツキは好奇心という感情一つで神と対等であり神と協力的な存在へとなった。それは現代社会で言う『巫女』の様な者。
ーーー
「どっちがいい?神様に殺された方が威厳があるけど彼らは手加減を知らないから身体が残ったら良い方、身体が残る方で楽になりたいなら錬金術で行くけど?」
どちらにしたって加減が出来るとは思えない、当たれば死以外訪れない。恐怖で思考力が上がってるのがわかる…あぁ、私死にたくなかったんだ…
「本当の気持ちに辿り着いたならあとは行動だけなのに…不器用にもほどがあるんじゃない?」
ミツキはエルフの頭をポンと叩くと杖を奪い立ち去ってく。
死さえ覚悟して挑んだこの作戦、しかし覚悟は甘く結果は死を恐れ生を望んだ。ここまでの侮辱をされておいて何故まだ生きている…いっそのこと殺してくれた方がマシ。あの地獄に戻って暴力の日々を過ごすぐらいならいっそここで!!
「あのさ…死とか生とか覚悟とかが無いと動けないの?あなたはご飯を食べる時、洋服を着る時、寝る時…笑う時、会話する時…如何なる時でもそのくだらない覚悟を抱いて生活しているの?」
「は、はぁ!?あなたにわかる訳がない!!あの絶望しかなくただの一着しか渡されなかったこの服でここまで…この重要な任務を任されるほど頑張ったことなんて理解できない!!!」
後ろ姿のミツキに殴られ腫れているその顔を抑えながら反論する。だがミツキは顔色を変えない。
「わかるわけがないでしょ?あなたじゃないんだから。理解できるわけないでしょ?同じ立場じゃないんだから。けどね?あなたの過去を見ることぐらいできるわよ?」
反論していた口が塞がれる。あの壮絶な過去を見られた、たったそれだけの真実を言う女性に口を思考を止められる。
「確かにこのお兄さん酷い人だね、アサヒとは正反対だし何より愛がないね」
自分の過去を振り返る様に他者の過去を語られる。それは自分を形成する負の要素であってもあってはならないことだ。このまま続けばアイデンティティの崩壊が始まる。
それに気づいたエルフはミツキと呼ばれる女性の口を抑えようと立ち上がろうとする。こっちことに気づかないで顔を空に向けているんだ、気づかないさ…
そうやって駆け寄ったエルフは口のみならず手を足を止めてしまう。
杖を奪った犯人のことを知った時のあの顔。あの顔よりも怒っているのがわかったからだ。
ただの意地悪ではなかった、ただの精神攻撃ではなかった。ただただ私の不遇を見て憤怒しているだけなんだ。
初めてそんな人を見た。
「…ほら、早くやりなさいよ。三発の償い」
声をかけられ、ハッと素に戻るミツキに敵意なんてもうない。ここが私の人生の終点なら良い景色を見せてくれた。そう思えて死ねる。
そうやって目をつぶった矢先に彼女は言う。
「あーそれならもうやったわよ?初回の雷とグーパン、二回目の雷に最後のグーパン」
「は?」
「あとレディがそんな言葉使いしちゃダメだと思うよ?さーて、私もやりたいこと見つけたしお父さんに進言してこよーっと」
笑顔で済ますミツキ、そんな彼女を見て信頼したミーヤ。だがミーヤは気づいていない、先程から杖を握りしめ過ぎて血を流し振り返った直後に対象を決め殺意を決意した彼女に。
魔法関係は今後も絡んでくるので少し隅っこに置いてもらえたら幸いです。