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異世界転移 〜神様からの招待状〜  作者: 菜月 水仙
序章 従者達の鎮魂歌
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第4話「商業地区での諍い」

第4話「商業地区での諍い」


「ところでこんなところに泊まって本当にいいんですか?俺なんてそこら辺の雑草がある野原でも寝れますよ?」


「なに言ってんですか!?我が祖先を放るなんてできませんよ」


…とさっきからこんな感じで俺の意見を聞かない。ある意味アラヴィルは里長にぴったりな人格者なのかも。トップがブレブレで決めたことに確信を持たずいつまでもウジウジと悩めば周囲にその心配が伝染する。不穏な雰囲気が里を包み込み、いつの間にか里内での亀裂が生じその溝はどんどんデカくなっていく。


そうなれば最後、自分以外の者が死んでしまう。


「…当の本人はそこまで考えてるようには見えないんだけどな……」


?と疑問を表情で表しながらこちらを見るそのおっさんはある種愛嬌さえある。うるさくなければ。


「ところでこんな怪しい奴を里の中で一番偉い里長の家に招待なんかしていいのか?」


「アサヒとミツキからなんと言われたかは知りませんが、あくまでそれは当人の意思に従ってのことです。この里では大まかな掟などもなく伸び伸びと自分のしたいことを行えることが大前提…なのにあのバカどもは…」


詳しい話を聞いたが昔この付近に強大な竜人の王国があったそうだ。人間と龍種の間に生まれた竜人という部族はとても強かった。

さらに言えば人間は弱者としての知恵を所持し、また龍種は強者としての智慧を持っていた。その両方を得た唯一の生物とも言える。


話が脱線したがそんな竜人でも滅んでしまったという事実。祖先の龍種が8属性だったことから王国の周囲には8つの里が形成され、その1つがドラゴの祖先が治める里だった。


失われた王国の名前は『アラヴィル』


ドラゴの祖先はその王国の中でも狂戦士で野蛮な部族と呼ばれた『炎龍の末裔』であり滅んだ際に抗えたのはこの炎龍の末裔のみだった。

戦争にすらならなかったと記録されているその惨殺劇の幕が降りるとこの土地に王国を復権させるという目標を掲げ生き延びた他部族を治めた。



「というのが里長に成りえる者に継承される伝説であり悲願なのです」


「…要所を掻い摘んで言えばおっさんは祖先の悲願を何処の馬の骨かもわからない奴に熱く語ったということか」


そんな昔話を、一族の悲願とされる物事をこんな奴に教えていいのか?それこそ最重要事項で他種属に悟られでもしたら監視されてしまう。最悪の場合、種族間での戦争になることもありえる。


ネガティブシンキングな俺が項垂れているのを横目に見ながら確かにおっさんは呟いた。

「やはり……」

そこにどんな意味があるのかわからない、ただあの熱苦しいおっさんが辛気臭い顔をしているんだ。何か事情があるんだろう。


「まぁ、王国の存在とこの里の存在意義と種族の悲願も知った。けどどれもこれも過去を今に繋げる話だ。過去を未来に繋げる、いわゆる悲願を叶えるためには今を未来に繋げるっていうプロセスが必要になる…だからこそ評議院の話を聞かせてくれ」


「…えぇ、そうですね。願いをどれだけ口で紡ごうとも今の問題で全て台無しになってしまっては意味がない。ではお話を……」


チラッと天を眺めるアラヴィルは何かに気づいたように自分の家を指差す。


「と言いたいところですが、それこそ商業地区で話した方がいいでしょう。夜も深くなってきましたしとりあえず寝てください。扉を開けて階段を登った先に部屋はあります、どの部屋でもいいのでどうぞごゆっくり」


そう言い終えるとアラヴィルは足を早め来た道を戻る。少々早い展開で声をかけようか追いかけようか考えているうちに彼はどっかに行ってしまった。


「…まぁそう言うならお言葉に甘えて」


そう呟き家へと向かう。


ーーー


いや確かに遠くでしか見れなかったからよくわからなかったけどさ…それにしても豪華だな…

木造建築で屋根は瓦、日本の昔ながらの雰囲気ある住居なのは外見でわかる。問題は中身だ。

柱や床にはニスが塗られ光沢があり、家具は木であるはずなのに綺麗な湾曲を描きゴミや塵の類が一切落ちてないところを見れば一流の者がこの家に多く携わってることがわかる。


「ここ来るまでにも多くの家があったけど内観が全部こんぐらいならすごいな。いわゆる高所得者地域ってなるのか」


里全体を今日軽く見せてもらったがどうやら西洋的な煉瓦、タイルなどの物は無くあくまで自然と共にあるというのをコンセプトにしたと言いたい。そんな里のようだ。


「…西洋文化が入る前までの日本と同じような土地環境だったんだろうな」


日本という国が違う国々の人々を魅了させる要因の1つとしてその位置が挙げられる。春夏秋冬という4つの気候が一巡する環境など殆ど無い。さらに周囲を海に囲まれたという特殊過ぎる環境もその1つ。山は多いが平地は少ない、しかし山があることで水は清くそれを農業に運用することもできた。デメリットもあるのにそれさえもメリットに変えるそんな国民性。


「はぁ、なんか日本のご飯食べたくなったな…」


そんなことを呟き肩を落としながら階段を登る、手摺もあり財産というものを使い切ってるこの家…というか他の建物に二階建ての物なんてなかったと思う。


「ということは客室があるからここに?」


ならおかしくない。外からの来客者を招くためだけに新しい建物、来訪館なんてものを作っていたらきりがないし喧嘩も起きるかもしれない。なら里長が面倒ごとを受けようとでもなったのk…

いやどうやら違うらしい、なんせ階段を登った先にあった部屋の扉の上に「アサヒ」と板に掘られた文字があった。向かい側には「ミツキ」とありその奥に向かい合うように2室ある。


「『アラヴィル』と『ミレリア』…か」


多分夫婦の部屋を分けているんだろう、それにしてもアラヴィルの会話にも里に住んでいる者たちから『ミレリア』なんて名前を一度も聞いてないぞ?…


些細な疑問を抱えながらさらに奥に進めば扉があった。そこには板があり『 』と書かれている。本当に空白というわけではなく上から木屑を振りかけ圧力を掛け元の板に戻したような形跡があった。即ち4人の他にまだ誰かいたということになる。


「そんな部屋を使えってあのおっさんマジでヤバイな」


何度目かの独り言を元どおりの板にぶつけてその部屋に入る。玄関から変わらない高そうな物達でいっぱいだ。変に触って壊して怒られるのも嫌だしさっさと寝るか…

そう考えて扉を閉める。ベットに横たわったらすぐに睡魔がやってきた。


ベットの上で眠っているとふと目が覚めた。

外で吹く風が木々を揺らし、ざわざわと語りかけてくる。それはまるで何か質問を投げかけてくるような、親しい友の声に聞こえる。


実際に起きていると言うわけでもないので体は動けず目は開けられない。見えない景色を聞こえる音で想像しまたベットの上で微睡む。

そんな最中、ギィッとドアを開ける音がする。

誰が入ってきたのか気になり、そちらに寝返りを打ち目を開けようとするが何故か出来ない。この体は寝返りもできない。


木の板で出来ていた床が軋む、確実にこちらに近づいてくる。何をされるのか身構えるも誰かはただベットの近くまで近づいてくると耳元で「お帰り」と言う。それは小声過ぎて性別を知るには無理なものだった。


謎の囁き声が聞こえたことを認識した時にはすでにベットの上で上半身を起こした状態だった。


ーーー


「…まぁ、急なエロ本展開なんて起きないだろうと思ってたけど…それでも欲求不満にもほどがあるだろ……」


真横にある高価な机の上にある着替えを眺めれば誰かが部屋に入ったのは確実だしそれを元に夢の中で妄想するとは…我ながら恥ずい。


超絶今更だが俺の服装はいわゆる普段着と寝間着の間に当たる万能ジャージ様。その胸に書かれている「古馬高校」高校時代の出来事を思い返すもいい出来事もわるい出来事もなく、ただ何事もなく忌み嫌われて遠ざけられて空気になって蒸発s…うん、何もなかったな。



地面に伏せ薄汚れたりあの子の匂いが染みたこのジャージを脱ぎ置かれていた服を着る。

この里には合成繊維なんて作成する科学力はないものの着物に近いものは作ることができると言うことがわかった。


「…やっぱり日本がこの里の歴史に関わってる。竜人の発言からしてあの化け物と昔の人間は交わったようだが、その子孫が俺と推測して動いてるってことか」


明らかにおかしいところがあるけどとりあえず保留。このまま閉じ篭っていいならそうするがあの気さくで騒がしいおっさんのことだ部屋の扉ぶっ壊してでも入ってくるだろう。


「…まぁそこら辺ぶらついてたら捕まるだろ」


そういって扉を開けた先には…


「おはようございます!我が祖先!!」


ほんと熱苦しいなこのおっさん。




目覚めて行動しようとしたらこのおっさんですよ、すごいよね。保護っていうよりも監視だよこれじゃ。


「さぁさぁ、こちらが今日の朝食です」


…連日泊めることは前提だったか。

それにしても朝っぱらから色々出しすぎだろ…7品はあるぞこれ。


「それにしてもぐっすりでしたね、連夜だったせいかもしれませんなそれでもあそこまで寝る同族はいませんよ」


「ちょっと待て、連夜ってのはなんだ?」


「連夜とはなんだと言われましても連夜は連夜としk」


説明が難しいのかそうとしか知らないのか言い淀むアラヴィルを他所に階段から降りてきた人物が話し始めた。


「連夜とは衛星がこの星と恒星との間に入り夜が連続することです。夜が始まったのが僕とミツキとの遭遇時で里長に里を紹介されてた時に連夜が始まりました。今はちょうど昼ですね」


そうそうこう言う具体的な回答を…


「ってアサヒかよ…いつ帰ってきたんだ?」


「えぇっと、連夜が終わって少し夜が明けるくらいでした」


「そうなのか」


適当な返事を言い手元に持っていた木で出来たカップの中にある水を飲みながらとある事を考えていると気づく、目の前に座ったアサヒに傷という傷がないということに


「あの化け物、もとい龍種やらを本当に撃退したのか?」


「あー怪我はしましたよ?けど重体になることはありませんでした。理解ある龍、いえ祖先様でした」


いやあんなのと戦闘してよく軽傷で済むよ、マジでアサヒさんと言ったほうがいいのでは?


そんな脳内考察をしている俺を横にアラヴィルがアサヒにご飯を出しながら質問をする…いやおっさん女子力たけーな。


「8種のうち誰だった」


「風龍様でした」


「ならお戯れで終わってるのも当然か」


うわー脳内考察に続いてツッコミまでしてたらいつのまにか追いつけないほど話が進んでやがる。


「すまん、8種ってのは龍の種族ということか?」


龍種の事を聞くなら今しかないと思い質問を2人に向けると2人は食べながら応答してくれた。


「えぇ、アサヒの祖先は私と同じ炎龍様。ミツキは風龍様。他にも水龍様、土龍様、日龍様、月龍様、光龍様、闇龍様の8種です」


「風龍様は自分の心持ちの為に吹っかけてきたと言ってましたが実のところ僕の実力を知りに来たのでしょう」


「…遊びでも死活問題だろ」


「ですが我らはこの場で里を築き監視しなくてはならないのです」


それはなんで?と聞きたかった。聞きたかったが…


「あー気持ち悪い顔で私を見てきた純族様じゃんないですかー」


椅子の後ろから首を絞められそれどころではなくなった。




「ごめんなさーい」


「土下座しなさい!ほら!!」


…いやこっちが悪いから別にいいんだけどさ……なんであんたの土下座綺麗なの?やり慣れてるとか色々考えちゃうじゃん!?


「まぁ、いいよ。そんなことより聞きたいことg」


ピーンポーンと家のベルが鳴り入ってきたのはアラヴィルの部下の者なのかアラヴィルを読んでいる。どうやら商業区で何かあったらしい。



ちょっと待って、質問は?


ーーー


商業地区の入り口に着いたアラヴィルは恨めしそうに呟く。


「そういや評議院の馬鹿野郎どもの偵察日だっけか…」


そこには熱苦しいおっさんも女子力高いおっさんもいない、殺気を高めいつでも戦闘態勢に入れる強者のおっさんだ。

あ、おっさん評価はやめないよ?


5人は横に並ぶ商店や売店に目を向けず階段を駆け上がる。そして到着したのは商業地区の総括、『商管連』の館だった。館の中からは権利とか金とか好きそうなゲスのような笑い声が聞こえる。


「だから言ってんだろう、我々と手を組んだろうがいいと。もう馬鹿ヴィルの下に付く意味はない!我ら評議院がこの里を治めよう!!」


入り口、入ってすぐの玄関で大きな声で語る高級そうな服装をした5人がいた。商管連とやらのトップとされる人が対応しているがその顔は苦渋を舐めるようだった。


…黒髪でイケメンとは言わないがブスでもない、顔のパーツはいいけどなんというか残念な人っぽいな、けど身長は俺よりもデカイし…って俺の身長わからないか……170後半と考えてくれ。それよりもデカイってことはなかなか強い人のはずだ。ほら運動力とは速さと高さって言うじゃん?基本的にデカイ人って強いのもそこらへんから来てると思うんだ。

…なんで武官じゃなくて文官やってんだろこの人……


「評議院が私の管轄および私の部下に何か?」


「…ご本人登場か。まぁそこのところ考えといてくれ、我らはここ商業地区を治めれば勝ちなのだから」


そう囁く評議院の1人は歩を転換させこちらに歩いてくる、そう表情は余裕そのものですでに勝ちを予感している。


「これはどうもどうも里長、今日は偵察日ですのでここにいてもおかしくないでしょう?」


「偵察の意味を知っているのか?貴様がやっているのは共謀だ」


そんなアラヴィルの言葉を嘲笑う、安全が保証され自分がアラヴィルよりも上の存在と信じるそれは…


「なんとでも言ってくださいよ、貴方は私たちに追いつけない。あの方がいr」


嗤いながら話しかけてくるそいつは、いや長い黒髪で顔は整ってまぁまぁイケメンと認めざるおえない三角形のバッチが付いた高級そうな黒のマントを靡かせるそんな敵は同じ評議院の1人に止められる。


「おい、ファルス…行くぞ」


ほーん、ファルスって言うのか。


「その名で呼ぶな、殺すぞ?」


しかも名前を忌み嫌ってると、ほーん。


「呼ばなきゃボロを出すだろ馬鹿」


「言わせておけば…まぁいい。ではそう言うことだ。さらばだ、負け犬」


横を通り過ぎる際にも煽ってくるファルスを殴りそうになったが、アサヒが肘を突き刺してきて止まる。


「??」


ふとこちらを見てくるファルスに気付かれずその場は終わった。




「なんであいつを殴っちゃいけなかったんだ?」


「それは泳がしてるからですよ、さっきもボロを出しそうになったでしょ?あいつぐらいしかボロを出してくれそうにないのです」


「それまで野放しか?」


「祖先様、何か勘違いしてません?私達もあいつを殺したいんですよ?」


そう話しかけてくるミツキは笑顔だ、笑顔だがその拳は音を立てている。

アサヒに関しては身体から湯気を出している、汗を蒸発させているだけではあそこまでの湯気は出ない。ならその湯気は…


「やめろアサヒ、死が近づくぞ」


「はい、父さん。奴の証拠が出たらのお楽しみにしておきます」


そう言うと湯気は無くなり深呼吸していつも通りに戻る。そんなアサヒを確認して商関連のトップとされる人物と話し始めるアラヴィル。


「何があったクアル」


「途轍もない面倒ごとを始めそうですよ、あいつ…」


クアルが共謀を持ちかけられた、その内容をアラヴィルに話し始める。

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