第15話「きな臭い教会」
第15話「きな臭い教会」
アサヒが帰ったことで俺の部屋はとても広くなり逆にそわそわして寝ずらかったりしたがそれでも寝坊せず起きれた。
ただ五分で食べ終えろってのは無理難題じゃないですかねミツキさん…
ーーー
「よーし、ここから聖リエッタ教会に行くよ!」
「ちょ、ちょいと休憩を…」
「はいしゅっぱーつ!」
吐くぞ?昔に『綿色の都』って呼ばれてたここで吐くぞ?
「地面に屈しているツカサくんに昨日の続きを話そうかな」
そうしてくれ、今は動けん…と言うか食事の時に話してくれ…
「まずはこの世界に存在する宗教を教えるね?この世界には宗教と呼べる集団組織が5つあるんだけどその中でも別方向に突出したのがこの『グレッタ教』」
「そ、その5つは具体的に何を崇拝対象にして盛んになったんだ?」
「まずオーソドックスな自然崇拝の『ネゴ教』それと人工物を崇拝する『オドー教』これら2つと『グレッタ教』を合わせて三大宗教と認知されていて、他2つは血統、合理などで作られています」
「自然崇拝は確実に生まれるだろうし、人工物も謎に包まれているからこそ崇拝対象になるだろうけど…なら『グレッタ教』ってのは?」
「秘術…いえ禁術とされている類を崇拝するエルフ発祥のものです」
「は?…ってことは『グレッタ教』の教団参加者とか教祖って」
「えぇ、エルフが大半を占めます。あのヒューズも幹部の1人とされていますしそもそものエルフの女王が教祖の可能性すらあります」
「そんな宗教の末端がここに?」
「末端?とんでもない。ツカサくん、後もう少しで着くけどその認識は変えたほうがいいよ。なんせ聖リエッタ教会はエルフが王国として建国する際に資金協力してその記念に作られた教会…あのずる賢いエルフ達が何も考えずに立ち上げるなんてことはしないだろうからほんとにこの国のどこかに禁術があると気張ったほうがいいですよ」
またも俺はこの国の歴史の根本にある不安定な基礎を知る。革命の件も寝る前に考えてみたが何かおかしい気がする。死刑と流刑を合わせても元いた数と合わないなら…ましてや少数ならば女性の方の名家を逃した可能性がある。
何より革命前と後ではどうも得した人が一致したとは思えない。
それに加えてエルフの宗教が絡んでくるってことは…
そうやって考えていると歩道の奥に白色の綺麗な教会が待っていた。
ーーー
街中にある建物は隙間なく建てられ、色とりどりの装飾でこちらを圧倒してきたがこの教会は違う。まるでここから先は絶対領域、カラフルでそれぞれの個性を発揮する家々とは違く一色のみで逆に圧力を出す。それに加えて広い庭が教会を囲み守っている。その庭は四方にコンセプトがあるように花を植えられておりそれは一種の芸術のようだった。
「さてツカサくん着いたよ。ここが聖リエッタ教会、この地域では最古にして最後の『グレッタ教』の教会だよ」
「へ?最後はまだわかるが最古ってのは?」
「そんなの聞けばわかるよ、んじゃドア開けるね」
「は、早くない!?一呼吸置かせてよ!!もしかしたら極悪非道な人が出てくr」
軽くテンパり言葉を捲し上げる俺を見て笑いながらドアを開けるミツキ。その先にはこれまた広い空間が広がっていた。
「椅子がきちんと置いてある辺りちゃんと懺悔出来るようになってんのか」
左右をキョロキョロしながら前へ歩いて行く俺とミツキ。見た限り誰も居ないようなこの空間に変化が訪れる。
「いえ、その椅子は懺悔のためではありません」
反論する声が聞こえる。だがその発生地点は反響のせいでわからない。
「その椅子は渇望する願いを捧げるためにあります」
ふと上を見上げるとどうやらこの椅子だらけの空間は吹き抜けのようになっており、2階から見下ろせる位置にあることがわかった。そして。
「わざわざ声を出さずともその方々の感情は見るだけでわかります。あなたはそうですね…最近憎悪と呼べる感情を抱いたことはありませんか?」
「…うーん。こんな欲望が渦巻くような場所に寒気はしたが憎悪は無いね」
「いえあなたではなく、女性の竜人さんよ?」
…ミツキが変装しているのを看破した?それって魔術の基本を熟知している奴にしかできないんじゃなかったか?と言うことはこの喋ってる奴の正体はエルフ??
「よくわかりましたね、教会内での偽りは謝罪しますがこれを解くのは国を出てからと皇帝様と話し合ったのでご理解お願いします。教皇様」
いやちょっと待てミツキ、教皇って言ったら…
「あらあら、そんな大層な方まであなた方をご容赦したのですね。なら私も対等の立場で会話しましょうか」
教皇って言ったら宗教の教祖なんじゃ無いのか!?
そう頭の中でプチパニックになりながら話は進む。
「先程は失礼を、何時もは2階にあるオルガンを弾く時間でしたのであのような対面になってしまいました」
「いや…それはいいんだがな?」
「あーツカサくん、また勘違いしてるよ?この方は教皇様。聖リエッタ教会の名前にもなったジュリエット様だよ」
「そうそう教皇って教s…ちょっと待てジュリエットって言ったか?」
耳が拾ったその単語をもう一度疑問で返す。いやありえない、あり得るはずがない。だってその名前は。
「えぇ、私はジュリエット。この地域にある教会の教皇として勤めています…とはいえこの教会が最後なのですけど…」
「そ、教皇だけど教祖ってわけでもない。教皇っていう単語はどちらかと言えば管理者みたいな立ち位置かな」
2人の言葉が入ってこない…目の前にいるこの白衣の女性はあの名劇の主役の1人?…なら、なら!!
「ジュリエットさん!これから少し無礼なことを言いますがお許ししてくれますか?」
「その顔は驚愕と焦燥…ですか。何か思い出したようですね。いいでしょう、申してください。それに助言をあげれるかもしれない」
「では…ロミオという男性はこの国に居ましたか?」
何やら隣でミツキがやっちゃったみたいなポーズ取ってるけど知ったことか。そんな手探り合いよりもど直球に聞いた方がいい。
「ロミオ…ロミオですか…不思議ですね、聞いたことがないのに何故か心が苦しくなる」
聞いたことがない?それこそおかしい。ジュリエットって言ったらロミオとジュリエット以外ないだろ。
「そのロミオという方は知りませんが…昔似たような名前の知人がいます」
既に思考が止まらない俺を前にジュリエットは教会にデカデカと作られたステンドガラスを眺めつぶやき始める。
「えぇ、あの方はロメオと言います。あの方ほど危険で無知で客観的な方は私は知りません」
…ロメオ?ロメオと言ったか??それって……そもそもロミオって英語読み、そしてこれの舞台はイタリア…読みの違いがあってもおかしくはない!!
「そのロメオと言う方はどんな人だっt」
「ツカサくん!もうやめなよ!!」
今もなお俺の心の中で燃える何故この世界に『ロミオとジュリエット』が絡んでいるのか、それを知りたいという好奇心の火へミツキは水をかける。
「その話はここではダメ、この教会で話す内容じゃない」
「お優しいのね、あなたは」
怒りというよりも哀愁。その瞳には涙を浮かべながら俺を制止するミツキを眺めジュリエットは少し微笑みそう言った。
「貴方が止めるなら話すのをやめるけどそれでいいかな?ツカサクンとやら」
いやあの止め方はこれ以上話すのはまずいだろ…まだミツキに嫌われたくないし…
「…わかった、その話は置いとく。あと俺はツカサだ、ツカサにクンを付けるな」
「それはごめんなさい」
この後、教会の作られた経緯や皇帝との関係性、そしてこの宗教の教えを知り一度宿へ戻った。
だが一度ついた好奇心の火はちょっとやそっと水では消えなかった。
初めて自分のいた世界の…「劇」ではあるが絡んできた。早く知りたい、知れば何か変わるかもと幻想を抱きながらその日は寝た。
ーーー
「だから一緒に同盟国で軍を作り連邦を対処するのが俺たちの総意で」
「しかしそれは竜人とあなたの意見でしょう?仲間が少なすぎる。たしかに同盟を結んでいる諸国と軍を立ち上げれば連邦と対応できましょう…しかし全員が全員あなたと同じ意思とは限りません」
鋭い目つきでこちらを牽制してくるその男は先日逃げ出したからと言って椅子に縛られ少しかっこ悪い姿を晒した人物と同一とは思えない。
「それはどういう意味だ」
「簡単ですよ、主力をぶつけなければ連邦と戦争はできない。だからこそ諸国全てが戦力を出しますがもし一国でも出さなかったら?その責任、あなたに取れるのですか?」
この会談が始まる少し前…と言っても今日の朝、教会の謎がちらつき集中できなくボーッと飯を食べていたが急遽、会談ができるとビビアナに呼ばれ昼頃から話し合っているがどうもこうも話が見えない。確かにこっちが無理難題を押し付けているが優先順位としてはおかしくない。
こちらは危険となり得る連邦を叩く対外政策。
あちらはまず地盤を固め強固にする国内政策。
どちらも正しいが前者の対外政策は一定基準の戦力、国民の意思の一致、動機など様々な事が前提条件になる。我に帰ればすぐわかる事だ。
「つまりは裏切られる可能性を視野に入れているのですね?」
「それはそうでしょう。あなたのような独り身や強い兵力を要する竜人の里はいいでしょうが私たちの帝国にそれほどの兵力はない。一度派遣させれば守りは薄く攻められることになれば崩壊するでしょう…ましてや連邦との戦争、長期化し亡骸で帰ってくる可能性があるのにも派兵する者は居ないでしょう…」
一呼吸置き一連の台詞に空白を作り、皇帝は国民のことを思い本音を言う。
「国民の命と引き換えに戦争などできない!!」
前日の教皇の件もあり、あまり話せなかったがそれが幸いしたそうだ。ミツキによれば帝国は戦争をしたくない、ましてや竜人と共に戦うのが嫌なようだ。
しかしそんな俺らを追いかけてきた兵士に渡された紙にはこう書かれていた。
「私としては良いのだが民意がそれを異と答える。この世論が覆らない限り兵士は動けないし動かないだろう。また後日、会談出来るように助力する」
…どうせ覆らない。そもそも深く考えていなかったが彼らには動機がない。こっちの復讐に巻き込もうとする方がおかしい。
そりゃそうさ、どの王様だって自分の権利よりも国が、国民が無くなる方が怖い。もう少し教皇あたりを探ってダメ元だけど他の同盟国を回ろう…
そんな気持ちで読んでいたらもう一枚あったらしく落ちてしまった。そこには…
「話が変わるのでこちらに書くがそれまでの間、『ロレンス修道僧』に会ってみてはどうだろうか」
ジュリエットと言う名前を聞きロメオという存在も知ったから教皇周辺の情報が欲しいと思っていた矢先にこの情報だ。
そこにはまたも『ロミオとジュリエット』の登場人物の名前があった。