83話 此処は何処……
煙が見えたので、慎重に街道を進む俺たち。
獣族の2人は、漂ってくる匂いに、
「肉、魚を焼いているのか?」
ダルザニアは、体勢を低くしながら進むなかで言い、
「香ばしいですな」
ヨダレを出しながらアルテイラは舌を舐めまわすが、
俺は、この先で戦闘が繰り広げられていて、炎系の魔法での
人が燃えた匂いだと思ったので、人族を食う文化は無いが、
獣族の2人にとっては食糧なんだなと寒気を感じながら、
煙が上がっている方へと、より慎重に進んでいく。
近くまで行くと煙が複数上がっていて、俺たちは戦場を
見下ろすことが出来る森の中に入り、状況を確認する。
「うむ……食事の準備で……
ダルタニアは、野菜などを切ったりしているテーブルを
見ながら発言し、「テントも複数……戦争と言う感じはしませんな」
テントが張り並ぶ方を確認しながらアルテイラも発言し、
更に、テントの周りには、複数の簡易の窯に網を乗せて、
捌いた肉や魚を焼いている。
「旗は、3種類……俺たちが行く国、この国、もう1つは……
俺が言えないのを、地図を広げて、アルテイラは、
「リ・フレタ王国でしょう……か?」
情報では、その国も戦争に参加と聞いていたので、
「連合でか?……だが見る限り、友好的な光景だな……
ダルザニアが、ヨダレを垂れるのを手で拭きながら言うのを見て、
香ばしい匂いで俺も垂れそうなので、食いに行こうかと、
「俺が潜入して…… 鎧を外して行くかと考えていると、
「潜入する必要は無いわ……
俺たちの後ろから声が上がり、口の中のヨダレを飲み込んで、
剣のグリップを握り振り向くと、
「あなた達では、私を倒すことは出来ないわよ」
俺たちの背後から姿を現した女性は、俺と同じ召喚者で、俺と共に来た
同級生クラスの美人で、ヨダレを垂らすほどの女性とまでは
行かないが、
「君は! 人族側の勇者か?」
長袖のワンピースに、パンツ、皮製の靴を履き、剣は所有していないので、
ダルザニアは素早く動き、「おい! まさか……
俺が言うのを遮るように、
「人質を取れば、情報が得られますからな」
アルテイラの言うことも分かるが、俺と同じ日本人で、俺ほどの
男なら、彼女も直ぐ俺に靡くはずだと思うのに、ダルタニアは
剣を抜き、彼女が逃げられないように、彼女の首に剣先を当てるように動くが、
いつの間にか木にぶつけられ気絶したダルザニアが倒れていて、
アルテイラもいつの間にか倒れていて、俺の前に立つ彼女は、
俺は見下して見ていて、
「魔道具か?…… 睨みながら彼女を見て言うと、
「違うわ……素手よ!」ニッコリと言う彼女に、
「嘘だろ…… 驚き声を上げて、彼女を観察するように見る俺は、
体が震えだし、額に汗が浮かび流れる感触を感じながら、
「俺より……つよ、い……」
と言った後、視界が無くなった。
「ストレートのみで……
「カーブとか‥…
「キャッチャーが取れないし、高速カーブでは……
笑いながら、「取りに行く間に……
そんな声を聞きながら、俺は目を覚まし、
「目が覚めたか?」
椅子に座って、俺を見る人族側最強の勇者、
天の勇者【コウエツ】が座っていて、飲んでいるカップをテーブルに置き、
「ナオミに倒されて付けられた傷は、治してある」
光悦が言う言葉に、鎧は外された格好を確認しながら、
「ありがとう……2人は?」
「君の横で寝ているよ」
俺は横を見ながら、安らかに寝ている2人に安堵してから、
「俺は、タイザール帝国の勇者テルタ!
君は、半年前のゲームで死んで……
光悦はカップを口に添えて、少し飲んでから、
「修道院で見ていただろう?」
スタンテッド王国【インデット】でのことを思い出しながら、
「そうか……神に復活させてもらって……レベルは3だったな」
光悦を見ると、肩で笑う様に動かした後、
「そうだ……ミューブル王国で世話になっている」
その顔は落胆した顔ではなく、自信に満ち溢れている感じで、
「? 勇者として……
「勇者はしていない……ミューブル王国で働いている。
だが、魔王との最終決戦には出て、討ち取るつもりだ!」
スタンテッド王国ではなく、ミューブル王国でと言うのは、
国境兵も言っていたので、ミューブル王国の騎士指導は、
他の国よりも高いのかと考えていると、テントの外から、
俺たちを倒した彼女が覗いていて、俺たちを見ながら、
「目が覚めたわね……
光悦の方を向いて、
「呼んでいるから……
女性の左手の薬指には指輪があり、光悦と気遣いなく話をしてる姿に、
「異世界で結婚したのか? 君は!?」
その言葉に、「してないが、どうして?」
「君の彼女の指に……
彼女の方に振り向いて、
「私が? 冗談でも、言わないでね」
言った後クスッと笑って、彼女はテントから出て行ったのを
見ながら、「最強勇者だろ! 王にもなれるのに!?」
勇者なら騎士以上で、貴族連中も手の中に入れておきたいくらいで、
俺だって、人間じゃないが獣族の女性を薦められているし、
王にだってならないかと冗談だが言われているのに、
「俺は、心に決めている相手が居るし、生き返ってレベルが
下がって、今は最強でもないけどな」
笑って俺を見ているが、先程の彼女と同じ感じがするので、
「魔王には挑むんだろ?」
俺の目をじっと見てから、
「もちろん! そろそろ行くが、水などの補充が欲しければ
俺の仲間に入ってくれ!」
光悦は告げてテントから出て行き、暫くして、2人も目が覚めて、
頭に右手を付けて頭を振っているアルテイラは、
「此処は?……
俺は立ち上がり、テーブルに置かれたペットボトルを見つけて、
手で掴んで持ち上げて、ペットボトルのキャップを開けながら、
「観察していた、人族側のテントの中さ」
「テルタ……それは?」
ペットボトルを見るアルテイラに、
「これか、俺の元の世界の飲み物さ」
「透明な容器に入ったのは?」
ラベルに書いてあるのを読もうとすると、
「俺たちは、お前の世界に来たのか?」
ダルザニアが言うので、
「此処は、さっき見下ろしていた所さ」
やはり、俺が持つペットボトルに目が行くのか、
「それは……
「俺の元の世界の飲み物さ!」
2度も言わせるなと言う感じで言った後、2人にテーブルにある
ペットボトルを、2人にそれぞれ渡した後に、
ペットボトルを観察する2人は、「文字が読めませんな」
「水か?」
そのまま噛もうとするダルザニアに、
「俺のマネをしてくれ!!」
テーブルにあるペットボトルを持ち上げ、
飲んでいる最中のペットボトルをテーブルに置き、
俺はペットボトルのキャップを開けるのを見せてから、
キャップを取り、ひと口飲んだ。
2人とも俺と同じことをして飲んでから、
「井戸水とは違いますな」
「飲みやすい……が、飲みごたえがないな」
それぞれ感想を言うが、
俺はミューブル王国で、つかさが作らせたと思いながら、
2人に貼ってあるラベルを見ながら自慢するように、
「錬金術士が作ったボトルに、魔導士が殺菌処置をした……
山などの地下水さ……で、これは竜山水【鉱水】、
長野県の岩世村と言う所で、? えっ! 長野……」
戸惑いながらラベルを注意深く俺が見ていると、
アルテイラが鑑定を行ったようで、
「うむ……テルタの世界に魔法は?」
「はい! 魔法?……
ビックリしながら返事をして、ラベルを再度見ながら、
「あるなら、この世界に来て驚かないけど……」
召喚された時のことを思い浮かべながら答えたが、
「これは、回復ポーションです!
小さな傷なら、直ぐ治る物です」
アルテイラが真面目に言うが、中身がポーションって、
訳が分からないまま、
「そういうのはあるかもしれないが……
ミネラルがあるからじゃないのか?」
「違います! 本来の効能より薄めた物です!
その山を使って、回復ポーションの原液を製作している」
アルテイラは、俺の元の世界で作られた回復ポーションと
確定して言ってるが、体の健康に必要なミネラルウォーターで、
傷など治す回復ポーションではない。つかさが、この世界に来た時に
部活などで何箱か購入したまま召喚されて、アイテムボックス
(俺は持っていないし、この世界には無い)のスキルを得て、
保存していたんだろう。それにキャップのTEリングの部分は、
俺たちが飲むまで切れていないので、つかさが持ち込んだに違いない。
光悦たちが持って来ていたなら、前から見ているはずだから……
俺はアルテイラに向かって、
「俺の世界では魔法は無い。化学という経験と知識の蓄積で、
この世界の魔法のように、魔素を媒介にした現象は無い」
「そうですか……鑑定では、魔法水と書いてありますが……
アルテイラが言ったのを聞いて、
「嘘だろう! 元の世界に……」
アルテイラの鑑定は獣族の中でレベルは高く間違いがないなら、
「どっかで召喚されて戻った者が、育成した……?」
「そうかも知れません……
アルテイラはペットボトルを見ながら言うが、魔法使いなんか
マンガなどでは出てくるが、実際に見たことは無い。
超能力者と言われている者が、元召喚者で力を失わずにいるなら
在りえるかもしれないが、実際、見たことが無い。マンガなどの
空想の域を出ないから、その山自体に秘密があるのか、竜が昔いたとか、
やはり空想に過ぎないし、元の世界では在りえない。
やはり、
ミネラルが魔法水と鑑定されるのかと思っていると、ダルザニアが、
「お前の所だって、神様は居るだろう」
この世界には神が3人いて、会ってはいないが存在は認めている。
魔法も使える。元の世界の宗教では神を信仰しているが、
「信仰はしてないが……此処に来て、元の世界にもいるとは思うが
見たことが無いからな」
「戻ったら、調べてみることだな」
「あなたの世界の神が与えた物でしょうから」
2人は微笑んで言った後、俺は魔法水と関係なく、
久しぶりに日本の水を堪能しながら飲んでいると……
『只今より、今年最後の、第3回、3か国対抗野球大会を開催します。
開催にあたりまして、運営委員長の神ソラスより挨拶があります』
はぁ!? 今何と言ったかと唖然としながら、テントを出て行くと……
『半年前から開催されて、第3回を迎えました。技術は進み、選手の皆さんの
向上は素晴らしい限りです……
握手が上がり、落ち着いてから、
『前回同様、優勝国には、豪華賞品が与えられます。
前回は、私の友人でもある、
秋人さまからの提供のミネラルウォーターでしたが、
今回は、今回は、新年を迎え、各国に降臨し、
好き放題言える権利を与えます!!!」
手に持っているペットボトルを見た後、ピッチャーズマウンドで
立って挨拶をしているのが、すらりとした若い女性で、
あれが人族の神ソラスだろう。
一般に姿を現さないはずが、大会の委員長で姿を現しているので、
俺たちは、神ソラスをジッと見ていると、
スタンドや芝生に座っている観客からブーイングが上がり、
「お前がすればいいだろう! 「家族と一緒に、のんびり過ごしたい!!
「行ったことのない国に行ってどうするんだぁ!!! 等が上がり、
『好きじゃない国なら、消滅するとか言えば、後から消滅させるから……
アルテイラは、その言葉を聞いて、
ペットボトルを手から離して地面に落とし……
「出来るわけないだろう!! 後が怖いわ!!」
「お前は他人に任せてどうするんだぁ!!!
『え、ええとね……
急に可愛らしい声に変わって、
『新年を迎えてぇ、男と女がすることといえばぁ……
秘め始め(姫始め) ですよねぇ……だからぁ、私に変わって
やってほしいのぉ。だってぇ、
いつも最後に会って、疲れてやれないからぁ!!!』
神様も、俺たちと同じようなことをするのって驚いていると……
「くだらない理由で放棄するなぁ!!!
『何ですって!! 夫も、あと何回も今の太さで出来ないのよ!!
堪能したいじゃない! その権利を……
スタンドから女性が降りて、神ソラスの方へ向かって行って、
『お母さん! 恥ずかしいから……
『ちょっと! ナルエェェ!!!……
襟を掴まれて、簡単に運ばれていく神ソラスの叫びが消えて行くと、
『運営委員長の挨拶でした。ええと、優勝国には、レベルを1つ上げる
権利を20名様に送ります』
俺たちは、聞いてはいけないことを聞いたような落ち込みのなか、
「はは……人族の神は、降臨していろいろと……
乾いた感じで言うアルテイラに、
「平気で消滅……
ガクガクと震えているダルザニアも言い、
「獣族の神じゃないのが、救いだよな」
神失格の人族の方じゃなくてよかったと思いながら、
「せっかくだから、見て行こうか」
2人も頷き、テントを後にして、野球をするスタンドの方に向かった。
会場は、野球場と言うより、草原にラインを引き、
ベースが置いてあるだけで、町内会の野球という雰囲気を
醸し出していて、リトルリーグを思い出す。
実況もあり、最初は、ミューブル王国とリ・フレタ王国との対戦で、
先行は、ミューブル王国で、1番バッターがアナウンスされ、大二と
呼ばれ、バッターボックスで、バットを持って構えている。
「人族とのゲームで、勇者ですな。見たことがあります」
また、鑑定をしている感じで、「俺は覚えていないな。直接戦った
わけじゃないしな。基本立っていただけだし……
少し笑って、アルテイラを見て言った後、
男に向けて、女性から、「あなたぁ! 頑張れ!!
「まずは、塁に出ることよ!! 「ピッチャーを倒しなさい!!
と掛けられ、危ないのもあるが、リア充めと思いながら見てると、
がっしり体形にもかかわらず、バントをして1塁に出た。
「レベル3と出てますが、速いですな」
「俺ほどじゃないけどな」
険しい顔でダルザニアが言っていると、
解説は『逃げ足は速い、女を作るのも早い、その技術の成果ですね」
と言ったのを、「この前、俺より早く逃げていたくせに!!!
と1塁ベース上で男は叫び、観客から笑い声が上がるなか、
『装着するのに、時間が掛かるからだろう!!』
と弁解していて、解説を見ると、先程テントに居た光悦がしていて、
実況は、つかさがしていて、俺たちよりも先に来てるのに驚きつつ、
試合は進み、2番、3番は三振になり、「4番、ピッチャー、ロックティラ」
と呼ばれ、打席に立つ男からは、勇者とは違うが、アルテイラも息をのんで
見ており、ダルザニアさえも委縮しているのが分かるほど怯えていて、
相手のピッチャーから「師匠! 全打席で、師匠を打ち取れば、
我が国に来てもらい、私の相手をしてもらいますよ!!」
右手にボールを持ち、バッターボックスに向けて言ってるのを、
「サークレット! お前の相手などしない! 国もいかん!!」
鋭い目つきで言い返していると、
「そうよ! あなた! 凹ましてください!!」
「お父ちゃん! 負けるなぁ!!」
「私を抱いてくれる方です! 私の夫になるんだからぁ!!!」
女性や子供から声援されて、
『王女様が、公の場で言う言葉じゃないと思いますが……
つかさが言い終わる前に、投げた球をジャストミートして、
ホームランとなり、「あれくらい、飛べば取れるだろう」と
文句言うピッチャーに、『変な道に行かせないためでしょうね』
『取っても、飛ばされるでしょう』と解説していて、クラブを地面に
叩きつけて嘆いていた。
試合は5回まで終わり、2対0で、ミューブル王国がリードしているが、
此処から特別ルールとなり、観客の中から双方3名まで指名して、
交代できるということで、リ・フレタ王国はピッチャーに女性を指名して、
「女性ですか……勇者ですが、3ですな……
アルテイラは言って考え込み、「人間の女は使えないのに、
人族はよく使う!!」と周りを気にせずに言うダルザニアに、
「何にも知らないのに…… 「情報が無いのは……
「女に負けて、さっきから落ち込んでいるのに…… など
周りから言われて、ムッとするダルザニアを他所に、
審判のゴーレムが、キャッチャーをするようで、
『セント・ギアのドラゴンシリーズのレッド・ドラゴン【スオウ】が
するようです』 『ミサトのボールを受けて無事なのは
あいつくらいですから、俺たちは出れませんから……
代わりのゴーレムが審判をするために来て、投球練習があり、
物凄い風切り音とその余波で俺たちもファっとする感じを受けながら、
バッターボックスに立つ選手は鎧を着て構えて、試合は再開し、
ミューブル王国側も、魔族の女性を出すが、3人か1人かで揉めたりしながら、
9回まで来て、両方のピッチャーの女性は、毎回敬遠で塁に出るが、
後は押さえられて、2対0で、ミューブル王国側が勝利を収めた。
俺たちは、次の試合のミューブル王国対コンピーコム王国の戦いは
見ずに此処を離れた。その際に、魔族の女性から、3段の御節を受け取り、
ミューブル王国に向けて歩き出した。
俺は、手に持つ銀色の保温カバンに入った御節を見ながら、
「此処は何処だよって感じだったな」
2人を見ながら言うと、
「……そうですな。それに、いろいろな話が聞けました。
神が、別の神が人族を倒したのですな」
アルテイラは吹っ切れた感じで語るのを聞いて、
この世界の神は、3人いるが、本当は1人で、つかさの仕える神は、
この世界に用事があって来たらしい。ミューブル王国が気に入ったのか
29か国の戦いの時は、友好の証で1回のみ戦いに参加して、
後は傍観するらしい。俺も任務が終わった感じだが、
ミューブル王国に忍び込んで来ている獣族側と
会わないといけないので向かうが、つかさの神に会ったら
つかさみたいに眷属にしてもらおうかなと考えながら、
「ツカサの……神か……」と呟きながらダルタニアを見ると、
落ち込んでいたり、女性に負けたことを嘆いていたり、
ロックティラに怯えたり、ピッチャーをしていた女性たちに
恐怖したりして、いろいろな表情をしていたが、使用している剣の
真の性能を聞いて、女性たちには無理だが、ロックティラを
超える目安を目指して、顔を上げて、目に光が宿り、
俺たちが知っている獣族側最強騎士として、力強く街道を歩いている。
御節は、家は買わなかったなぁ
うむ! 日持ちするのが多いですな
ブラック・ブローンか、いい味がついている
伊勢エビの代わりか……
元の世界に帰ったら、正月は御節だな!!
次回
第84話 新年の挨拶……
此処が、神界! 明美の家は?
私たちの家ですけど……
ダーリンは無いのか?
権利はあるけど、住む予定ないからなぁ……
つかさは?
人数多いし、土地も高いから別の世界かな
そ、そこで、王様ね!!
冒険者で十分で、す!!!




