ゴクア・クーダ
微シリアス
ジャン・ケンスキ・スギルは巨大都市ケーンジャンへ向かっていた。
スギルのまわりには草原が広がっていて、そこにあるものは街道に沿って生える木しか無かった。平和だなぁ、とスギルは考えていた。しかし、その平和はすぐに終わった。
突然、木の影からイデスと同じような格好の3人組が飛び出してきたからだ。
「...なんだお前ら」
「ヒャッハー!お前がイデスのアニキを倒した奴かぁ?」
「ハッ!そうでもそうじゃなくても、ただお前を倒すだけだぁ!」
「やってやるぜぇ!」
イデスのアニキ、と言うことはイデスは何らかのグループに入っていたのか?いや、まずはこの3人組だ。したっぱ感溢れる声と服装をしている(イデスとは違い、装飾が一切ない)。しかも、勝手に話を進めている。
俺はため息を吐いた。
「ヒャッハー?自分の不幸さに嫌気がさしたかぁ?」
「ハッ!すぐに楽にしてやるぜぇ!」
「やってやるぜぇ!」
3人組に少しイラついてきた俺は、直ぐ終わらせようと構えた。
「ヒャッハー!抵抗する気かぁ?」
「ハッ!無駄だぜぇ!」
「やってやるぜぇ!」
「ハァ...レッツ」
「エン!」
「ジョイィィ!」
「やってやるぜぇ!」
「「「じゃんけんバトル!!!」」」
俺が出した手はグー。相手が出した手は上からグー、チョキ、パーだ。良い考えだと思う。相手がどの手を出しても対処できる。3人いるからこそ出来る技だ。
俺は3人組が出した手に少し感心しながら、技名を叫んだ。
「爆裂!グー!!」
相手の方に向かってパンチを打ち出す。それに何かを感じたのか、3人組は狼狽える。
「ヒャッ!?ハァァ!?」
「ちょっ!!やばっ!!」
「やってやるぜぇ!?」
ドォォォォン!!
瞬間、俺の拳が爆発した。
この技は威力が高いが、溜めが長く、使うと数日は筋肉痛に悩まされる厄介な技だ。大抵はこれ1発で倒せる。3対1なのだからこれくらいは良いだろう。
爆発により舞っていた砂煙が晴れると、青い膜のような物が見えた。
「ヒャッハー!まだ行けるぜぇ!」
「やってやるぜぇ!」
どうやら、やってやるぜぇ!の奴が技を防いだようだ。俺の爆裂グーを防ぐとは、なかなかやるな。しかし、全員技を防いだわけではないらしい。ハッ!の奴が離れた場所で倒れている。モロに食らったようだ。
「ヒャッハー!反撃だぁ!」
「やってやるぜぇ!」
ハッ!の奴は気にしないのか?...絶対仲が悪いな。
「ヒャッハー!スネークパンチ!」
「やってやるぜぇ!」
ヒャッハー!奴は右手を蛇の形に、やってやるぜぇ!の奴は出していたバリアを動かした。ヒャッハー!の蛇は伸びるようだ。蛇がバリアを避けながらこちらに向かってくる。
「ヒャッハー!食らいやがれぇぇ!!」
蛇が俺に噛みつこうとする。だがそんなのは村で何回も見た。対処方法はいくらでもある!俺は右手を蛇の口に向かって打った。
「爆裂!グー!!」
ボムッ!!
こもった爆発音が聞こえた。逃げ場のない爆発は蛇の口から伸びる体を通っていく。そしてその先にあるのは、
「ぶべらっ!?」
ヒャッハー!が勢いよく吹き飛んだ。奇声をあげて後ろへと飛んでいく。やってやるぜぇ!はバリアを自分のまわりに張って爆発を防いでいた。絶対仲悪いよね!?
まあ、あとはやってやるぜぇ!だけだ。俺は油断しないように、と考えながら構えた。
「やってやるぜぇ!.....やっと2人きりになったか」
え!?
さっきまでの高い声ではなく、とてつもなく低い声でやってやるぜぇ!がしゃべった。まずお前話せたのか...
「ふん...貴様の事はイデスから詳しく聞いている。イデスが言った通り、強いようだな」
さっきと今が違いすぎてついていけない。しかし俺は1つの疑問を口にした。
「お前はイデスが多分入っている何らかのグループの奴なのか?」
「ふっ...イデスは私の部下だ。私の名はゴクア・クーダ、『THE・闇拳団』のボスだ」
THE・闇拳団...。俺がまだ村に居たときに聞いた事がある。小さな村や町を襲い、金品を奪っていく暴力団の集まりだと。楽しく、安全に行うじゃんけんバトルを悪い事につかう奴ららしい。
「私の顔を知っている者は大幹部しかいない、この顔も作り物だ。コイツらとはちょっと前に組んだだけだ。今回の目的は貴様だ。貴様を分析するためにここに来た。貴様の手は既に2つ分かっている」
「なぜ俺の事を分析する!」
俺を分析しても何もないはずだ。クーダはニヤリ、と笑って答えた。
「そう、貴様の事だけを分析しても意味はない。私が分析しているのは『じゃんけんバトル』についてだ。貴様は大賢者 ナーノの子孫だろう?大賢者 ナーノがどうやって『じゃんけんバトル』を定めたのか、『じゃんけんバトル』とは何なのか、それを貴様から分析しようとしている」
....『じゃんけんバトル』には謎が多い。クーダが言った通り、『じゃんけんバトル』は何なのか。それは王国の研究者でも分かっていない。
俺がそう考えているとクーダは『じゃんけんバトル』のフィールドを破壊した。
「なっ!?どうやってフィールドを!?」
「このような障害、私には関係ない。ふっ...また会おうジャン・ケンスキ・スギルよ!!」
「待て!ゴクア・クーダ!!」
ボンッ!!
俺とクーダの間に黒い煙が発生した。その煙が晴れた時にはクーダと倒れていた2人は居なくなっていた。
『THE・闇拳団』、『じゃんけんバトル』の謎、この2つが後に大事件を引き起こす事をまだ、スギルは知らない。