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時かける少女  作者: 大橋むつお
65/90

65・スタートラック・5

時かける少女


65『スタートラック・5』         




 さすが、火星で有数のマースアリーナだ。2万人収容の会場前は長蛇の列!


 開場2時間前にデジタルリハを簡単にやった。火星のAKBファン1000万人の内から2万人のファンをモニタリングした情報で、デジタル観客を可視的に再現。その2万人分のホログラム相手に、曲やベシャリの反応をモニタリング。とくにベシャリはMCだけでなく、他のメンバーや観客との息の合方まで試した。ハンベに取り込んだ火星の時事ネタや、芸能界の情報まで、うまく絡めることができた。曲は30曲。『あいたかった』から『永遠のAKB』まで、念入りにやった。特に心配した地球との感覚のズレは少なかった。というか、火星の若者たちの方が熱く、AKBを古典芸能バイブルとしてではなく。今の自分たちのエモーションとしてとらえていて、それだけ、ダイレクトに反応してくれることが分かった。


 デジリハなので、圧縮し3時間の公演にもかかわらず30分で終わった。むろんミナコの自信があればこそであったが。


 本番までの時間をミナコは開場待ちの観客の中に混じってみた。モニタリングのデジ観客ではなく、部分的にでも生の観客のエモーションを知っておきたかったのだ。


 筋骨タクマシイ老若取り混ぜてのグループの中に入ってみた。ここは、他のグループと違ってガタイや風貌のわりに大人しい。

「お待たせしております。開場まで30分です。いましばらくお待ちください」

 スタッフのユニホームを着たミナコは丁寧に声を掛けた。ハンベが「極フロンティアからの観客」と教えてくれた。北極の開拓団の人たちだ。地球の40%の引力しかない火星なので、大気形成のためや、人間に適した環境を作るために、赤道周辺は地球と同じ重力にしてある。しかし、それ以外は40%の引力のままである。ここの重力は堪えるはずだ。


「重力疲れなさいませんか?」ミナコは聞いてみた。

「あんた、地球からきたアルバイトだろ」

「あ、はい」


 バイトとは認めても、総合ディレクターだとは言えない。こんな小娘がオペレートしてるんじゃ、申し訳ないほど苦労して見に来てくれているんだ。

「確かに極地の重力は、ここの40%だけどね、その分重労働に耐えている。日頃から200マースキロぐらいの重さのものを扱ってるんだ。並の赤道人よりは丈夫さ」

「いちおう、重力シンパサイザーはつけてきてるけどね」

「試しに、そこの車持ち上げてみようか」

「おい、よせ」

 年輩の仲間の言うことも聞かず、若者二人が、路駐している高そうなスポーツカーを持ち上げ、焼き鳥を焼くように、クルクルと回し始めた。スポーツカーとは言え、500マースキログラムはある。周囲の人たちが目を丸くしている。


「おい、汚い手で、オレの車を触るんじゃない!」


 前列の方から、いいとこのボッチャン風が駆け寄ってきた。

「ここは路上駐車は御法度だぜ、ニイチャン」

「ナンバーをよく見ろ、政府の公用車だぞ!」

 ボッチャンが、鼻息を荒くした。

「公用車にスポーツタイプなんてのがあんのかい?」

「オレはな……」

 ボッチャンは瞬間ハンベの個人情報の一部を解放した。

「これは、とんだVIPだ」

「あなた、国務長官の息子!?」

 ミナコも驚いた。

「あ、ついムキになっちゃった。ま、そういうことだから……」

「待ちな、ボンボン。国務長官の息子だからって、路駐していいのかい」

「だから、公用車だって!」

「こんなガキのオモチャが公用車だなんて、ふざけんな!」

「なんだと!」


 ボッチャンが、へっぴり腰でスゴムと、取り巻きの若者が7人ほどやってきた。


「この、北極の野蛮人に、キャピタルの礼儀を教えてやって!」

「こっちも教えてやらあ、赤道がヌクヌクしてられんのは、極地のお陰だってな!」

「あ、あ、あ、あの、みなさん……」

 ミナコのか細い声など聞こえもしないで、もしくはシカトして、大乱闘になった。


 これじゃ、ショーが……いいえ、コンサートがムチャクチャになる。そしてミナコは切れた。


「いいかげんにしなさい、みんなAKBのファンなんでしょう!!」


 その一言で、みんなが静かになった。あまりのインパクトにミナコ自身驚いた。

「そうだよ……おれ達、なにやってんだ?」

「そうだな、同じファンなんだ。オレ、車パーキングに持っていく」


 ビックリするような素直さで、大乱闘は収まり、みんな大人しく列に戻り始めた。さすがにAKBの威力だと思った。


「あんた、似ている……」

 極地組の年輩のおじさんが言った。ミナコは、あたりを振り向き、自分であると分かってドッキリした。

「あたしが……誰に?」

「あ、いや……その、名前は忘れたがAKBの選抜メンバーのだれかだったかに」


 ミナコはいぶかった……AKBのメンバーは、選抜はおろか、研究生の全員まで知っている……ま、オジイチャンと言ってもいいくらいの年輩。きっと何かの思い違い。


「おっと、開場の時間だ」


 ミナコは、開演にそなえ、オペレーションルームに急いだ……。



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